※読んだ本の一部を紹介します。
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
はじめに
松本清張といえば、社会派推理小説のパイオニアのイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。
しかし、デビュー作は歴史小説で、実際の人物を取り上げたモデル小説や評伝も数多く残されています。
ノンフィクションの長大なシリーズに、50代からは古代史への情熱をを燃やしました。1人の作家とは思えないほど、質も量もジャンルも豊かな作家です。
目次
書籍情報
タイトル
文豪ナビ 松本清張
出版
新潮文庫
推理長編 『点と線』
松本清張が大きく飛躍することになった作品が1958年に刊行された『点と線』と『眼の壁』です。マニア中心だったミステリーが広範な読者に解放され、エンタメの柱となりました。
省庁の汚職を殺人の動機にしたことや、犯人のアリバイトリックに飛行機を使った点など、戦後の諸相を踏まえたミステリーを創出しようという意志が窺えます。
旅行雑誌「旅」で連載だったこともあり、旅情もたっぷりです。旅行が大衆の娯楽となろうとしている時代が求めた名作といえるでしょう。
清朝はこの作品を機に、流行作家の道を歩み続けることになります。
歴史・時代小説 『西郷札』
週刊朝日の「百万人の小説」に応募し、三等に入選した清張のデビュー作です。
負け組の雄吾はインサイダーの情報を使って一発逆転を目論むけれど、単純なサクセスストーリーにはなっていません。
食べるものも着るものも足りず、われわれには手の出ないヤミ市だけが繁盛する
こ狡く立ち回って世渡りする人間への皮肉を込めたように思える作品です。
ノンフィクション 『日本の黒い霧』上・下
小説だと多少のフィクションを入れなければならず、実際のデータとフィクションとの区別がつかなくなってしまうと述べています。
あとがきには、
それよりも、調べた材料をそのままナマに並べ、この資料の上に立って私の考え方を述べた方が小説などの形式よりもはるかに読者に直接的な印象を与えると思った
と記しています。
独自の清張節ともいわれる文体を作り上げていったのです。
古代史 『陸行水行』
清張が古代史を題材とした最初の作品です。
邪馬台国問題が九州山門説と畿内大和説に二分され、東大閥と京大閥に対応していると当時はみなされていました。
一介の郷土史家がそのどちらにも属さない新設を打ち出して学会に挑戦するという物語はいかにも清張好みのテーマです。
私の発想法
私が『ゼロの焦点』で、なぜヒロインを小舟に乗せて沖へ流してしまったかといえば、例えば睡眠薬で死ぬとか首吊りをするとか、あるいは入水、海とか川に身を投げるとかいうことになりますと、当然これは解剖に付されます。
実際の解剖は医術用の刃物なり金槌なりで遺体をバラバラにするのです。頭蓋骨をのこぎりのようなもので引いて…目も当てられません。自分のヒロインをそんな酷い目に遭わせたくありませんでした。
もう1つ、青木ヶ原といって、富士山の山麓(さんろく)に、溶岩の上に密生したジャングル、自然林があります。西湖(さいこ)の側です。『波と塔』という小説をかいたときに、ヒロインを自殺させなければならなくなりました。これも、首つりだとか薬の引用だとうか、海や川に身を投じるということはさせたくなかった。
実際に行ったときには、西湖のそばにユースホステルがございまして、その横から小道がついています。青木ヶ原の密生林の中に入るわけです。迷い込むと出口が変わらなくなって、磁石が効かなくなります。土地の消防団や村の人も用心する場所です。まさに、自分の遺体が他人の目に触れられない、絶好の場所です。
一度自分が旅をして、目に触れたものを小説の舞台に使うことになります。
感想
サイト管理人
テレビのミステリードラマのイメージが強い松本清張ですが、ないものから想像するのではなく、実際に目に触れた細かい部分を小説に落とし込んでいたわけです。
当時の旅行ブームも後押して人気になったようですが、ちゃんとした洞察力と自分なりの解釈が重なってできた成功例なのだと感じました。
松本清張のミステリードラマシリーズを観る目が変わりそうです。