「若者」とは誰か/著者:浅野智彦

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書籍情報

タイトル

「若者」とは誰か アイデンティティの社会学

発刊 2024年11月20日

ISBN 978-4-309-23166-2

総ページ数 279p

書評サイト 読書メーター

出版社リンク 河出書房

著者

浅野智彦

東京学芸大学教育学部教授。
専門は社会学。

出版

河出書房新社

もくじ

  • まえがき
  • 第1章 アイデンティティへの問い
    • 1 アイデンティティという「問題」
    • 2 統合を目指す自己:エリクソンのアイデンティティ論
    • 3 多元化する自己:リースマンの社会的性格論
    • 4 統合と多元化との緊張関係
  • 第2章 それは消費から始まった
    • 1 消費とアイデンティティ
    • 2 消費社会論の時代
    • 3 消費社会化とアイデンティティの変容
    • 4 虚構化する自己
  • 第3章 消費と労働との間で
    • 1 臨教審:個性を尊重する教育の登場
    • 2 ゆとり教育:個性の二重の含意
    • 3 学校から労働市場へ: やりたいこととしての個性
    • 4 個性尊重教育から多元的自己へ
  • 第4章 「コミュニケーション不全症候群」の時代
    • 1 オタクの浮上
    • 2 オタクとは誰のことか
    • 3 コミュニケーションの失調としてのオタク
    • 4 消費からコミュニケーションへ:転轍機としてのオタク
  • 第5章 コミュニケーションの過少と過剰
    • 1 自閉主義
    • 2 友人関係の濃密化
    • 3 コミュニケーション希薄化論
    • 4 過剰なコミュニケーション/過少なコミュニケーション
  • 第6章 多元化する自己
    • 1 状況志向化する友人関係
    • 2 状況志向的友人関係と自己の多元化
    • 3 オタクにおける多元的自己
    • 4 多元性から希薄化への読み替え
  • 第7章 多元的自己として生きること
    • 1 多元的自己の広がりとそれへの評価
    • 2 自己の多元化は生存を助けるか
    • 3 自己の多元化は政治参加・社会参加を抑止するか
    • 4 自己の多元化は倫理的たりえないのか
    • 5 出発点としての多元的自己
  • 補章1 拡大する自己の多元化世代・時代・年齢
    • 1 自己意識の構造
    • 2 自己多元性得点の推移
  • 補章2「若者」はどこへ行くのか
    • 1「若者」の溶解
    • 2 多元的自己のその後
    • 3 若者論の行方

書籍紹介

 この書籍は、若者という存在を単なる年齢層ではなく、社会的な位置付けやアイデンティティの問題として捉え直しています。浅野は、若者たちが直面する混乱や不安定さを、社会学的な視点から分析しています。現代の若者たちは、伝統的な価値観やキャリアパスの崩壊、経済的な不安定さ、そして情報化社会によるアイデンティティの多様化など、さまざまな要素に影響を受けています。

「若者」のレッテル

 若者たちが「若者」というカテゴリーにどう対応し、あるいは抵抗するかという点です。書籍では、若者が自分たちの存在をどう解釈し、どのように自己表現を行うのか、そのプロセスが詳細に描かれています。例えば、若者がSNSやサブカルチャーを通じて新たな自己像を構築する様子、あるいは「若者」としてのラベルから逃れるための努力が描かれています。

 浅野は若者の「無関心」や「ニート」といった現象を、単なる社会問題としてではなく、若者自身が選択する一種のライフスタイルや抵抗の形態として見ています。彼らが社会から距離を置くことが、逆説的に新しい社会参加の形を生み出していることも指摘されています。

若者の生活

 書籍ではジェンダーや階級、地域性といったさまざまな軸から若者のアイデンティティがどう形成されるのかを探求しています。都市部と地方の違い、男性と女性の経験の違い、そして経済状況による若者の生き方の差異が詳細に論じられています。

 得られる教訓は、若者という存在は静的なものではなく、常に変化し、社会と交錯しながら新たな形を模索しているということです。浅野の分析を通じて、我々は若者の問題をただの社会的な「問題」としてではなく、一種の文化的・社会的な現象として理解する必要があると気付かされます。

 この書籍は若者たちの多様性と複雑さを強調し、我々が彼らの経験を一面的に捉えることの危険性を示しています。社会が若者に何を求め、若者が社会に何を求めるのか、そしてその間でどう折り合いをつけるのかというダイナミクスが、深く、そして共感的に描かれている一冊です。

試し読み

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

オタクとは誰のことか

 オタクについて語ろうとするときはじめに問題になるのはその定義です。2000年代後半以降、「みんながオタクになった」とも「オタクはすでに死んでいる」ともいわれる状況の中、オタクの定義が一筋縄ではいかないことは誰の目にも明らかとなっています。オタクの像が曖昧になってきたといってよいでしょう。

 オタクの定義をおおざっぱに把握すると次の3点が見受けられるでしょう

  1. 彼らが消費している対象
  2. 作品を消費する過程で彼らが展開するコミュニケーションの様式
  3. そのコミュニケーションの根底にあると周囲から想定される彼らの人格

 誰かを、あるいは自分自身を、ある特定の集団に属するものとして切り出すといった操作をオタクという言葉を用いて達成されます。想像しやすいのは、アニメや漫画、ゲームに夢中になっている若者です。

 曖昧になってきているとはいっても、オタクは口下手で、仲間内では饒舌で、外に出ると消極的であるというイメージが今も強烈に残存しています。恋愛にも奥手といえば想像しやすいのではないでしょうか。

 消費社会論からコミュニケーション社会論に変化した時代の潮流が、オタクにおいてもアイデンティティの視点からコミュニケーションの視点に置き換わりました。今や、どんな対象についてもオタクであることが可能です。

多元的自己の広がりと評価

 自己の多元性が生き延びる上で利点を持っているとしたら、その理由には二通りのものが考えられます。

 第一に、流動的な状況に対応するためには、自己もそれに応じて臨機応変に対応できる柔軟さが、自己の多元性として生かされるというものです。環境への適応、変わり身の早さなどが当てはまります。

 第二に、自己の多元性と表裏一体に保たれている関係の多元性というものです。多様な関係を持っている方が、社会経済的に有利な条件を獲得できます。頻繁に会うような少数の強い関係を持つよりも、ごくたまにしか会わないような関係を多く持つ場合の方が、転職活動には有利です。

 同質的な情報環境を構築して強い絆で結ばれたネットワークは、新しい情報が流れる経路として機能しません。競争的な文脈を参照すると、新しい情報が入らない事態は不利に働きます。

 社会心理学者の池田謙一は、ある調査の結果から、携帯電話のメールを使う人々は、コンピューターのメールを主に使う人々に比べて、人間関係が身近で狭い範囲にとどまりがちであることを見出しています。携帯のキャリアのメールを持ち、その連絡先の範囲内でSNSを活用するといった人々は、社会経済的に不利な状況に追い込まれていく可能性を示唆しているのです。

 メディアの利用を通じて、格差が拡大していくのではないかということを危惧しています。コンピューターなどのツールを使って広く交流をする人と、身近な範囲での情報に踊らされる人との間で、メディアの利用を介して格差が広がる可能性を潜在させているのかもしれません。

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