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目次
書籍情報
増補版 賃金破壊
労働運動を「犯罪」にする国
竹信三恵子
ジャーナリスト・和光大学名誉教授。
朝日新聞社の経済部で働いていた経歴をもつ。
旬報社
- はじめに 増補にあたって プロローグ
- 第1章 「賃金が上がらない国」の底で
- 早朝のインターホン
- シングルマザーが自立できる職場
- 「労組の意見は会社に必要」
- ワークライフバランスの獲得
- 横つながりで買いたたきを防ぐ
- 雇用の受け皿目指し会社をつくらせる
- すごい近いところにいるのに、すごい遠い労組
- 第2章 労働運動が「犯罪」になった日
- ベテラン弁護士を驚かせた捜査手法
- それは経営者の逮捕から始まった
- 「大変なことになりますよ」
- 「軽微な不備」と「嫌がらせ」
- 暴力団事件を思わせる衝立設置
- 公道でのビラまきも犯罪に
- 「連帯が来なければよかった」
- 「コンプライアンス活動」を知らない社会
- 第3章 ヘイトの次に警察が来た
- 「大同団結」の達成
- 6項目の提言
- 大阪港SSという舞台
- 整備不良車や車検証不掲示
- 中央大阪生コンの就労拒否
- 矢継ぎ早のスト対策
- 「ホントに抜けるんやな」
- 大阪広域協組への取材
- 第4章 「暴力集団」という読み替え
- 労働分野の解釈改憲
- 子どもまで巻き込んだ逮捕劇
- 雇用の保障要求も「金品の恐喝」に
- 和歌山県警の出動
- 共謀罪の影
- 「工藤會」摘発の手法
- ダブルスピーク
- 労働法学者たちの危機感
- 「ふつう」ではないが「まとも」な労働組合
- 「裁判所の無知・無理解」
- つくられた企業別労組優位
- 第5章 経営側は何を恐れたのか
- 国会で叫ばれた 「破防法適用」
- 縮小するパイへの危機感
- 暴力団との対峙の歴史
- 「許されない三つのこと」
- 企業の塀をはみ出す労働運動
- 賃上げに天井を設ける政策
- 元総理の「労組を崩壊させなきゃ」 発言
- 「有罪だろうが無罪だろうが関係ない」
- 「草食動物」たちの沈黙
- 「暴対法」という背景
- 「労組をつぶす社会」のジリ貧
- 第6章 影の主役としてのメディア
- 検索したらヘイト
- 「偽装労組」扱いや「嫁」の紹介も
- リベラル野党政治家の追い落とし策?
- SNSが偏見を助長する構造
- 芸能人並みのカメラの放列
- 利用された主要メディアの沈黙
- 「警察取材」という壁
- 情報環境の惨状を立て直す
- 第7章 労働者が国を訴えた日
- 「子どもの誕生日まで出られないぞ」
- 生計の道を断つ保釈条件
- 警察が労働組合法の解釈を説明
- 「逃走して指名手配」の図をつくる?
- 家族への介入
- けんちゃーん、愛してるよ六目
- 求刑と量刑への疑問
- 府労委ではほぼ全話
- 賃上げは「不当な要求による損害」?
- 国際基準から問われる関西生コン事件
- エピローグ
- あとがき
- 補章 反攻の始まり
- 海外からの視線
- 「物語」に合わせた切り貼り
- 11人の無罪確定を生んだもの
- 労働委員会の変質
- 同じ事実、分かれる判断
- 増補版おわりに
書籍紹介
現代の労働環境や労働運動が直面する課題について深く掘り下げた一冊です。
労働専門のジャーナリスト
著者の竹信三恵子さんは、労働問題に詳しいジャーナリストとして知られています。この書籍では、日本の労働市場が抱える構造的な問題、特に賃金の低下や不安定な雇用の増加に焦点を当てています。タイトルにもある「賃金破壊」という言葉が示す通り、長年にわたり労働者の生活を支えてきた賃金体系が崩れつつある現状を、具体的なデータや事例とともに丁寧に解説しています。
労働運動
労働運動そのものが「犯罪」として扱われる傾向が強まっているという指摘です。かつては労働者の権利を守るために重要な役割を果たしてきた労働組合やストライキが、現代では法的な制約や社会的な圧力によって抑圧されている実態が描かれています。こうした状況が、働く人々の声をさらに弱め、不平等を助長していると著者は訴えます。
労働の仕組み
この本を読むと、普段見過ごしがちな労働問題の裏側に気づかされます。経済成長や企業の利益が優先される一方で、労働者の生活がどれだけ犠牲になっているのか、その現実を直視するきっかけになるでしょう。文章は分かりやすく、専門的な知識がなくても読み進められる点も魅力です。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
労組をつぶす社会

非正規労働者が5人に2人にまで増えて、賃金が下がり続ける国になりました。経営側のなかにも、内需拡大んおための賃上げを提唱し、労組と連携したりする動きはありました。それらを押しつぶすように、経済界は、生産性基準原理、労働者派遣の解禁、成果主義、個人請負化と、賃金が上がらない仕組みを繰り出し続けてきたのです。
賃金を上げるには、労働者のひっ迫による市場圧力か、労組による社会的圧力が必要です。安倍政権下で「アベノミクス」と謳われたものは、放っておいても上がる市場経済価値の数字です。その数字に対して、賃上げをするという安倍総理でなくても実行された働き方改革を公言することで、労働者による声、労組による社会的圧力を抑制しやすくなりました。
財務省の「法人企業統計調査」によると2019年度の企業内部保留は475兆円を超え、20年間で株主配当は6倍にもなっています。一方で、日本の平均年収は2015年に韓国に抜かれ、2019年のOECD(経済開発協力機構)の調査では35カ国中24位、先進7カ国中で最下位です。
働き手にカネが回らない労働抑制社会で、貧困が私たちの足元を浸しつつあります。
争議行為発明の天才

2024年10月、2025年2月に予定されている京都事件での湯川の判決を控え、東京都内で開かれた集会の会場に、関生支部の組合員らがやってきました。事件の不当性を訴える旅が始まりました。
逮捕された組合員たちが、密室の取り調べの中でどのように組合脱退を迫られてきたかも暴かれようとしています。労働基本権などの労働者に保障されている権利を侵害し、家族関係まで引き裂いた国の人権侵害の損害賠償を求めて国家賠償訴訟が続けられてきました。2024年には取り調べ録画を証拠として採用する可能性がでています。
国側は、録画でなく、やり取りの文字起こしだけでもいいのではないかと主張しています。ですが、録画を見た関係者たちは、文字ではわからない恐ろしさを、恐怖映像を明らかにすると話します。
下請け構造が根を張る日本社会では、末端労働者が賃上げをしようとすれば、雇い主だけでなく、その上の企業とも交渉せざるを得ません。そうした産業構造を変えるためにの社会運動的な働きかけが不可欠となってくるのです。
アメリカ人の記者は敗戦直後に日本の労働者を評価して『争議行為発明の天才』と記述しています。関西生コン事件は、かつて「争議行為発明の天才」と呼ばれた私たちを沈黙させた事例です。先進国最下位の賃金上昇といった状況を変える第一歩に、反攻を支えることが必要ではないでしょうか。