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目次
書籍情報
不完全な司書
発刊 2023年12月15日
ISBN 978-4-7949-7398-6
総ページ数 253p
青木海青子
人文系私設図書館ルチャ・リブロ司書。
6年の大学図書館勤務を経て、ルチャ・リブロを開設。
晶文社
- 1 司書席から見える風景
- 不完全な司書
- 本という窓
- 古い家で、いとなむこと
- 蔵書を開くことは、問題意識を開くこと
- ルチャ・リブロの一日
- 公と私が寄せては返す
- 窓を眼差した人
- 時間がかかること、時間をかけること
- 諦めた先の諦めなさ
- ペンケースを開け放つ
- 森から来た人達
- 知の森に分け入る
- 葛根湯司書
- 図書館への道
- ルールとのつきあい方
- 偶然性と私設図書館
- 夜の海の灯り
- 2 クローゼットを開いて
- クローゼットの番人が、私設図書館を開くまで
- 幽霊の側から世界を見る
- 当事者であること、伴走者であること
- 絶対あると思って探しに行かないと見つからない
- 探求のお手伝いが好き、レファレンスブックが好き
- カーテンに映る影
- 本と暴力と
- 光の方へ駆ける
- 窓外に見えるもの
- 旅路の一里塚
- 明るい開けた場所に出られるような言葉
- 3 ケアする読書
- デコボコと富士正晴
- 書くことのケア性について
- 「分からない」という希望
- 生きるためのファンタジーの会
- 木炭で歯をみがくことと、オムライスラヂオ
- 私の影とのたたかい
- 背後の窓が開く
- 「土着への処方箋」のこと
- 「本について語り合う夕べ」のこと
- 4東吉野村歳時記
- 峠をのぼるひと、のぼる道
- 屋根からの手紙
- とんどと未来
- 馬頭観音祭と、往来と
まえがき
人文系私設図書館ルチャ・リブロは、私がそれまで働いていた図書館とは色々な意味で異なった場所です。
農家によくある田の字形の座敷を本棚で区切って、書庫、観覧室と称していますが、そこは私達の書斎、居間でもあります。本棚に並ぶ本は私蔵の本ばかりで、「サービス」ではなく「おすそわけ」として開いている感覚です。
ルチャ・リブロの一日
朝7時、家人が起き出して、犬のおくら主任のご飯に散歩、猫のかぼす館長にご飯をあげてくれます。
11時、快感と同時にご来館されるお客さんもおられますが、午前中はどなたもいらっしゃらないことも少なくありません。そんな時は本の天の部分を筆で掃除したり、橋の辺りの落ち葉を掃除したりして過ごします。
14時ごろはお客さんがよく入る時間です。寒い時期はどの席に座っても寒い思いをしないように気を使います。
16時以降はお客様も少なくなり、20時までに、かぼす館長にごはんをあげたり、おくら主任のご飯と散歩を手配します。
閉館したら観覧室でごろ寝して、しばしの休息を楽しむことが多いです。
クローゼットの番人
学生時代、一人暮らしの部屋で、本棚をクローゼットの中にしまい込んでいたことをふと思い出しました。本を読みたい衝動を抑えられないときは、わざわざクローゼットを開けて禁書を取り出していたのです。
気がつけば今では、私蔵の本を一般に開放して観覧・貸出に供しています。
本を読むのが好きなことをそんなに人に知られたくなかったので、クローゼットに本をしまうという発想に至ったのです。
今思えば、大学で国文学を選んだ人達をもっと信頼できたら良かったと後悔しています。
本について語り合う夕べ
読書会ではお互い初対面なのでぎこちない感じですが、近所の温泉に浸かり、一緒にご飯を作って食べる頃には心がほどけて、深い話もお互いできるようになっているので、毎回楽しみにしている会です。
弱さの開示をすることもしばしばありますが、解決するというよりは、一緒に頭を抱えるというのが大切なのではないかと思います。
「一緒に頭を抱える」ことを思う時、向谷地生良、辻信一『ゆるゆるスローなべてるの家 ぬけます、おります、なまけます』が頭に浮かびます。精神障害当事者のための地域活動拠点を作った向谷地さんと、文人類学者の辻さんが「ゆっくり」をテーマにして語り合う書籍です。
解決はしないけれど、とても豊かなものが醸成されるかもしれない時間だと考えています。