※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
目次
序章 24年春季労使交渉での賃上げ
植田氏は4月10日の就任記者会見で、次のような発言をしています。
基調的な物価の動き、インフレ率とわれわれはよく言ったりするが、これが本当に安定的・持続的に2%に達する情勢かどうかというのを見極めて、適切なタイミングで正常化に行くのであればいかないしといけないし、それはなかなか難しいということであれば、副作用に配慮しつつ、より持続的な金融緩和の枠組みが何かということを探っていく、その辺の判断をきちんと行うということだと考えている
24年の春季労使交渉で高めの賃上げが続き、賃金の上昇を伴った持続的・安定的な物価2%が実現しそうになる絵が見えないなら、金融緩和政策の持続性を上げるため、副作用を軽くする政策修正を実施する展開があり得ます。
1年半のレビューで、2%達成のメドが経たないなら、見切り発車で緩和政策より持続性の高い枠組みに変える可能性があるということです。
過去4半世紀にわたる政策のレビュー結果を何らかの形で参考にすると思います。
書籍情報
植田日銀
こう動く・こう変わる
第1刷 2023年7月7日
発行者 國分正哉
発行 (株)日経BP、日本経済新聞出版
発売 (株)日経BPマーケティング
ブックデザイン
装幀 ベターデイズ
組版 マーリンクレイン
印刷・製本 中央精版印刷(株)
ISBN 978-4-296-11835-9
総ページ数 290p
清水功哉
日報経済新聞編集委員。東京やロンドンで、長年、金融政策や為替・金融市場、資産運用について取材。
日経BP 日経プレミアシリーズ
- 序章 さっそく動いた植田日銀
初の金融政策決定会合で新たな政策指針を示し、政策レビューの開始も決定- 日本初の杞憂製作のイノベーションを主導した植田氏
- 追加緩和より政策修正や正常化の方向性を示唆
- 重み持つ24年春季労使交渉での賃上げ
- 政策の修正か正常化か、1~1年半以内のどこかで動きか
- 長期金利操作修正は早期のサプライズ的決定に要注意
- 学者とは別のもうひとつの顔が
- 学者とセントラルバンカーでは判断が異なる
- 変動型住宅ローン金利にはどんな影響が?
- 普通の人々の生活への影響力が強まった金融政策
- 第1章 植田さんってどういう人?
「理論」と「政策」を行き来してきた日銀のトップ- 「様々な経済現象は社会の現場で起きている」
- 専門分野を数学から経済学へと切り替えた
- 保険会社に内定も学者になりたい思い捨てられず
- 日米の学問への政府部内の空気に複雑な思い
- 通貨供給量めぐる「岩田・翁論争」を裁定
- 福井氏が人選を助けていた日銀審議委員
- 日銀HPではもう読めない審議委員就任記者会見
- 「量的緩和」にも言及していた審議委員就任時
- 「メディアデビュー」で円安の混乱招いた苦い経験
- 学者と当局者では対外的な発言時心構えに違い
- 長期金利を低位安定させる「秘策」の導入を主導
- 日本初の金融緩和政策のイノベーション
- 総裁主導のゼロ金利政策解除に反対票
- 植田氏が感じた株価下落リスクが顕在化
- 前の晩まで執行部は「賛成してくれないか」と
- ゼロ金利解除を批判した黒田氏
- リフレ派からあまり反対論が出なかったワケ
- 大勢順応的にならないが極端な方向にも行かない
- 弟子の育成が十分できなかったのが心残り
- 欧米経済学の輸入で始まった日本の経済学の不幸
- 若い世代はもっと海外に情報発信を
- 総裁就任固辞の雨宮氏は経済学者の名前を挙げた
- 財務次官はもう日銀総裁になれないのか
- 海外人脈持つ人物が日銀のトップに就いてきた
- 2人の副総裁、氷見野、内田両氏も国際派
- 続く日銀総裁の「学歴サイクル」、次は法学部卒?
- 第2章 植田日銀は何を引き継いだのか
「非伝統的」から「異次元」へ、四半世紀の金融緩和の光と影- 3つの点で重要な1998年
- 旧大蔵省だけでなく旧郵政省までが金融政策に影響力
- 現行日銀法下で初の金融緩和
- 「金利はゼロでもいい」と速水総裁
- ゼロ金利+時間軸政策
- ゼロ金利解除への批判が生んだ量的緩和導入
- 庁的緩和導入時に強化された時間軸政策
- 銀行券ルールの真意とは
- 金融システム安定の効果はあった量的緩和
- リーマン・ショック後に金融緩和に逆戻り
- 始まったETF購入、インフレ目標を採用
- デフレ脱却という結果は出せず
- 似て非なる異次元緩和の短期決戦と持久戦
- 量的緩和と質的緩和の合わせ技
- 一段と強まって事実上の株価下支え効果
- 円高防止狙ったマイナス金利政策の誤算
- 短期決戦から持久戦への転換を迫られた
- 異次元緩和の軸足は資金供給から金利操作へ
- 下がりすぎた長期金利の是正という意味も
- 長期のデフレで日本人の物価観は「適合的な形成」に
- 長期金利の変動容認幅を拡大
- 巨額に膨らんだETF購入を抑制
- 大幅な円安という副作用
- 長期金利の上限を引き上げ
- 上がらない賃金・物価を前提とした考え方・慣行
- 企業収益や雇用の改善などに貢献しデフレでない状況現実
- 異次元緩和のもとで円高修正が進んだ
- 円高修正が企業収益を改善し株高もたらす
- 失業率や有効求人倍率など雇用指標も改善
- にとびとの雇用への不安も後退
- 楽にならなかった人々の暮らし
- 雇用環境改善の一方、所得環境は好転せず
- 賃上げが進まぬ背景に企業の成長期待低下
- 日本の潜在成長率は約3分の1に
- 成長戦略の重要性認識させたのが異次元緩和の功績?
- 第3章 植田日銀の金融政策はどう動く?
政策の修正や正常化のタイミングを占う- 長期金利操作の修正は早い段階で決定も
- 植田日銀も2%物価目標を維持するのはなぜか
- 世界標準に合わせた方が為替相場は安定しやすい
- 日銀が目指すのは持続的・安定的な物価2%
- 物価動向を左右する重要な要素は「賃金」
- 植田総裁が重視する「物価の基調」
- 政策の「修正」か「正常化」か
- 異例の長期金利操作には多くの副作用が
- 財政規律が緩んだとの指摘
- 為替相場の変動を過度に大きくした
- 金融機関の収益にもマイナスに
- 過度の円安なら長期金利操作の早期修正も
- 長期金利操作を「継続」しつつ「実質撤廃」する秘策
- 長期金利操作の修正はサプライズ的に決める可能性
- 金利が下がりすぎると経済にマイナスになることも
- 副作用軽減の理屈でマイナス金利を解除できるか
- 日銀は既にETF購入を大幅に抑制
- OBからも出た日銀保有ETF購入の個人への譲渡案
- 割引価格での保有ETF売却に慎重論も
- 正常化後も長期金利への「関与」は続きそう
- 正常化の時期が前倒しされる展開も
- 米国の利下げが始まると¥日銀の自由度は低下
- 米国の利上げは最終局面に
- 国政選挙の直前には動かない日銀
- 第4章 植田日銀はこうシグナルを発する
日銀ウオッチングのコツ- 短期政策金利の転換は事前に情報発信
- 2000年のゼロ金利解除、日銀は事前にどんなヒント?
- 速水総裁の口から踏み込んだ発言が
- 海外メディアを使った情報発信も
- 有力閣僚から牽制発言
- 「早期に金融政策をもとの姿に戻すのが筋」と総裁
- 植田日銀が使いそうな様々な情報発信の手段
- 3つの顔を持つ総裁、どの立場で発言しているか
- 他の政策委メンバーの意見も紹介する植田総裁
- 総裁から重要な発言が飛び出す国会答弁
- 決定会合の当日に国会で答弁した副総裁も
- パフォーマンスだけではない政治家の質問
- 円買いを招いた「黒田ライン発言」
- 「黒田ライン」を下回った円の実質実効相場
- 決定会合の議事要旨の現状判断や見通しにも注目を
- 日銀の判断には4つの要素が
- 「中心的な見通し」に対して「リスク要因」の説明も
- 25年度物価見通しの「下振れリスク」は変化するか
- 展望リポート(全文)の「BOX」は必読
- 短観で重み増す「企業の物価見通し」
- 注目すべき基調的インフレ率補足の指標
- 特に有用な加重中央値と最頻値
- なぜ中央銀行はもってまわった言い方をするか
- 中銀の経済予測能力は民間エコノミストと同程度?
- 植田氏の学者時代の発言は日銀の出し方のヒントになるか
- 記者会見で植田総裁にズバリ聞いてみた
- 「ベスト」を追う学者、「ベター」や「「レスワース」も決めざるを得ない当局者
- 経済も市場も政策も変化する「生き物」
- 学者や教師と、中銀で製作決定に責任を持つ立場は違う
- 第5章 植田日銀でどうなる住宅ローン
人気の変動型ローン金利は上がるのか?- 固定型ローン金利には既に上昇の動き
- 変動型ローン金利に影響する短期政策金利上げ2段階で
- マイナス金利解除時は新たに借りる人に影響も
- ゼロ金利解除なら既に借りている人の金利も上昇
- 短期政策金利、90年のような大幅な上昇は起きにくい
- 日本の実力低下で金利は大きく上がりにくく
- 経済には何が起きるかわからない
- 固定金利型ローン利用による負担増分は「保険料」
- 変動金利から固定金利への切り替え時期は
- 日銀はいつシグナルを発するかのヒントをくれず
- 固定への借り換え時期は「ベスト」より「ベター」を目指す
- 個人投資家にとって参考になる日銀のETF購入
- 安値で買うコツコツ投資で日銀に安定した利益
- 日銀から個人投資家へのバトンタッチが進む
- あとがき
円高修正
作者: ホシユイ
円高修正は輸出企業の収益を改善させて株高をもたらしました。13年3月に1万2000円台だった日経平均株価が2年後には2万円台と回復しています。21年にはコロナ危機対応の資金供給などがあって3万円台になる局面をあったほどです。財務省の法人企業統計で経常利益額をみると、21年度は80兆円を超えています。
円高修正は、雇用環境も数字をみると改善できているのです。働きたくても働けない人の比率「完全失業率」は12年4.3%だったものが、最近では2.5%付近で留まっています。雇用への不安が微減し、自殺者数も減少傾向にあります。
日銀の「生活意識に関するアンケート調査」を見てみると、現在の暮らし向きが過去と比べて「ゆとりが出てきた」という回答の比率から「ゆとりがなくなってきた」比率を指し引いた暮らし向きDIは-52.2(23年3月)とマイナス幅が拡大しているようです。
原因は所得環境が改善せずに、物価変動を考慮した実質賃金はマイナスになっているからです。企業の成長期待低下もあり、なかなか賃金が伸びないという背景があります。
過度の円安なら長期金利操作の早期修正も
23年春から夏頃までに確かめるより前に修正される展開もあり得るとのことです。
円安が過度に進めば、消費者物価上昇率も想像より高くなっているので、政策の見直しに向けた空気は強まりやすくなります。
植田総裁はYCC(イールド・カーブ・コントロール、長短金利操作)を継続することが適当だと考えていると述べています。
操作対象を10年物国債利回りから2年債利回りに短期化し、金利の変動容認の上限を0.25%程度にするというやり方、変動上限を0.5%にするやり方が具体的な案です。
長期金利操作の枠組み自体は継続しているとした上で、金利操作は実質的には撤廃される秘策になっています。
短観で重み増す「企業の物価見通し」
Image by PublicDomainPictures from Pixabay
最近、重みを増しているのは「企業の物価見通し」です。日銀が目指す2%の物価上昇率の持続的・安定的達成のためには、人々の物価観が上向きになることが欠かせません。デフレで定着した「物価は上がらない」という心理が改まる必要があります。
経営者の物価観は賃金の動向も左右するだけに重みをもちます。経営者が物価は上がり、販売価格も上がるという判断に傾けば、賃上げも広がりやすいのです。
日銀は一般の個人の物価観も調べています。現在、1年後、5年後の物価について予想のアンケート調査です。
2%の物価目標の維持的・安定的な達成を目指して政策を運営している以上、金融政策にとって消費者物価は極めて重要な統計となっています。
天候要因による振れが大きい生鮮食品を除き、エネルギー価格などを除いた指標を参考にして、短期的な変動をつかもうとしているが、十分ではないと見ています。「基調的なインフレ率を補足するための指標」として総務省が出した消費者物価の統計に加工を加えたもので、物価の基調的な動きを捉えようとしています。
個人投資家にとって参考になる日銀のETF購入
作者: Yuwaii
今のところ、日銀は「株式」の購入で比較的安定した利益を得てきています。
10年12月以降23年5月末までに購入したETFは薄価で約37兆円なのに対して、時価は約57兆円です。20兆円程度の含み益が生じています。およそ12年で5割を超える利益です。
20年3月の新型コロナウイルス危機による株下落で、いったん3兆5000億円程度の含み損が生じたと試算されますが、含み損が生じた時期は極めて少なく、その規模も小さいものです。
世の中が悲観的なムードに包まれ、株価が安くなった局面で「株」を買い始めました。そもそも中央銀行が「株」を買うという異例の行動を起こすくらいだから、マーケットが混乱している時期だったのは当然です。長い目でみれば、そういうときこそ投資を始める好機になっています。
日銀のETF購入は、午前中に東証株価指数(TOPIX)が一定程度下落した日に実施してきました。それを12年間、ひたすら続けたのです。そういう長期投資をして、それなりの成果を得ています。
あとがき
2023年の春季労使交渉で高めの賃上げを実現するなど、物価・賃金情勢に長らくなかった動きが見られ始めました。もしそれが持続し、広がりも持つならば、長年続いた金融緩和政策の正常化へと適切なタイミングで動くことが課題になります。
強力な緩和効果に頼ってきた政府、起業、家計、市場参加者など様々な経済主体は、発想の展開が必要です。危機対応に知恵を絞るのは政策当局として当然でしょう。
いずれにせよ、植田日銀は何らかの行動を起こし、何らかの変化をもたらしそうです。
感想
サイト管理人
円安が進むようなら、長短金利操作を継続する動きがあるかもしれません。
最新の日銀事情が解るような本でした。
私より遙かに頭の良い人が、世間が思っている景気の良し悪しを考慮しながら円安に対して、起きる問題を緩和するような施策を立てていて、そのタイミングを計っているようなイメージを持っています。
施策を実施してみるといった、行動をとってくれそうで何よりです。動いたうえで、方向性を微調整するという大切さ日銀でなくても大切なことです。
日銀のETF購入の長期投資の考え方は、個人で投資する場合もかなり参考になる考え方です。かなり堅い新書ではありますが、得る知識も大きい書籍ではないでしょうか。
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