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目次
書籍情報
トヨタ 中国の怪物
豊田章男を社長にした男
発刊 2024年2月10日
ISBN 978-4-16-391805-1
総ページ数 311p
児玉博
フリーランスとして取材、執筆活動を行う。
文藝春秋
- 序章 中国人の本質
- 第1章 豊田章一郎の裏切り
- 第2章 日本の小鬼
- 第3章 毛沢東の狂気
- 第4章 零下20度の掘っ建て小屋
- 第5章 文化大革命の嵐
- 第6章 悲願の帰国
- 第7章 日米自動車摩擦の代償
- 第8章 豊田英二の危惧
- 第9章 はめられたトヨタ
- 第10章 起死回生の秘策
- 最終章 豊田章男の社長室
毛沢東の狂気
毛沢東が「誰もが一兵卒」と言えば、その言葉を忠実に実行しようとする地方幹部によって、人民公社に農民が集められた。さながら民兵のように扱われ、過酷な労働だけでなく、昼夜を問わない思想教育まで施されていたのです。
夜明けに起床を知らせるラッパが鳴り響けば、名ばかりの朝食をすませて、軍隊式の行進を農民がしていました。兵士が厳しく目を光らせて、中国全土が収容所のようになっていたのです。
共に同じ目標に向かて働くのだからと、家屋、わずかな持ち物、家畜で飼っている犬や猫でさえ没収の対象でした。
農民たちは家畜を殺して、家族で貪り食べたのです。没収されるくらいならば、自分の家族で食べるということです。
文化大革命の嵐
政治の表舞台から姿を消していた毛沢東は『毛沢東語録』を出版するなど、姿を見せずに自らの神格を進めていました。
そうしたなかで、突然姿を現し文化大革命の狼煙を告げる檄文が「人民日報」に掲載されます。
国民党との戦いに勝利した後、中国共産党を率いる毛沢東がすぐに手を付けたのが、巨大な天安門広場の建設です。ソビエト連邦の「赤の広場」を意識して、長さ880メートル、幅500メートルという巨大な広場の建設を急がせました。
この広場には、毛沢東崇拝者たちが集まり、異常な雰囲気を醸し出しています。およそ100万人といわれる熱狂的な崇拝者たちは”紅衛兵”と呼ばれ、手には赤い小さな『毛沢東語録」を握りしめています。
はめられたトヨタ
2010年にはついにGDPで中国は日本を抜き、米国に次ぐ世界第2位の経済大国へとのし上がりました。戦後60年で費やしたセメントの量を、たった5年で中国は消費しています。道路、駅、空港とインフラが整備されていき、天安門広場を埋め尽くす自転車が自動車に変わる日が現実になったのです。
しかし、自動車産業が勃興した中国において、トヨタが合併を結んだ天津汽車は苦戦していました。
デンソーやトヨタが赤字覚悟で供給を続け、恒常的な赤字は免れない状態です。そんな中、部品メーカーへの不払いが発生していました。天津汽車は開き直ったように「払いたくても、払うお金がない」といいます。
天津市に問い合わせてみたところ、嘘の利益計上を報告していたのです。経済発展を各市で競い合っていた中国の内情もあり、すぐさま天津市は天津汽車に調査に入りました。
結果、10万台以上の在庫を抱え、2000億円を超えるほどの不良債権が積み上がっていたのです。
中国政府にとっても、デリケートな意味合いを含まれていたため、天津汽車の幹部が逮捕するしないなどの、明確な方針をいつまでもしません。
しぶしぶ、中国は断固として認可しなかった「乗用車」の生産に許可が下りたのです。
念願の乗用車の生産ができたため、一気に活気づいたが、足枷がついていました。
- 新工場の建設は孵化。天津汽車の工場を使うこと。
- 生産台数は、天津汽車に許している年間15万台の枠内。
2000億円の一部をトヨタに肩代わりさせようとの思惑がみえる、乗用車生産の許可です。巨額の不良債権を天津汽車が抱えているため、危険な状態は続いていました。
そのとき、ここは中国で共産党国家であり、トヨタにとってはやはり未知の子女なのだ、と幹部は思い知らされたといいます。