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目次
書籍情報
世界はさわらないとわからない
「ユニバーサル・ミュージアム」とは何か
広瀬浩二郎
国立民族学博物館准教授。
13歳の時に失明。
文学博士。専門は日本宗教史、触文化論。
平凡社
- はじめに──「さわれない」時代の「さわらない」人々へ
- 第一部 書く──手と頭を動かす
- 1 失明得暗──新たな「ユニバーサル」論の構築に向けて
- 失明を説明する発明
- 「見え方=見方」の多様性
- 盲学校で獲得した”点字力”
- 得暗の歴史的意義
- ルイ・ブライユの功罪
- ユニバーサル社会の実現をめざして
- 2 コロナ禍と特別展──二〇二一年を振り返る
- 一月「三密」の新解釈
- 八月 さわるとわかる、わかるとかわる!
- 九月 コロナへの手紙
- 十月 ”触”の可能性を問う
- 十一月 日本初「ユニバーサル・ミュージアム」の世界展開をめざして
- 十二月 触発スイッチ・オン!
- 総括 さわる文明学
- 3 踊るようにさわる、さわるように躍る
- 「見せる」講演よりも「聴かせる」講演を!
- なぜさわるのか、どうさわるのか
- 4 二一世紀版「耳なし芳一」
- 「目に見えないもの」を描く絵本
- 「琵琶なし芳一」がやってくる!
- 5 障害当事者発のソーシャル・インクルージョンの実現に向けて──誰もが楽しめる「さわる写真」の制作と鑑賞
- ユニバーサルな触図制作のABC
- 誰のための「さわる写真」なのか
- 目に見えない者は、目に見えない者を知っている!
- 6 「文化」と「文明」で読み解くインクルーシブ社会の未来
- インクルーシブ教育の理想と現実
- 統合教育=「文化」の存続を希求する闘い
- 盲学校から盲人史研究へ
- 「行き方=生き方」としてのユニバーサル・ミュージアム論
- 令和版『文明論之概略』構想
- 7 文明学としての「ユニバーサル・ミュージアム」
- 新たな「学」の構築
- 「障害」とは何か
- 博物館から「近代」を問い直す
- 触覚の沃野へ
- 1 失明得暗──新たな「ユニバーサル」論の構築に向けて
- 第二部 話す──口と体を動かす
- 1 暮らしと文化の役割──服部しほり、マクヴェイ山田久仁子、安井順一郎との対話
- 「不要不急」と「浮要浮急」_「文化」の新たな定義をめぐって
- ユニバーサル・ミュージアムでどう絵画を活かすか_服部しほり(日本画家)
- 米国における障害者研究_マクヴェイ山田久仁子(ハーバード燕京図書館ライブラリアン)
- 文化庁をなぜ京都に移転するか_安井順一郎(文化庁地域文化創生本部事務局長)
- 総合討論
- [対話のあとで]アートの三要素に触れる
- 2 障害/健常 境界はあるか──高橋政代との対話
- 医療と福祉をつなぐ
- 見える人を見えない世界に導く
- 完治をめざさない医療
- 3 他者理解の先にあるもの──岩崎奈緒子との対話
- 昔と今の大学の空気
- 展示の功罪
- 誰もが楽しめる旅行とは?
- 4 スポーツの楽しみ──竹下義樹との対話
- 視覚障害者とスポーツ
- スポーツ観戦の楽しみ
- スポーツから学ぶ工夫
- 盲目の剣豪は存在したか
- 5 古典芸能 ルーツと未来──味方玄との対話
- 能舞台で「気」を感じる
- 中世芸能における盲人
- 盲人芸能者たちの役割
- 盲人芸能の今度
- 6 見えないものを見るために──松岡正剛との対話
- 人類が失った感覚を復活させる
- 「古くて新しい」アートを創る
- 「面影」の重要性
- 7 〔インタビュー〕 目で見るものがすべてではない──視覚中心の社会をほぐすため
- 「触覚の美」とは何か
- さわることの多様性
- 8 〔講演録〕 健常者とは誰か──「耳なし芳一」を読み解く
- 二項対立の人間観を乗り越える
- コロナ禍と博物館_「古い生活様式」を取り戻せ
- 目に見えないものへの恐怖_「耳なし芳一」の今日的意義
- 点字の歴史に触れる_日本の近代化と視覚障害者
- ルイ・ブライユの再評価_ユニバーサルな触文化論の試み
- 人類の進歩と調和の先にあるもの
- 1 暮らしと文化の役割──服部しほり、マクヴェイ山田久仁子、安井順一郎との対話
- おわりに──「誰一人取り残さない社会」は幸せなのか
書籍紹介
広瀬浩二郎氏は全盲の触文化研究者であり、ユニバーサル・ミュージアムというコンセプトを提唱する人類学者です。この本は新型コロナ禍という、物理的に触れることが制限された時代にこそ、「触ること」の無限の可能性を問いかける一冊です。広瀬氏は触覚を通じて世界を理解することの意義を説くだけでなく、その実践として「ユニバーサル・ミュージアム」という触れる美術館や展示会の実現を目指してきました。
内容の深掘り
本書は、触覚を通じた体験が如何に私たちの理解や学びを深めるかを探求しています。特に新型コロナウイルスの影響下で、物理的な接触が制限される中で、「触ること」の価値が再評価されました。広瀬氏は、触覚が視覚や聴覚とは異なるユニークな情報伝達手段であると主張します。例えば、美術品に触れることで得られる知識や感動は、見るだけでは得られないという視点は非常に新鮮です。
ユニバーサル・ミュージアムとは
本書では、「ユニバーサル・ミュージアム」という概念が詳しく解説されています。これは全ての人が楽しめる、触覚を活用した博物館や美術館の形態です。広瀬氏は、障害の有無にかかわらず、誰でも触れることで新たな体験や理解を得られる場を作ることが重要だと強調します。この考え方は、社会全体がインクルーシブであるべきだという現代の潮流とも合致しています。
目に見えないものを知る
触れることで得られる情報や感動は、視覚に頼りすぎる現代社会において、忘れ去られがちです。しかし、広瀬浩二郎氏のこの作品は、その価値を改めて私たちに問いかけてくれます。おすすめの一冊です。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
得意を活かす
画面の情報を音声で確認できる「点字和^プロ」というソフトがあります。このソフトを使えば、点字を使用する方でも通常の漢字仮名交じり文を書くことができます。現在では、視覚障害者のインターネット利用は当たり前になり、スマートフォンを扱う人も増えています。
私がEメールを送る人の9割以上は点字を知らない健常者です。点字しかなかった時代に比べると、隔世の感があります。現在の大学で学ぶ障害学生は非常に恵まれていると感じます。
単純に情報処理の量で比べると、視覚を持つ人には太刀打ちできません。触覚や聴覚で情報を得る視覚障害者は、量ではなく質にこだわるべきでしょう。健常者が見落としていることや見忘れていることを「発見」できると思っています。
障害学生支援などでは、「健常者と同じことができればいい」という風潮がありますが、むしろ見えない、聞こえないなどの「違い」を強みとして活かすべきだと考えます。
さわることの多様性
絵画鑑賞のワークショップなどで、実際に触れる体験をした後に絵画を見ると、見方が変わることがあります。
単純に視覚を否定するのではなく、目で捉えるものが何よりも優先されるという価値観を変えていきたいと思っています。風景は目で見るものですが、それだけではないのと同じです。
同じように、人間の「見た目」や「容姿」についても、それがすべてであるかのように思われてしまう点に問題があるのではないでしょうか。