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目次
書籍情報
死の前、「意識がはっきりする時間」の謎にせまる
「終末期明晰」から読み解く生と死とそのはざま
発刊 2024年3月21日
ISBN 978-4-04-606720-3
総ページ数 364p
アレクサンダー・バティアーニ
ウィーンのヴィクトール・フランクル研究所の所長を務める精神科医です。
ウィーン大学で医学を学び、精神科医としての訓練を受けました。彼は特に、意義と目的を見出すことによる精神的健康の促進に興味を持っています。また、ヴィクトール・フランクルの業績を現代の心理療法に統合することを目指しています。
多数の学術論文や書籍を執筆しており、国際的にも精神医学と心理療法の分野で広く認められました。彼の仕事は、人々が人生の困難に直面した際に意義を見出し、充実感を感じるための支援に重点を置いています。
KADOKAWA
- 第1部 「だれか」であることについて
- 第1章 「だれか」であり、「やがて死を迎える」ことについて
- 常識の裏側にあるもの
- 物語とデータ 思いがけない場所に光を見出す
- 人生の物語、人生の意味、人生の終わり
- 生と死と尊厳
- 自己であること
- 第2章 死と病、そして「わたしたちは何者か」をめぐる問い
- 認知症と自己
- 生と死を問い直す
- 「与える者の手」のソクラテス
- 生物学と自己 「では、魂はどうなるのか?」
- 魔法の織機
- 心と唯物論
- 「まず、魂を取り除く」
- 目で見えないものを見る
- 第3章 自己の回復
- 「それから、思いもよらないことが起きたのです」
- 驚きから学びへ 国立老化研究所での研究ワークショップ
- ローレンツの事例
- アンネ・カタリーナ・エーマー、通称ケーテの事例
- 現代の事例
- 痛みにくるまれたギフト
- 第4章 ことの始まり
- 研究すること、だがなによりも大事なのは耳を傾けること
- 終末期明晰との出会い
- 呼び声を聞く
- 第1章 「だれか」であり、「やがて死を迎える」ことについて
- 第2部 終末期明晰
- 第5章 実態解明に向けて──パイロット調査とその影響
- 体系的な調査の開始
- IANDSでの発表
- 第6章 「話がしたい」──思わぬものを目撃した人々の孤独
- ついに上がったヴェール
- 「これは現実なのか?」
- 「別れのときが来たということなのか?」
- 第7章 網を投じる
- さらなる深みへ
- 補足説明
- 第8章 目撃者の証言
- だれが終末期明晰を経験しているのか
- 年齢と性別
- エピソードの持続時間
- エピソード中の認知状態
- 幻覚か、それとも……?
- ラフマニノフの最後の音楽
- 「手を握ること」は終末期明晰になりうるか
- 人生最後の会話
- エピソードと患者の死の時間的な近さ
- エピソードの誘因と原因
- 「たくさんの安らぎと、あるがままに受け入れる気持ち」 目撃者の反応
- 希望なき場所での希望
- 第5章 実態解明に向けて──パイロット調査とその影響
- 第3部 死ぬときの心、遍在する心
- 第9章 白いカラス
- 終末期明晰は何を語っているのか
- 不可能を可能にする
- 第10章 極限状態の心と脳
- 死の直前の心と脳
- 境界条件が示すもの
- ブルース・グレイソンの提案
- 第11章 死ぬときの心
- マインドサイト
- 学問分野として認められた臨死体験
- 第12章 死の間際の知覚
- 臨死体験はいつ起きるのか
- 死の間際の近くは性格なのか
- 「死んでいたときは天才だった」
- 第13章 死の間際の心と記憶と視覚
- 死の淵で人は何を考え、何を見るのか
- 調査結果
- 死の間際の資格
- 死の間際の思考
- 第14章 臨死体験と終末期明晰を関連づける
- TLとNDEの共通点と相違点
- 「違いの一種ではない間違いとは何か?」 酩酊したウィリアム・ジェイムズ
- 記憶と視覚と臨死体験
- 弱点を補い合う
- 第15章 よりよく理解する
- 日食が終わるとき
- 魂と偏在精神
- 第9章 白いカラス
- 第4部 人格、死、意味
- 第16章 保護された自己
- 無限の美、無条件の尊厳
- 魂を大事にする
- 第17章 なぜそれが重要なのか
- 三人の師
- 希望を回復する
- 第16章 保護された自己
紹介
人生の最終段階における神秘的な現象「終末期明晰」に焦点を当てた深遠な書籍です。
終末期明晰とは、死に際して一時的に意識が明瞭になる現象であり、人々はしばしば過去の記憶を鮮明に思い出したり、故人との会話を体験したりします。この本は、医学的、心理学的、そして哲学的な観点から、生と死の境界における人間の意識の不思議を探求します。
著者は、終末期明晰が私たちに何を教えることができるのか、そしてそれが私たちの死生観にどのような影響を与えるかを考察します。
実際のケーススタディや最新の研究を交えながら、生命の終わりにおける意識の変容について深く洞察する本書は、人間の存在の本質に関心を持つすべての読者にとって、刺激的で心を動かす一冊となるでしょう。
体系的な調査の開始
よくわからなかったり、ほとんど知られていなかったりする現象を理解しようと思ったら、まずやるべきは、その現象をできるだけ体系的に把握することです。
患者の人口統計データ、病歴、TLのエピソードの前や最中の典型的な一日における患者の認知・精神機能の状態、エピソードの持続時間、エピソードが生じてから患者が亡くなるまでの時間といった、項目を含む質問票を作り始めました。この質問票が送られると、報告はゆっくりながら着実に届きはじめたのです。
終末期明晰が起きるのは特定のタイプの神経疾患に限らないことを、発見しました。受け取った事例報告の半数以上は、認知症患者にかかわるものでしたが、脳腫瘍や外傷性脳損傷、脳卒中後の認知障害を患う患者などにも事例があったのです。
人生最後の会話
終末期の多くの報告が示唆していたのは、患者が自分の認知機能の衰えを自覚していたことです。また、かなりの数の患者が、明晰な時間が長く続かないことを知っていたらしいとのことでした。
死が迫っていることを明言して、家族や友人に別れをつける人もいます。自分の差し迫る死を敏感に感じ取っていたのです。
最後のコミュニケーションの内容は多岐にわたりますが、調査回答者の相当数から推察すると、終末期明晰は「”身辺を片づけ”、辞世の言葉を述べ、別れを告げる機会」となることがわかります。
わたしの事例集では、患者の約3分の1が明晰性のエピソード後2時間以内に、別の3分の1が2時間から1日以内に、5分の1が2日から3日以内に亡くなっています。
死の淵で何を考えるか
いくつかの科学データベースを調べたが、臨死中に思考の明晰さが高まった臨死体験者の主張をどう捉えるかという研究が少なかったのです。この問題に着手したときには、死の間際の認知能力や視覚的イメージのデータにも圧倒されることになるとは思いもしませんでした。
18歳から74歳で臨床氏、合併症、臓器不全、頭部外傷、自殺未遂、アナフィラキシーショック、溺水、交通事故の臨死体験612例の報告があります。
252例は、0点と採点されていますが、心停止あるいは呼吸停止中に意識不明の状態でありながら、普段と同じように「見えた」のです。
残りの287例では、臨死体験中に視力がやや高まったか、かなり高まったと報告しています。例えば、緊急治療室のあらゆる細部をいっぺんに知覚して理解できている明晰を覚える人もいるということです。
無条件の尊厳
意識ある事故の謎についてはまだよくわかっていません。私たちが見つけたのは、生物学的な唯物論的な一部です。
私たちが調査した臨死体験者たちは、人生の物語の、ひとつひとつの章、瞬間の重みについても証言しています。
自己の記憶に含まれる細部や出会いや経験には、「ささやかだからはじかれるといったものがない」と彼らは語っています。どんな判断も無意味ではないし、どんな言葉も軽すぎることはないと、なんらかの形で他人の人生に影響を与えていないものなどないと考えているのです。
終末期明晰がわたしたちに語っていると思われるのは、人格や生の記録が、いまだに理解しがたい方法で表現され、保存されていもいるということです。