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目次
書籍情報
「むなしさ」の味わい方
発刊 2024年1月19日
ISBN 978-4-00-432002-9
総ページ数 204p
きたやまおさむ
精神科医、臨床心理士、作詞家。
岩波書店
- 序 章 「むなしさ」という感覚
- 第1章 「喪失」を喪失した時代に
- 第2章 「むなしさ」はどこから――心の発達からみる
- 第3章 「間」は簡単には埋まらない――幻滅という体験
- 第4章 「むなしさ」はすまない――白黒思考と「心の沼」
- 第5章 「むなしさ」を味わう
- おわりに−悲しみは言葉にならない
- あとがき
「相手の反応」に敏感すぎる時代
Xで何かを発信すると、いいねが返ってきます。良い反応があると嬉しいし、反応が少ないと落ち込んだり焦ったりします。誰もがSNS上で「バズる」ためのゲームを繰り広げている感覚さえあるのです。
相手の期待に応え、反応が増えるほど、自分も充実したような気になれます。一方で、相手からの答えや応えのズレにはますます神経質になっているのです。
SNSの反応が鈍いだけでも、見放されてしまったのではないかと不安になります。敏感に意識しすぎる社会を生きているのです。
喪失
母と子の乳児期の関係、良い子悪い子の母親の価値観に依存する関係、ある程度自己が確立してから母以外の第三者との関係と、3つの喪失段階を経験して「むなしさ」になれていきます。
現代では、スマホが自他の間を橋渡しする移行対象のようなものですが、「スマホがつながらない」だけで、深刻なパニックになる心理を経験できるでしょう。
喪失を段階的に経験して、うまく現実と自分の心の橋渡しができるような状態にしていくことが難しい環境では、急激な幻滅のために、空虚感に吞み込まれてしまいます。
心の成長を阻害されることで、「発達障害」という概念に当てはめられて、ADHDでもなく、はっきりとした病気に分けられない場合があるのです。
時間をかけることの意味
急な幻滅を避けるには、時間をかけることが必要です。
私たちは時間をかけて、別のストーリーを考えることができます。幻滅した時点で人生が終わるわけではなく、その後もだらだらと続いていくのです。
時間をかけるというのは「間」が生じます。病気を治すにも、時間をかけて徐々に治っていくという「間」を経験しなければなりません。
結論に至るまでの「間」に立ち続けるというのは、簡単なことではないのです。どっちつかずの中間的な領域で、そのまま置かれます。
私たちは「間」に耐えられない傾向にあり、すぐに結果が出ることをのぞみます。そして「間」が生じて「むなしさ」に襲われることを回避しようするのです。
短命の美
日本は「むなしさ」という感覚を、一種の美的なものとして文化に取り入れてきました。
人の営みははかなく、必ず喪失が訪れること、「むなしさ」という感覚が、文化や芸術につながっていることがわかります。
川の音、死んだ武士たちの声、鎧の音が響いては消えていきます。
自分ではどうしようもないことをあきらめて、「むなしさ」を「はかなさ」として受け入れ、かみしめ、味わうところから文化や芸術が生まれてきました。