読書推薦人の独断と偏見の評価
(5 / 5)今年1の傑作だと素直に思います。久しぶりに小説で感動しました。
この本を読むうえでのアドバイスは、寝る前に読まないことです。ページ数があるうえに眠れなくなります。
アガサ・クリスティー賞大賞を受賞していて、書評家や作家の方たちが太鼓判をおしている作品です。そして、この小説がデビュー作になります。
目次
書籍情報
タイトル
同志少女よ、敵を撃て
著者:逢坂冬馬(あいさか・とうま)
1985年生まれ。明治学院大学国際学部国際学科卒。本書で、第11回アガサ・クリスティー賞を受賞してデビュー。埼玉県在住。
そでより抜粋
出版
早川書房
ストーリー
モスクワ近郊のイワノフスカワ村という場所で、母と暮らしていた。
「フィーマ、当てたとき歌ってたね」
母に教わった狩猟をし、少女ながら猟師として村に貢献していた。昔観た演劇の内容に感動し、ソ連とドイツの和平を繋ぐ外交官を目指している。村のみんなが将来は結婚するだろうと思っていた同い年の男の子は、ソ連軍に徴兵されてしまった。
「ミーシカとは、ほんとにそんなじゃないの」
母にからかわれたときも、そんな風に言葉を返していた。
そんな日々が突然終わりを迎える。
独ソ戦が激化する1942年、道を見失ったドイツ軍に急襲されて村人が惨殺された。ドイツ軍に捕まるも、奇跡的に赤軍兵士に救われることになった。
「無駄だよ、今のこいつは生きる屍だ」
その言葉は失意の中でもはっきりと聞こえた。女性の声で、とても澄んだ、綺麗な声色だった。声の主をみると、黒髪で瞳の色も黒く、肌は対をなすように白く精悍な顔立ちに細い体、男性にも負けない長身のおそろしく美しい女性だった。
「戦いたいか、死にたいか」
そう問いかけられるのだった。
トラックの荷台に座り込んで待っていると、助手席に座った女兵士が言う。
「イリーナ・エメリアノヴナ・ストローガヤ」
彼女の名前らしい。
「君の名前は?」
「セラフィマ・マルコヴナ・アルスカヤ」
イリーナは笑った。こんな優しい顔をするのかと苛立たせた。
「よろしく、セラフィマ。今日から、私の教え子だ」
周囲の兵士は苦い表情をする。不吉な雰囲気だ。けれど、なにをためらう必要がある。敵を討つのだ。
イリーナのもとで女性狙撃手の訓練を積み、ソ連戦の局面を左右するスターリングラードへ向かうことになる。
「何のために戦うか、答えろ」
イリーナは最前線の戦場へ向かう前、部下の兵士に尋ねた。
「女性を守るために戦います。」
セラフィマの思う最も正確な答えだった。
セラフィマの目的は「敵を討つ」「女性を守るために戦う」ことであった。
著書の魅力
読んでいて疑問に思う点は、全て結末に畳みかけられていてモヤモヤすることがない素晴らしい作品です。
上記のストーリー説明にも少し書きましたが、妙に女性の表現が艶っぽく感じさせます。男性の目に、匂いに、低い声に惹かれるのなら、疑問も抱きません。この書き方も、セラフィマの感受性を見事に現しているもので、構成の作り込みが非常に上手だと思いました。
戦時の途中で学ぶことも、最後にフラグとして回収する凄さを感じます。
私はFPSのゲームが好きなのもあって、劇画タッチの少女が銃を構えている絵に惹かれて、ジャケ買いしました。そんな小説が、こんなにも面白いなんて、なんだか得した気分です。
80年戦争を経験していないからこそ、ソフトな描写で、小説で、物語で広く語られることに、感慨深いものを感じています。
戦時中に書かれた日記を、何冊も読んだことはあるでしょうか。ほとんどの方はないと思います。日記には、目を背けたくなるような、生々しい現実が書かれていることもあります。読んだことが無い方の戦時の酷い映像を、遥かに超えるものとなること間違いありません。占領したての土地で起こったことに比べたら、映画のソウやゲームのデッドスペースなど屁でもありません。
この小説にも占領したての土地で起こったことについて、触れる場面があります。占領地で起こる暴行を伝えるものであり、比較的穏やかに受け止められるものになっています。戦争日誌の現代語訳のように、胸が苦しくなるようなものではありません。物語として語られる魔法のようなものでしょうか。心へのダメージが少なく戦時中の悲惨さを知れるなら、それでいいのかもしれません。
子どもが暴力を振るわれると、大人になって子どもに暴力を振るってしまうことがあります。強く記憶に残っていることを他人に犯してしまうのです。今はPTSDとよばれていたりします。戦時中でも同じことが行われます。戦争が終わって帰還した兵士にも、同じことがいえるでしょう。
80年たって戦争が風化されていますが、悪い連鎖が続かないのは喜ばしいことだと思います。
戦時中の怖さに少し触れてみたいのであれば、下のリンクの書籍を読んでもいいかもしれません。
主人公以外の同志少女も、最後までしっかりと人格を見失うことがありません。サイドストーリーではないけれど、シャルロッタ、ママ、ナーヤそれぞれの物語も、「なるほど」と納得できて面白いものになっています。
おじいちゃんおばあちゃんから直接話を聞いたり、戦時中の日記から戦争の冷酷さを知りました。戦争を体験した世代からみれば私も若者の分類になりますが、若い人たちはわざわざ生々しいものを知る必要はないと思うのです。
私も物語から、知りたかったです。心からそう思います。
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