※ニートが興味をもった部分を紹介します。
はじめに
次世代シークエンサの技術を使うと、サンプルに含まれるすべてのDNAを高速で解読することができます。
現在では世界各地の一流科学誌に毎週のように論文が掲載されています。
古代DNA研究が何を目指しているかを学ぶことで、この研究の行きつく先を見通すことができるはずです。
目次
書籍情報
タイトル
人類の起源
古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」
著者
篠田謙一
出版
中公新書
外在性DNAの混入
いわゆる、コンタミネーションというものです。
1980年代から研究者を悩まし続けているDNAの混入という問題があります。最初に報告されたミイラの研究結果も、今ではコンタミネーションの結果をみていたことがわかっているのです。結果に大きく影響をおよぼす厄介な問題になります。
解析が進化して、私たちの隠れた先祖が明らかになった
ミトコンドリアDNA配列比較ができるようになり、ホモ・サピエンス(現生人類)の中にネアンデルタール人に由来するミトコンドリアDNAがないとされ、ネアンデルタール人が滅亡したと考えられるようになりました。
しかし、次世代シークエンサによる核ゲノムの解析が可能になったことで、ネアンデルタール人滅亡説は覆られることになるのです。
2010年、クロアチアのヴィンデジャ洞窟から発見された三体のネアンデルタール人女性人骨から採取されたDNAが分析されました。
DNA分析の結果、サハラ以南のアフリカ人を除く、アジア人とヨーロッパ人にはおよそ2.5%程度の割合でネアンデルタール人のDNAが混入していることが明らかになったのです。
やがて、初期段階のホモ・サピエンスのゲノムが何体か解読されたことで、5万年以上前の最初の段階から、いくつかの集団に分かれていたことが明らかになりました。その中のひとつが交雑して世界に広まったと考えられています。
ネアンデルタール人は、私たちの隠れた先祖なのです。
ゲノム解析で推測できること
ゲノム解析によって、ネアンデルタール人の遺伝子は、デニソワ洞窟から東のチャギルスカヤ洞窟移動し、ヨーロッパに残った系統が西ヨーロッパに移動したことがわかりました。
60人以下の集団で暮らし、そのなかで近親交配をくり返していたようで、遺伝子同士が似通っています。調べることで、婚姻の状況を推測することもできるのです。
さらにゲノム解析は進化します。2017年、洞窟の蓄積物からネアンデルタール人のミトコンドリアDNAを抽出することに成功しました。人骨から調べなくてもわかるようになったのです。
化石がなくとも、ゲノム解析でしらべることによって、新たな集団の変化を見つけ知見を加えていくことが期待されています。
2018年、デニソワ洞窟から9万年前のものとされる1センチメートルほどの長管骨からDNAが分析されました。この人物はネアンデルタール人の母親とデニソワ人の父親から生まれた混血で、骨の形状から13歳前後と推定されている女性だと判明したのです。交雑していた証拠となります。
古代人のゲノム解析の最大の目標は、ゲノム解析で詳しく分析しホモ・サピエンスの遺伝子がどのように変化したかを明らかにすることです。
どのようにして、今の遺伝子が生き残ったかを追うことで、病原体や疾病に対して有効な手段をさぐることができるかもしれません。
遺伝子情報の詳細が、役立つかもしれない
Toll様受容体という免疫に関するタンパク質があります。最近、カビ、寄生虫を認識し、生体防御機構を呼び起こすタンパク質です。
自然免疫を活性化させる作用があるので、コロナワクチンを投与したときに副反応を起こす原因にもなります。
Toll様受容体は11種類みつかっていますが、2つはネアンデルタール人、1つはデニソワ人から受け継いだものではないかと言われているものです。
コロナウイルスで重症化する人のゲノムを調べると、第3番染色体のある町域が関係していることがわかっています。これは、ヴィンデジャのネアンデルタール人が、まさにこの重症化するタイプを持っていたのです。
ホモ・サピエンスの持つ言語能力に関係するといわれている遺伝子の領域では、ネアンデルタール人由来の遺伝子が排除される傾向が強いことが明らかになっています。今後、研究が進むにつれて、さまざまな事実明らかになり、私たちの遺伝的なもの関しても詳細な情報が得られていくでしょう。
遺伝子の編集
2020年度のノーベル科学賞を受賞した、クリスパー・キャス9という遺伝子の編集ができる技術が登場しました。ゲノムの特定の配列だけ、組み替えることができるようになり、細胞の働きにどんな影響を与えるかを簡単に知ることができるようになったのです。
この技術でネアンデルタール人とデニソワ人にないゲノム配列を、ホモ・サピエンスにはない変化をもつ遺伝子が61個発見されています。
ネアンデルタール人とデニソワ人ではNOVA1がつくるタンパク質の200番目のアミノ酸は例外なくイソロイシンですが、ホモ・サピエンスではすべてバリンに変異しているのです。
注意が必要なこと
ホモサピエンスのゲノムは99.9%まで共通です。0.1%の違いに注目して、個人や集団を明らかにしていきます。
0.1%の中に、容姿や能力の違いの原因にんっている変異があることも事実です。しかし、大部分は交配集団の中に生まれるランダムな変化で、基本的な能力の違いを表すものではありません。
教科書に欠けているのは、「遺伝子的にはほとんど同一といってもいいほど均一な集団である」や「文化や文明の違いは、環境の違いや人びとの選択の結果である」という認識です。
基本的な認識なしに社会を正しく理解することはできないでしょう。
多様な学問分野における新しい解釈を引き出すポテンシャルを秘めているのが、古代ゲノム研究なのです。
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