書籍批評「すばらしい人体」

サイト管理人のためになった度

5 out of 5 stars (5 / 5)

 サイト管理人のためというよりは、医学について知らない人全員のためになる書籍です。

 今書店に並んでいる書籍の中には、裏技的な健康法が多くならんでいるのをみかけます。本の元になっている論文を努力して読んでみると、論文の中のたった数行について書いてあるだけのものもあるのです。
 極端な健康法の書籍の内容は、エビデンスが証明されていない妄想で書かれているものであふれています。

 そもそも健康法を証明するには、統計のデータがどうしても必要になるものです。それを抜きにして、極端な健康法を実行するのは、良い面と悪すぎる面がついてくることは歴史が証明してくれています。

 グルテンフリー生活、一日一食生活もやってみてもいいかもしれません。ただ、エビデンス1の統計データや、その他もろもろは、現時点ではわかっていません。あくまでも個人の判断で変わった健康法を試してみるといいでしょう。

 ちなみに、「糖質制限だけしたグループが10年後20年後の健康の数値がよい」ということは科学的に明らかになっています。

 もう、なにが正しくて、なにが妄想なんだか、わかりません。

 最近になって、SNSを通してインフルエンサーがお役立ち情報を発信する健康法の中には、過剰な内容が分かりやすくまとめられていて、なんだか納得ができないものが多く存在しています。

 今回みつけた本は、淡々と人のからだと医学の歴史について書かれた、貴重な書籍です。読めばためになること間違いないでしょう。

書籍情報

タイトル

あなたの体をめぐる知的冒険

著者

山本健人

出版

ダイヤモンド社

内容

 上の画像のように、メモ書きだけでこの厚みなる本の内容を全て書き起こすのは控えたいと思います。

 ここでは、今回読んだ内容の一部を自分なりにまとめていきます。

ひとの体はよくできている

体は重い

 わたしたちは、自分の体のことをあまり自覚することはありません。

 体重が50キログラムだとすると、頭は5キログラム、片足10キログラム、片うで5キログラムの重さがあります。文字を書いていたり、料理したり、歩いていたりするときに、うでや頭の重さを意識すること少ないです。
 頭や手足は背中や肩の広い筋肉で支えられているので、普段重さを感じません。重い荷物をリュックに背負う方が楽に感じるのは、こういった理由があります。
 著者が医者になってから驚いたことは、人体がいかに重いかです。全身麻酔中に移動をさせるとき、四肢は重いにもかかわらず狭い範囲でしか繋がっていません。ベッドから手術台への移動は医療機関で毎日行われている作業です。四肢をしっかり抑えながら、身体が傷つかないように運ばなければなりません。かなりの重労働なのです。

サイト管理人

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 老後施設の重症棟の夜勤スタッフを経験しておりますので、かなりの重労働なのは身に染みてわかります。

 病院では1人でフロアを管理することはありませんが、老後施設の場合は20名以上を1人で介助しなければならないところもあります。というか、1人で介助してました。食事のたびに移乗するわけですが、朝一番疲れているときに全員介助するのはしんどいものです。

 夜勤の介護スタッフが暴力を振るってしまう。というニュースをみるたびに、凄く考えてしまいます。偏見でこういったニュースをみないで頂きたいと切に思います。

 麻酔を打っているということなので、姿勢整えることができません。手術の際の移乗は、もっと重く感じるでしょう。

視野について

 視野の中心部分でしか、文字は読めません。目の中にある錐体細胞は、目の奥の中心に偏って存在しているからです。
 上の行の1文字め「視」から視点をずらさずに、全部の文字を読むことはできないはずです。
 本を左右に揺らしながら読むことは難しいのに対し、頭を左右に振りながら文字をおうことはできます。わたしたち動物は「前庭動眼反射」という機能が備わっているからです。頭の動きを感知して、細かく眼球を動かすことで、視界のずれを防いでいます。この機能のおかげで、走っていても視野は安定しているのです。

あたまの怪我

 頭は皮膚の下に硬い骨があるので、頭皮が切れやすく出血しやすい。頭皮が切れているだけだったら、血が滴っていて酷く見えたとしても、大抵は縫い合わせるだけで済んでしまいます。また、たんこぶができるのは、頭皮が出血しやすく頭蓋骨があるため、内側に流れていかないので血液が溜まってしまうからです。
 本当に怖いのは頭蓋骨内部の出血です。主にこんな症状があります。

  • 手足のしびれ
  • 言動がおかしくなる
  • しばらくして、意識が無くなる

 打撲後1週間~1カ月以上たってから出血がわかるケースもあります。

  • 目の周りがパンダになる
  • 何となく物忘れが目立つ、ふらつく

 頭部を損傷したときには、頭部外傷注意書などの注意事項をリストアップしたものを渡されます。
 頭皮からの流血が必ずしも重症ではない一方で、軽症とも限りません。

腸の長さ

 大腸の長さや曲がり方、走行はひとによって違います。「俺の大腸こんなに長くて、フォルムもかっこいいんだぜ!」という会話は聞いたことありません。他人との大腸の長さの違いを実感することはないのです。
 人体には、生存に影響を与えない範囲で、胃・肝臓・腸の大きさなどに「遊び」の部分があります。臓器も外観と同じように個性があるのです。大腸カメラの検査で、ひとによって痛みが異なるのは臓器に個性があるです。

 遊びの部分を超えて、人体に悪影響を与えるようになれば病気と呼ばれます。個性がS状結腸過長症や腸ねん転などを、引き起こす場合もあるのです。盲腸の位置も人それぞれで、移動する人もいます。

 おならは、大腸にすむ細菌が食べ物を分解した臭いガスと空気です。食事と空気は口から入り、小腸へ流れて、蠕動運動によって下流に流れていきます。
 健康な人であれば、常にお腹は鳴っていて、腸が蠕動運動をしている証拠になります。
 朝食をとると、出勤前にトイレへいきたくなる人もおおいはずです。それは食べ物が胃に入ると、大腸の蠕動が施される仕組みがあるからです。胃結腸反射といいます。

サイト管理人

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つまりです。1日1食にすると、理にかなっている良い部分もあれば、大腸の蠕動が抑えられてしまう。ともいえます。

また、臓器には個人差がかなりあるので、食後何時間空ければ効果が期待できる。といった記述は基本的に嘘っぽいことも、なんとなく想像がつくのではないでしょうか。

ひとは病気になる

死因

 2019年のデータでは、がん、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎が7割を占めています。抗菌薬やワクチンなどの治療の進歩により、感染症などの死亡率が減少して高齢化したことが背景にあるのです。

 がんは今、死因全体の25%程度を占めています。50代から増え始め70代で急激に増加するのです。がんは遺伝子に何らかの異常が起き、正常な細胞ががん細胞にかわることで起こります。長生きするようになれば、相対的にがんで死亡する人も増えるのです。

 がん治療が進歩していないわけではありません。抗がん剤は次々に生まれ、放射線治療や免疫療法などの新しい武器も開発されています。

 死因の上位にあるのが、肺炎です。食べ物が軌道に入って起こる肺炎、誤嚥性肺炎が高齢者に多い死因となっています。高齢になると嚥下機能が低下して、上手にムセることができないからです。
 死因の上位をみるだけでは、中高年層の死因しかわかりません。

 15~39歳までの死因で一番多いのは、自殺です。これは社会問題にもなっています。

どのくらい栄養をとるべきか

 健康なひとであれば、のどが渇いた時に水を飲み食欲があるときに食事をすれば、事足ります。
 口から栄養を取り入れるのが困難な人は、点滴や経管栄養によって、必要な栄養素を取り入れます。点滴による投与の場合、腸を使わないため粘膜が萎縮してしまうので、腸の機能が落ちてしまう欠点があります。
 食べられない方も、点滴や経管栄養のおかげで、飲み食いせずに長期間生きられるようになりました。

 3大栄養素以外の微量に含まれる栄養も大切です。ビタミンと呼ばれています。

  • ビタミンCの欠乏 → 壊血病
  • ビタミンDの欠乏 → くる病
  • ナイアシンの欠乏 → ペラグラ
  • ビタミンAの欠乏 → 夜盲症
  • ビタミンB12 の欠乏 → 悪性貧血

 3大栄養素と違ってエネルギーにはならないものの、摂取しないと欠乏症を起こす危険性があります。人体の機能を正常に保つために必要な栄養素です。
 ビタミンは13種類あり、体内ではほどんど合成できないため、食品から摂取しなければいけません

がんと免疫の関わり

 がん細胞も免疫によって排除される異物です。ときに、がん細胞は攻撃をすり抜けて増殖し、大きくなって臓器を破壊してまわります。
 がん細胞の表面にあるPDーL1という分子を、免疫細胞の表面にあるPDー1と結合します。すると、リンパ球の免疫細胞であるT細胞が攻撃をやめてしまうのです。

 このブレーキを解除する薬が2014年に発売されました。PDー1阻害薬「ニボルマブ(プラジーボ)」、CTLAー4阻害薬「イピリムマブ(ヤーボイ)」という薬です。この薬は、免疫チェックポイントという概念で有名になりました。
 免疫チェックポイントの仕組みを発見した、本庶佑 氏とジェームズ・アリソン氏は、2018年ノーベル医学生理学賞を受賞しました。

 免疫チェックポイント阻害薬にも副作用は存在します。どんな薬にも必ず副作用はついてくるのです。
 自己免疫疾患に似た症状が現れることがあります。免疫のブレーキを外すことで、健康な部分を攻撃してしまう事が起こります。
 体の一部を強化すると、体の機能のバランスが崩れて隙が生まれてしまうものです。 

大発見の医学史

 医学の父と呼ばれるヒポクラテスは、患者を丁寧に観察することを心がけていました。そして、たくさんの弟子たちに、70篇を超える資料を著させた医学書を残しました。古代ギリシャでのことです。

 古代ローマでは、ガレノスが動物の解剖を繰り返してし、人体の謎に迫りました。

 ルネサンスの時代になると、一定の条件下で人体の解剖が許されるようになります。ヴェサリウスは、おぼ正しい数の死体を集めて、自らの手で解剖したのです。そして、解剖学大著「ファブリカ」を広めました。

 動脈と静脈の機能は誤解されたままだった。ウィリアム・ハーヴィーは心臓が1回の収縮で送り出す血液と心拍数を掛け合わせて計算したところ、1日あたり245キログラムの血液が全身に送り出されることに気づきました1628年に、血液循環論を発表し、ガレノス理論からの誤解をやっと解いたのです。

 顕微鏡が開発されて、医学に革命をもたらします。

 1661年にイタリアの医師マルチェロ・マルピーギが、顕微鏡を使って毛細血管を発見しました。体の各臓器で肉眼では見えないほど枝分かれしている血管をみつけたのです。酸素と二酸化炭素の受け渡しを行ったのち、静脈に収束していくことが明らかになりました。

 イギリスのロバート・フックは細胞を報告しました。
 レーウェン・フックはレイズマニアで、あらゆるものを拡大させていました。そして、微小動物の存在が明らかになったのです。
 それから長い年月がたち、多くの科学者が流行り病の原因を「瘴気」と考えていたことが、19世紀後半になってようやく微生物が原因であることがわかりました。
 実は、それまでにも「瘴気」説に意を唱えたひとはいたのです。イギリスのジョン・スノウ医師は、コレラが1854年に再度流行したときに地図から分布をとり、とある井戸が原因であることを突き止めたのです。その井戸を使用禁止にしたところ、コレラの蔓延がピタリとやみました。統計データの重要性が伺えるような出来事です。それでも、スノウの報告は無視されコレラは再度流行することになります。

 消毒を広めた外科医とリステリンの話や、日本細菌学の父の細菌の発見の話、偶然見つかったペニシリンは戦争による需要が拡大したことで発展した話など、偉業をなした人物とその歴史を書籍では詳しくたどることができます。

あなたの知らない健康の常識

血液型を知る必要はない

 血液型の検査は数十分で得られて、輸血前には必ず確認し、この作業を省略することは無いからです。
 誤って異なる血液製剤を使うと、命にかかわります。不適合輸血と呼ばれる現象です。

 患者に脱出血が起きて、血液検査をする余裕もないくらいの緊急事態ならば、やむを得ずO型の血液製剤を用いることもあるかもしれません。この場合でも、血液型情報を利用することはないのです。

 1900年、血液には型があることをカール・ラントシュタイナー氏が発見しました。
 人の結成に他人の設計級を混ぜると、凝集して破裂してしまうことがあることに気づいたのです。
 血液型とは、赤血球の表面にある抗原の種類のことを指します。抗原と抗体は鍵穴と鍵のような関係にあり、組合せが悪いと凝集してしまいます。

  • A型の赤血球には、A抗原、抗B抗体
  • B型の赤血球には、B抗原、抗A抗体
  • AB型の赤血球には、A抗原とB抗原
  • O型の赤血球には、いずれの抗原もなく、抗B抗体と抗A抗体の両方がある
  • A抗原は抗A抗体と反応して結合し、凝集して破裂します
  • B抗原は抗B抗体と反応して結合し、凝集して破裂します

 血液型診断が広く受け入れられていますが、赤血球表面の抗原が性格に関連するという説は、荒唐無稽ではないかと思います。人となりは、血液検査でわかるものではありません。

食中毒の勘違い

 ボツリヌス毒素は、きわめて強力な神経毒です。
 乳児がハチミツを食べてはいけない理由で有名な食中毒ですが、大人でも許容範囲を超えて摂取してしまうと食中毒をおこします。普段は摂取しても腸内の生存競争に負けて問題を起こすことがありません。
 ボツリヌス菌は土壌や河川などに存在している、嫌気性の細菌です。酸素を必要としない生き物のことです。
 食品が真空パックされた環境は、ボツリヌス菌にとってよい環境となりえます。真空パックしているのと、安全な食品であることは関係がないのです。

 新鮮をうたっている外食チェーン店などがありますが、食中毒のリスクは新鮮であるかどうかは関係がありません。動物は、さまざまな微生物と共存しており、人間に害をもたらす細菌が存在します。
 厚生労働省は定期的に、生肉や加熱不十分な肉の危険性について注意喚起をしています。特にひき肉の生焼けには十分注意してください。ハンバーグは中心部の色が変わるまで加熱が必要とされています。
 鳥肉には6割カンピロバクターが付いているといわれています。ユッケによる大腸菌もO-111も事件になりました。豚・イノシシ・鹿の多くはE型肺炎ウイルスに感染しており、生で食べると肺炎にかかります。大腸菌は野菜の表面についていることあります。
 帰ったらすぐに冷蔵保存すること。生肉を切った包丁やまな板は、必ず洗うこと。妊娠中は生の食材は避けて、加熱殺菌していない加工品を避けること。これらが、対策となります。

サイト管理人

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わかりました。肉を食べるときはウェルダンでこんがり肉にします。

消毒液は傷の治りを悪くする

 昔は、学校の保健室にも必ず消毒用のマキロンなどがありました。最新では、消毒液を使うと傷の治りを悪くすることがわかり、消毒液は使われていません。水道水で洗い、砂や泥などの異物を丁寧に洗い流すだけで十分なのです
 傷に抗菌薬を使用しても感染の予防にはならず、周囲の細菌が傷に入り込むことまでは防げません。定期的に傷をしっかりと洗浄することの方が大切です。
 例外として、犬や猫によって噛まれた傷は感染リスクが高いので、消毒液を使った方がよいとされています。

 昔は傷は乾燥させるほうがよいと考えられていました。今は軟膏などで湿潤環境を維持するのが望ましいとされています。軟膏のベタつきが気になるからといって、サラサラのクリームを傷に塗ってはいけません。皮脂への刺激が強いクリームは、傷に塗るのには使用しないでください。
 軟膏の成分は、ワセリンなどの油性成分が基材になっています。クリームは油性成分に加えて、水分が含まれているものをいいます。

サイト管理人

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ワセリンはベタつくけれど、化粧品を塗るより良いのではないかと思ってしまう…

頭ではわかっていても、顔がベタつくのはなぁ…

まぁ、美肌〇〇液とかいって、肌に刺激があるのは想像に容易いのは感じていただけると思います。

 うがい薬も風邪の予防に使用されていましたが、最近では水道水でうがいをする方が効果が得られると考えられています。また、うがいの効果自体が限定的とも考えられるとの声もあります。この考えも現時点での、暫定的な正解にすぎません。

感想

 医学の歴史や進歩を学べて、面白かったです。この記事には書きませんが、医療器具の発達や全身麻酔の詳細も、初めて知るひとには衝撃的な内容となっていることでしょう。

 自分の体や医療の知識について、知っていなければならない最低限のことがこの一冊に詰まっています。最低限の知識ではありますが、読み飛ばせるような項目がなく、読むのに時間がかかると思います。
 民間人が知っていなければならない医学の初歩中の初歩は、学ぶことが多いです。そして、大半の人は知らないことが多いと思います。

 N95マスクが在庫不足というニュースを聞いて慌てた方は、今すぐこの本を読んだほうがいいのではないでしょうか?血液型で性格を決めつけていた方に至っては、熟読したほうがいいかもしれません。お金を払っているのだから親や自分の治療・介護をしてもらうのは当然じゃないかと思っている方は、この書籍を読むことと並行してお金の勉強をすることをお勧めします。

 嫌ワクチン本や変わった健康法の書籍を読むくらいなら、この本を読んでみることを推奨したいです。

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