目次
書籍情報
タイトル
人新世の「資本論」
著者:斎藤幸平(さいとう こうへい)
1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。
専門は経済思想。Karl Marx’s Ecosocialism: Canpital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。同書は世界五カ国で刊行。編著に『未来への大分岐』など。
出版
集英社新書
はじめに
温暖化対策として、エコバッグを買った?車をハイブリッドにした?ペットボトルを使わないように毎ボトルをもっている?
その善意は無意味に終わります。
資本の側が環境配慮を装ってを欺く、政府や企業のグリーン・ウォッシュにいとも簡単に取り込まれてしまいます。消費者は現実から目をそむけ、「免罪符」として、消費行動をしてしまうのです。
SDGs(持続可能な開発目的)は、政府や企業のアリバイ作りのようなものであり、気候変動は止められません。人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいため、ノーベル科学賞受賞者のパウル・クルッツェンは、新たな年代に突入したいいました。ひとの活動の痕跡が地球表面を覆いつくしたという意味で「人新世」(ひとしんせい)と名付けたのです。
人間は石炭や石油などの化石燃料を大量に使用し、多くの二酸化炭素を排出するようになりました。産業革命以前には280ppmであった大気中の二酸化炭素濃度が、2016年には、南極でも400ppmを超えています。今も増え続けているのです。
南極やグリーンランドの氷床は融解していて、海面は最低でも6m高かったようです。
人類が築いてきた文明が、存続の危機に直面しているのは間違いありません。
存続の危機を避けるためには、市民ひとりひとりが行動しなければなりません。
正しい行動をとるには、気候危機の原因にまでさかのぼる必要があります。二酸化炭素の排出量が増え始めたのは、資本主義が本格化してからです。原因の鍵を握るのは資本主義にほかなりません。
その資本について考え抜いた思想家がカール・マルクスです。
より良い社会を作り出すための想像力を解放するために、150年ほど眠っていたマルクスの思想のまったく新しい面を「発掘」し展開していきます。
気候変動と帝国的生活様式
2018年にイェール大学のウィリアム・ノードハウスはノーベル経済学賞を受賞しました。この受賞は環境運動家たちから強い批判を浴びたのです。
問題になっているのは、ノードハウスが1991年に発表した論文です。炭素税を導入し、適切な二酸化炭素削減モデルを構築しようというものでした。彼がいうには経済成長と環境配慮の「バランス」なのだそうです。そのバランスは経済成長の側に傾きすぎていたのです。経済成長により発達した技術が、気候変動に対応できるようになると主張していました。
帝国的生活様式とは
資本主義の歴史を振り返れば、先進国における豊かな生活の裏側で、さまざな悲劇が繰り返されてきたのです。グローバル・サウスとは、グローバル化によって被害受ける領域ならびにその住民のことをいいます。
国や企業はコストカットを優先して、グローバル・サウスから労働力の搾取と自然資源を収奪してきたのです。
ドイツの社会学者ウルリッヒ・ブラントとマルクス・ヴィッセンは、グローバル・サウスからの資源やエネルギーの収奪に基づいた先進国を「帝国的生活様式」と呼んでいます。
バングラデシュで生産される綿花も、ファッション業界からの需要拡大に合わせて生産しなければなりません。農民は、遺伝子組み換え品種の種子と化学肥料、除草剤を毎年購入しています。借金を抱える農民も少なくありません。このような犠牲を増やし、大企業の収益は上がるのです。
帝国的生活様式は環境にも影響がある
2016年に発行したパリ協定が目指しているのは、2100年までの気温上昇を産業革命以前と比較して2℃未満に抑えこむことです。しかし、気候危機はすでに始まっています。
- 日本の海域でサンゴの死体が増えている
- 夏の熱波で農作物の収穫に影響が出ている
- 台風・ハリケーンの巨大化が進んでいる
- 豪雨の被害が年々拡大している
- 冠水による被害も多い
- 乱開発を進めるアマゾン熱帯雨林での火災
- ブラジルではダム決壊の事故により一気に汚泥が流れたことで、生態系にダメージを与えた
- お菓子、加工食品などの様々な用途に使われるパーム油はアブラヤシから採れる。アブラヤシの栽培面積は拡大しており、熱帯雨林の森林破壊が急速に進んでいる
- 森林破壊の影響で土壌侵食が起き、川魚が減少している
- オーストラリアの山火事
- 田畑の肥料を作成するのに、化石燃料を使って二酸化炭素を大量に発生させている
- 農場の発展は、窒素化合物の環境流出によって、硝酸汚染や富栄養化による赤潮が発生している
- 南米チリで大量生産されているアボカドの栽培が、水不足を深刻化させている
- 水やエネルギー資源をめぐって、社会的紛争が勃発する可能性が高い
グローバル・サウスから資源と労働力を奪い、経済を発展させてきた弊害が、水被害や気温上昇となって私たちの生活に舞い戻ってきています。
資本主義社会の危機は他にもある
帝国的生活様式にとって、 転嫁できるグローバル・サウスがないのは致命傷になります。しかし、中国やブラジルといったこれまで受け皿となっていた国々も、急速な経済発展を遂げる様になりました。収奪する余地が、無くなってきているのです。
環境的不可も、搾取するにも、限界を迎えつつあります。
資本主義の限界
現在、富裕層のトップ10%が、世界で全体で排出されている二酸化炭素の半分を排出しています。先進国で暮らす日本人は、ほぼトップ10%の範囲内です。
電気自動車の普及
「グリーン・ニューディール」政策の1つとして、電気自動車の普及があります。二酸化炭素の排出量を減らすためです。ですが、そんなに簡単に環境問題を解決できるわけがありません。
電気自動車にはリチウムイオン電池が不可欠です。このリチウムイオン電池の製造には問題があります。まず、さまざまなレアメタルが大量に必要です。限りある地球の資源レアメタルの採掘に、エネルギーを費やさなければならないのです。
リチウムそのものの発掘も必要です。チリが主な産出国になっています。リチウムの採掘は、リチウムを含んだ地下水をくみ上げて、水分を蒸発させることで採取できるのです。問題なのは、くみ上げる量です。1秒あたり1700ℓもの地下水をくみ上げているといいます。当然、フラミンゴの減少といった、地域の生態系には影響がでてしまうのです。
コバルトも電気自動車には必要です。コンゴ南部などで採掘しています。採掘方法は木槌などの原始的な道具で、手作業で行われています。奴隷労働や育児労働となってしまっているのです。賃金は1日あたりわずか1ドルほどです。この危険な採掘により、多くの死者を出しています。
電気自動車が普及し、3億台に近い数が生産されとします。そこで削減される二酸化炭素の排出量は1%と推定されています。
魅力的に聞こえる電気自動車は、環境改善ではなく企業のお金儲けなのかもしれません。
無くなってしまう資源を、別の限りある資源から補っているだけの技術です。
資本主義は幸せか?
あるレベルを超えると、経済成長と人々の生活の向上に明確な相関関係がみられなくなるという指摘があります。アメリカとヨーロッパ諸国の比較をしてみましょう。
ドイツや北欧などの多くは、ひとりあたりのGDPがアメリカよりも低いです。けれど、社会福祉全般の水準はずっと高くなっています。医療を無償で受けられる、高等教育の援助が多くある、などの福祉が充実している国が多いです。
アメリカでは無保険のせいで治療が受けれない人や、返済できない学生ローンに苦しむ人が大勢います。
身近な例でいえば、日本のひとりあたりのGDPもアメリカよりずっと低いです。ですが日本人の平均寿命はアメリカよりも6歳長いのです。
先進国なのに、なぜ貧しいのか
現在のシステムは。経済成長を前提にした制度設計がされている。だけれども、おかしくないだろうか。資本がこれだけ豊かなのに、先進国で暮らす大多数の人々が依然として「貧しい」のは…
日本には特有の事情があります。高度経済成長を恩恵を受けて、逃げ切るだけの団塊世代の人口が多いことです。一線を退いたそのときから「このままゆっくり日本経済は衰退していけばいい」ということなのです。
「脱成長vs.経済成長」という形で、問題を矮小化されてしまっている部分があります。
ゆえに、環境問題を謳ったエコバックなどを買ってしまうのです。エコバック、毎回ランナップが増えていませんか?塩化ビニルのように、燃やしたって環境にさほど影響がないものを無くすために、作った時点で環境に有害なものを代用するというアリエナイことが起きてしまうのです。いとも簡単に飲み込まれています。
物を購入しただけで、環境に協力してますと言えたら気軽です。削減すべきは、SUVや牛肉、ファスト・ファッションなのです。
日本社会では、労働分配率は低下し、貧富の格差はますます広がっているのです。ブラック企業のような労働問題も深刻化しています。
万人にとって繁栄はいまだ訪れていません。
世界で最も裕福な資本家26人は貧困層38億人(世界人口の半分)の総資産と同額の富を独占しています。
マルクスが目指していたもの
経済成長 | 持続可能性 | ||
---|---|---|---|
1840年代~1850年代 | 生産力至上主義 | 〇 | ✖ |
1860年代 | エコ社会主義 | 〇 | 〇 |
1870年代~1880年代 | 脱成長コミュニズム | ✖ | 〇 |
生産力至上主義との決別
マルクスがエコロジー研究のなかで集中的に読んだのが、農学者カール・フラースです。古代文明の崩壊の過程を描いた本がありました。この本によれば、過剰な森林伐採が原因だといいます。土着の農業が困難になってしまったと載っています。現在、その土地一帯は感想しきってしまっているが、かつではそうではなかったようです。森林に人の手が入り込む危険性を、フラースは不安視していました。
マルクスは資本主義と自然環境の関係性に着目していました。資本主義の技術革新によって、物質代謝をいろいろな方法で外部に転嫁しながら時間稼ぎをしていきます。マルクスはフラースの警告のなかに「社会主義的傾向」見出していくことになるのです。
エコ社会主義から発展させる
マルクスは自然科学やエコロジーの研究に取り組むようになりました。同時に、資本主義以前の共同体社会の研究にも、大きなエネルギーを割くようになっていったのです。
マルクスはゲルマン民族に注目しました。ゲルマン民族は持続可能な農業を営んでたのです。
ゲルマン民族は、土地を共同で所有し、生産方法にも強い規制をかけていました。土地だけでなく、木材、豚、ワインなども共同体の外に出すことも禁じられていたのです。
彼らは、全員が等しく放牧できるように共有地を用意していたのです。それだけではありません。くじ引きを導入して、土地の定期的な入れ替えを行っていました。富を独占できないように注意していたのです。
そのことから、「持続可能性」と「社会的平等」は密接に関係しているのではないか。資本主義に対し、コミュニズムを打ち立てることもできるのではないか。そんな風に意識するようになっていきます。
脱成長へ向かうマルクス
マルクスはゲルマン民族からヒントを得て、14年にも及ぶ研究の結果を出しました。定常型経済に依存した持続可能性と平等が、将来の社会の基盤となると結論づけたのです。
西欧近代社会が資本主義の危機を乗り越えるために、意識的に取り戻さなくてはならないものだと思っていたようです。
要するに、マルクスが最晩年に目指したコミュニズムは、平等で持続可能な脱成長型経済ということです。
各国の脱成長コミュニズム
気候市民議会
2019年1月に、フランスで「国民大論争」を実施することを発表しました。
150人規模の市民議会の内容は「2030年までの温室効果ガス40%削減に向けての対策」というものです。
市議会に参加するひとの選出方法は、くじ引きでメンバーが選ばれます。完全にランダムではなく、年齢、性別、学歴、居住地などが、実際の国民の構成に近くなるように調整されていました。
市民議会においては、専門家がレクチャーを行い、そのうえで参加者は議論を行い、最終的には投票で全体の意思決定をします。
市民150人の気候変動対策のなかには、2025年から飛行場の親切禁止、国内線の廃止、自動車の広告禁止、気候変動対策用の富裕税の導入、などが含まれていたのです。
こんな社会運動がフランスで起こっています。
無料の果実
2019年にデンマークのコペンハーゲンは、誰もが無料で食べて良い、「公共の果樹」を市内に植えることをきめました。今後、自然体が都市果樹園になるでしょう。
町中での野菜・果実栽培は、飢えた人に食料を供給するだけでなく、住民の農業や自然環境への関心を高めています。
排気ガスまみれの果実など、誰も食べたくないでしょう。すると、大気汚染を減らすために、自転車道を増やすなどの動きがでてきます。
経済観念では生まれなかった、希望の果実を実らせつつあります。
フィアレス・シティ
スペイン・バルセロナ市とともに戦う各国の自治体です。
フィアレス・シティの姿勢は、2020年1月に発表されたバルセロナの「気候非常事態宣言」にも表れています。
気候変動非常事態宣言は、2050年までの脱炭素化という数値目標をしっかりと掲げ、数十項に及ぶ分析と行動計画を備えたマニフェストです。
二酸化炭素排出量削減のために、都市公共空間の緑化、電力や食の地産地消、公共交通機関の拡充、自動車や飛行機・船舶の制限、エネルギー貧困の解消、ごみの削減・リサイクルなど、全面的な改革プランを掲げています。
「豊かな国の、とりわけ最富裕層による過剰な消費に、グローバルな環境危機、得に気候危機のほとんどの原因があるのは、間違いない。」
This is not aFrill: Climate Emergancy Declaration, 19.(last access on 2020.5.22)
宣言の中に、過剰消費をすることへの強い批判を示しているのです。
フィアレス・シティは、グローバル・サウスへのまなざしを持っています。アフリカ、南米、アジア、77もの拠点が参加しています。国際的に開かれた自治体主義を目指しているのです。
食料主権
農業を自分たちの手に取り戻し、自分たちで自治管理することは、生きるための当然の要求です。この要求を「食料主権」といいます。
中小規模農業従業者の多いヴィア・カンペシーナが目指す伝統的農業やアグロエコロジーの方向性は当然負荷も低いです。
全世界で2億人以上の農業従事者がかかわっているヴィア・カンペシーナの運動を、日本人は知っていますか?
サイト管理人
金銭的に無理ですが、アグロフォレストリーの実現ができたら、食料事情が変わるかもしれません。
田畑は耕さないほうが炭素が抜けずに作物が育つなどの、新常識を日本の農家はどれだけ知っているのでしょうか?
持続可能な農業、農民の道。エコ技術が載っている分厚い本を読んでいなければ、私も知りえなかったです。
無責任な保育園経営
利益重視の保育園は、経営状況が悪化すると突然閉園してしまう社会問題が起こっています。
2019年に世田谷区にある保育園が突然倒産手続きをし、閉園したときのことでした。保育士たちは、自らも会社の閉園の決断に戸惑いながらも、「介護・保育ユニオン」の力を借りて、なんと自主営業の道を選択したのです。
現実、経営者がいなくても、能力的には問題なく、事業を継続することができています。人経費の捻出や、保護者との信頼関係を保つのは容易ではないでしょう。
しかし、会社経営者や、コンサルタントなどは必要ないことが証明されました。余計な人経費はいりません。
労働者と消費者が連帯することで、より安定した共同組合型の自主運営ができる可能性が開かれています。
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