※読書推薦人が興味をもった部分を紹介します。
はじめに
「日本の製造業、ものづくりは、もう終わった。日本は完全に新しい技術の波に乗り遅れている」
このように言われることが、悔しくてなりません。
キャノンだけでなく、富士フイルムも、フイルムメーカーに安住せずに、技術を転用して新しく、医療や化粧品の分野に進出したからこそ、いまも生き残っているのです。
本書で日本のものづくりの力が少しでも伝わることを願っています。
目次
書籍情報
タイトル
左遷社長の逆襲
ダメ子会社から宇宙企業へ、キャノン電子・変革と再生の全記録
著者
酒巻久
キャノン電子株式会社代表取締役会長です。
VTRの基礎研究、複写機開発、ファックス開発、ワープロ開発、PC開発に従事しました。1999年3月よりキャノン電子株式会社社長に就任し、6年で利益率10%超の高収益企業へと成長させます。近年は宇宙産業に参入し、話題を集めました。2021年3月より代表取締役会長を務めています。
出版
朝日新聞出版
異例の人事
「秩父へ行ってくれないか」
そうキャノンの社長から子会社キャノン電子の就任を要請されたのは、ある秋口のことでした。
酒巻は若い頃からもの言う社員でした。何度も企画書をまとめ上司に提出したところ、ろくに読みもしないで突き返されるできごとがあったのです。
「若い社員の提案を全否定するような会社では働けません」
そう上司に言い放つと、そのまま家に帰ってしまい、翌日から出社拒否に及びました。
1週間ほどして、上司から電話があり、
「企画をやらせてやるから、会社に出てこい」
上司にゴマをすってまで出世したいとは思いませんでした。純粋に仕事のできる部下として、上司の信頼を勝ち取る必要があったのです。人の何倍も勉強しました。
「これは左遷ですよね」…
「秩父には工場がある。営業、管理だけでなく、技術もわかる経営者でないと再建は無理だ。あの会社を立て直せるのは、酒巻、お前しかいない。後は頼む」
そういって、頭を下げられたと受け止めました。
酒巻は、これまでの経験から、赤字の部署や会社の再建には、最初の1年には人事に手をつけず、人間観察と赤字の原因究明に徹する必要があることを知っていました。
まずは1年、先入観を排除して、じっくり観察だな―。
酒巻はそう思いながら駅の改札でたのです。
残す人を見極める
改革ロードマップ
「キャノン電子を再建したい。そのための経営方針を述べたいと思います。」
- コスト削減
- 営業収支の改善
- 自己資本の充実
- コアビジネスへの注力
- 顧客重視
「真っ先に行うべきはコスト削減です。ムダをなくせば、そのぶんだけ利益が生まれます。価格競争力もつくのです―」
役員・幹部はみなメモを取っていが、多くの人は下を向いたままでした。
具体的な目標を決める
会社としての目的、それを叶えるための目標、その手段を次のようにきめました
- 会社として達成すべき夢
- 世界でトップレベルの高収益企業になる
- それを叶えるための目標
- 10年間で売上高経理利益率を15%にしよう
- 手段
- すべてを半分にしよう
あちこちで思わず顔を見合わせ、戸惑いの表情を見せる者が相次ました。
できるわけないだろう。そう顔にかいてあったのです。
正しい指示と報告
正しく指示や報告が現場に伝わっているかどうかは、簡単にわかります。指示を出してしばらくした後に、現場の従業員に「〇〇の指示は聞いているか」とたずねればいいのです。
誰がボトルネックになって滞っているかは、指示系統を辿っていけばすぐにわかります。
正しい指示の出し方と受け方を、具体的にこう教えました。
指示をするとき
- いつまでに何をしてほしいのか明確に伝える
- 必要により目的、背景、期待値などを説明する
- 報告の方法を指示する
指示を受けるとき
- いつもでに何をして、どのように報告すべきかを把握する
- 指示内容の理解が不十分な場合は必ず質問する
- スピード重視を常に意識する
利益が出る組織に作り変える
利益目標を超過した分は、社員に還元する
人はやりがいがないと必死に働こうと思わない。キャノン電子では、利益率の年度目標を実際の期待値より少し低い値に設定し、それをクリアした分はボーナスとして社員に還元しています。
左遷で不遇をかこっていた男
夏木は、生産技術のエキスパートだが、左遷にあい、腐っていたのです。
酒巻がくる数代前の社長時代、自分の部下が1人も昇進しなかったのが納得できず、社長室に怒鳴り込んだ結果、不遇をかこっていました。
酒巻の厳しさを目の当たりにしながらも、キャノン電子は変わるかもしれないと希望を抱いていたのです。酒巻は、頭ごなしに否定することは1度もありませんでした。必ずヒントをくれたのです。
データ主義
酒巻はデータ主義者です。あらゆるデータを評価し、考えることを習慣化していました。会議室や応接室などは利用状況をデータで把握し、「これはいる」「これはいらない」と判断するのです。
キャノン電子は秩父市内に体育館を所有していました。会社が体育館を使用することはなく、子どもの遊び場となっていたのです。
「子どもがケガしたら、誰の責任になるんだ?」
そう指摘されるまで誰もそのことに気づきませんでした。事故が起きれば、キャノン電子はなにかしらの責任をとることになるでしょう。
その体育館は、秩父市に引き取ってもらいました。
強みを見極め、自ら動く社員に変える仕掛け
生産技術を強化する意味
要求されている製品や部品の品質を保ちつつ、低コストかつ短納期で効率よく量産する生産体制を築くのが仕事です。
具体的な業務内容
- 現状の生産体制の課題抽出から改善
- 新規生産ラインの立ち上げ
- 工場の増新設
など多岐にわたります。
不良品が出ないようにすれば、利益として乗っかってくるのです。
不良品が出なければ、発注元は品質管理の手間がありません。不良在庫を抱えることもなければ、失敗コストの削減にもつながります。付加価値もつくかもしれないのです。
今週は何を変えたの?
週末の金曜日のこと、酒巻がふらっと横瀬工場にやってきました。
「今週は控除の何を変えましたか?」
必死になって、いくつか報告をすると、漠然と仕事をするのではなく、1つでも改善点を見つけるようにとアドバイスを言って帰っていきました。
翌週の金曜日、また酒巻がやってくる。
「今週は何を変えたの?」
変えたところを具体的に答えると、
「いいね」
と帰っていきました。
成果は具体的な数字で「見える化」する
先入観を捨てて、100円ショップで購入したカゴやシャワーヘッドなどの性能を確かめてみました。結果、高い部品を購入しなくても十分に使えるものがたくさんあることがわかったのです。
このような削減効果について、さかまきは必ず全社的に「目に見える数字」で発表します。具体的な数字で共有することが重要なのです。
繰り返し言う
社員のベクトルを合わせて同じ方向に向かうことは、何よりも大事なことです。
大事なことは、何かしらのイベントを用意して刺激があるように伝えていきます。
どんな仕組みを、時が経てば古くなり、ムダが出てきます。他者他業種に学ぶことで新たな発見を得ることは珍しくないのです。
現状を改めることは常に善です。
転がる石に苔は生えません。
宇宙への挑戦
新事業を起こせない会社は必ず衰退する
会社は事業をおこしていかないと必ずジリ貧になります。
どうしたものですか。
いつもでも市場が頭打ちのカメラや複写機に頼っていたのでは技術者も成長できません。
そう考えたとき思い浮かんだのは、幼い頃から夢に描いていた宇宙への憧れでした。
宇宙事業に魅かれて優秀な人材が集まる
民間企業が宇宙に挑戦するということにまず驚きました。研究開発に使える予算が大学と桁が違うことにも衝撃を受けました。そんな声と共に、専門知識をもつ新しい人材が集まったのです。
キャノン電子は、彼らに高額な報酬を提示してスカウトしたわけではありません。全色をなげうって転職してきたのは、酒巻が掲げた宇宙への夢が魅力的かだったからです。
ものづくりは素直に
「宇宙部品は壊れても宇宙には直しに行けないぞ」
と繰り返し言う酒巻です。けれど、この宇宙プロジェクトでは部門同士のプライドによる衝突は皆無でした。
我々は初めてだし、設計も初めて、外部からきた専門家の人たちだってそうでしょう。お互いを尊重して素直に意見し、よりよいものを作りあげようとしたのです。
ナゼ2号機の開発を急いだのか
初号機の内製化率は60%ほどだったが、2号機ではセンサーやアクチュエーターなどの部品が自社製になったことで、80~90%へと引き上げられました。酒巻のめざすコンポーネントの100%内政に近づいたのです。
初号機の検証も終わらないうちに短期間で開発をめざすことには反対する声もありました。酒巻の強い意向により、検証と並行する形で2号機の開発は進められたのです。
ナゼ2号機の開発を急いだのか?
- 商業ベースで求められるスピード感を身につける
- 挑戦的な課題を与えることでさらなる成長を促す
そんな狙いがありました。
適切な負荷をかけることで初めて人は伸びていきます。彼らの成長を期待したのです。
また、スピードを意識するには「よくないこと」こそ情報を共有する必要があります。
リベンジを宣言
打ち上げ失敗直後に画像情報システム研究所の若手のスタッフたちがみせたうちひしがれた姿をよく覚えています。ショックのあまり顔を引きつらせている者もいました。
失敗してから、次の打ち上げまでに手をこまねいていれば、誰も民間からチャレンジする者はいなくなります。だからこそ、リベンジの機会を得ないといけません。
そして1年後、見事に東大の人工衛星を目標起動に放出しました。歓喜に沸いた瞬間です。
夢
酒巻にはどうしても叶えたい最後の夢があります。
世界初の民間企業による月面着陸実況中継です。
着陸する習慣をYouTubeでLive中継することです。
感想
会社のやりとりが会話形式で進み、会社経営の基本を物語のように学べます。
フリーランスでやっていこうとする方も、削減やケチケチ根性から始めるのが普通です。
仕事のアドバイスを物語で知りたい方にイチオシできる書籍となってました。
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