〈序文〉の戦略/著者:松尾大

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書籍情報

タイトル

〈序文〉の戦略の戦略

文学作品をめぐる攻防

発刊 2024年2月13日

ISBN 978-4-06-534598-6

総ページ数 300p

著者

松尾大

成城大学助教授、東北大学教授、東京藝術大学大学教授を歴任。
東京藝術大学名誉教授。専門は美学。

出版

KODANSHA

もくじ

  • 第I部 序文の防御戦略を記述するさまざまな理論
    • 第1章 伝統レトリック
      • 法定モデル
      • 問題状況
      • 定義の問題状況
      • 性質の問題状況
      • 転移の問題状況
      • 論証のフィギュール
      • 比較問題
      • 聞き手の好意を得ること
      • 使用と説明
    • 第2章 メタ談話
      • 発語内行為標識
      • ヘッジ
      • 確実性標識
      • 言説帰属者
      • 態度標識
      • コメンタリー
    • 第3章 ポリフォニー
      • 否定
      • 譲歩
      • 比較
      • 条件文
      • 確認
      • ことわざ
      • 暗示引用
      • アイロニー
      • パロディー
    • 第4章 読 者
      • 間接的に特徴づけられた読者
      • 直接的に特徴づけられた読者
      • 読者層の表示
      • 読者のふるまい方自体の表示
      • 記述的用語
    • 第5章 言語行為
      • 謝罪
      • 弁明
      • 正当化
      • 説明
    • 第6章 ポライトネス
      • 尊敬
      • 謙譲
      • 敬遠
      • 気後れ
      • 複合的使用
  • 第II部 攻撃側のさまざまな訴因
    • 第7章 涜 神
      • マヌティウス
      • ランバン
      • ヒッフェン
      • イーヴリン
      • ハッチンソン
      • デュファイ
    • 第8章 猥 褻
      • 出版自体の可否
      • 浄化しない
      • 選択による浄化
      • 置換による浄化
      • 削除による浄化
    • 第9章 剽 窃
      • 過失
      • 偶然の一致
      • 非類似
      • 単なる類似
      • 先行
      • 古典の翻訳
      • 複数の説明
      • より強烈な≪対抗非難≫
    • 第10章 背徳と反体制
      • 作品自体の性質に基づく議論
      • 作品と作者・読者の関係に基づく議論
      • 著者と語り手の距離づけによる議論
      • 逆の弁明
    • 第11章 性別や人種に関する規範に違反
      • 主題に関する条件
      • 読者層に関する条件
      • 主題に関する条件
      • 読者層に関する条件
      • 分量に関する条件
      • 抑圧
      • 人種差別
    • 第12章 有害無益
      • 教育的意義⑴
      • 教育的意義⑵
      • 予備教育
      • 娯楽
      • 読者の態度
    • 第13章 虚偽と実在指示
      • 事実性の主張
      • 「発見された手稿」
      • ありそうもない出来事
      • 虚偽性の主張
      • 事実と虚偽の混合
    • 第14章 ジャンルの規則に違反
      • ジャンル誤認
      • ジャンル誤認なしの規則違反
    • 第15章 悪 文
      • サミュエル・ジョンソン
      • ドーヴァー・ウィルソン
    • 第16章 不出来
      • 執筆時の悪条件
      • ≪適合≫
      • 課題の困難さ
      • 執筆能力、執筆態度、執筆目的
  • 結論

書籍紹介

どんな本か

 文学研究の新しい視点を提供する一冊です。この本は、さまざまな文学作品における序文の役割や戦略を、作家や出版社、読者の視点から巧みに分析しています。

序文とは何か

 序文が単なる導入ではなく、作品全体の理解を形作る重要な要素であると論じています。序文の中に潜む意図や目的、あるいはそれがどのように読者の認識に影響を与えるかについて深く掘り下げる彼の分析は、文学愛好者や研究者にとって魅力的な視点をもたらします。

 例えば、特定の作家の序文を解釈することで、その作家の作品全体の意図やスタイルを見抜く手がかりを得ることができると述べます。また、序文を通して出版当時の社会状況や文学的背景を探ることができる点も強調しています。

注目点

 特に印象的なのは、松尾が紹介するいくつかの事例研究です。古典から現代文学まで幅広いジャンルの作品を取り上げ、それぞれの序文がどのように作品の文脈や受容に影響を与えているかを具体的に示しています。これにより、序文が単なる補足的な部分ではなく、作品を理解する上で不可欠な役割を果たすことがわかります。

どんな人にオススメか

 文学作品における序文の重要性を見過ごしがちな読者や、これから文学研究を始めようとする学生、さらには作家自身にも大いに参考になるでしょう。松尾大の緻密な分析と豊富な知識が詰まった『〈序文〉の戦略の戦略』は、文学研究において新たな発見をもたらす必読の一冊です。

試し読み

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

読者層の表示

 序文には読者層を示すものと、読者の振る舞いを示すものが含まれます。読者層を示す方法には様々な手法が存在します。

 特定の読者に自分向けの書籍であると感じさせ、読書意欲を掻き立てることが可能です。また、「しかし」などの逆説的表現を用いて特定の読者層を意図的に排除する方法もあります。

 物語の序文では、登場人物と読者との共感性を強調することがあります。これは、登場人物に身近さを感じてもらいたいという狙いからです。

 さらに、読者層が広いことを強調することも一つの戦略です。専門家から初心者までを対象にすることで、より広い範囲での販売促進につながります。

作品と作者と読者

 ルネッサンスの詩人リチャード・バーンフィールド(1574-1620年)を例に、作品と作者との距離感を見てみましょう。問題が起こったのは『シンシア』(1595年)の「礼儀正しい読者へ」で、前作『恋する羊飼い』(1594年)で少年愛を描いたために浴びせられた非難に対して物語とは距離を置いていると語られています。

その主題、つまり少年に対する羊飼いの愛に言及して『恋する羊飼い』を私の意図とは違ったふうに解釈をした人もいた。この過ちを私は弁明するつもりはない。なぜなら私はそれを決して犯してはいないからである。

Barnfield 1595,pp. 3-4より

 作中の人物が同性愛者であるから作者も同性愛を是認なし実行するものだという非難がありました。これに対して、作者は作品世界から距離をとっていると反撃しています。

有害無害

教育的意義

 19世紀に入ると、現実生活を描いた作品が増え、文学が教訓を与える手段として弁護されるようになりました。登場人物は、読者にとっての模範としての役割を果たします。

 若者の日常生活にも通じる内容を取り入れることで、若者層に対する有害な影響を避けつつ、実用性の欠如という批判を回避しています。

娯楽

 文学は教育的有用性だけでなく、娯楽としても十分価値があると考える人もいます。娯楽的な作品を提供することで、読者に対して価値を提供しているとの反論もあります。

読者の態度

 序文で、作品の良い点にも目を向けるように求める人もいます。「各人が自分の批評基準を持ち、その判断が正当だと考えています。」加えて、批判的な人々の性格が「不幸」であると指摘し、説教する傾向にあると述べています。

執筆能力

 執筆能力を挙げる例としてはイギリスの詩人スティーブン・ダック(1705-56年)の『折々の詩』(1736年)の序文があります。

本書のもろもろの欠点を大目に見てもらうよう読者を説得したいもう一つの動機は、本書で一番古い詩は6年ちょっと前の作であるが…その頃はラテン語がまったく読めなかったということです。

Duck 1764, p.xii

 模範としたホラティウスを十分模倣するのに必要なラテン語能力のなさに欠点を帰しています。

 また、「慰みとして書かれた」などを序文に書くことがあります。読者がその背景を理解すれば、一見の欠点が欠点でなくなることを伝えることが目的です。世間や自分自身での評価が低くても、それが「安らぎ」を与える証拠となる序文でもあります。

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