※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
目次
はじめに
大学一、二年生に向けた大人数の授業では、私が医療現場や貧困地区の子育て支援の現場で行ってきたインタビューを題材として用いることが多いです。そのときに、学生から次のような質問を受けるときがあります。
「先生の言っていることに客観的な妥当性はあるのですか?」
「客観性」「数値的なエビデンス」は、現代の社会では心理とみなされているが、客観的でなくても意味のある現象はあるはずです。
働く意思のない人を税金で救済するのはおかしいと言う人がいます。人には事情があるのです。パートナーのDVから子ども連れて逃げてきて、暴力の後遺症でうつ病に苦しんでいる人に出会うこともありました。安心して働く環境を手にすることができないならば、社会の側が排除しているのかもしれません。社会が生活を支えることは自然なことでしょう。
本書では、私たち自身を苦しめている発想の原因を、数値と客観性への過度の信仰のなかに探ります。
書籍情報
客観性の落とし穴
第1刷 2023年6月10日
発行者 喜入冬子
発行 (株)筑摩書房
装幀 クラフト・エヴィング商會
印刷・製本 中央精版印刷(株)
ISBN 978-4-480-68452-3
総ページ数 191p
村上靖彦
基礎精神病理学・精神分析学博士(パリ第七大学)、大阪大学大学院人間科学研究科教授・感染症総合教育研究拠点CiDER兼任教員。専門は現象的な質的研究。
ちくまプリマー新書
心の客観化
作者: Hachel
哲学における心の探求は、自分自身についての観察によって成り立っています。デカルトが「我思う故に我あり」と書き留めたのは、自分自身が思考することを自分で意識できるという内省に求めた営みでした。
近代の哲学は、世界を認識する主観性の構造を考察するという仕方で発展しています。「自己」が確保されたからこそ、世界を客観として眺めることもできるようになったのです。
これ以降の哲学の流れにおいても、「自己」「主観性」の探求の多くは、それを経験から切り離そうとする方向性をもっていました。
この流れは心理学の登場によって変わります。行動主義心理学では、研究対象となのはあくまで客体化された心理現象であり、人間が被験者であっても問題になるのは事物的な反応に限られるのです。社会的文脈やその人と他の人との人格的な交流は度外視されます。現在非常に発達している認知科学や脳神経科学も、研究の基本的な構えにおいては行動主義心理学と変わりません。心はあくまで刺激に対して反応するデータとしてとらえるのです。
統計に支配された世界
Image by Gundula Vogel from Pixabay
科学哲学者のイアン・ハッキングは、世界そのものが数字化したときに、世界は統計によって支配されることになったと書かれています。
統計学が力を持つ現状は、自然と社会のリアリティのありかが具体的な出来事から、数字へと置き換わったことの象徴です。統計は世界のリアリティについてのある程度の傾向を示す指標と見なされているけれど、次第に統計が世界の法則そのものであるものと考えられるようになりました。とハッキング言います。
そうなると、「平均寿命」という単なる数字が日本を構成する事実そのものとなります。1人1人の寿命は人それぞれであるので、「世界一の長寿国」個人の余命を説明するわけではありません。独居なのか、病院で寝たきりなのか、認知症なのか、元気なのか、90歳でもさまざまでしょう。
客観性の生々しさ
Image by Dina Dee from Pixabay
私は客観性と対照させて、「経験の生々しさ」という言葉を使っています。
経験の生々しさは生きている現実感の土台ですが、言葉で表現しつくすことができません。インタビューは、人選の要約であり近似値に過ぎないのですが、語ることが難しい経験をあえて言葉にしているのです。
語ることの難しさゆえに、ぎくしゃくした感じこそ生々しさは顔をのぞかせます。経験は語りえないものでもあり、沈黙することも尊重されるべきであるということも意味しています。
経験の内側
Image by 🆓 Use at your Ease 👌🏼 from Pixabay
客観とは異なる視点、「経験の内側」とはいくつかの理由で「主観」ということではありません。
他人の経験についてもその人の位置から出発して記述する方法だからです。また経験は人との交流や葛藤のなかで生じるもので、心のなかで主観を描くものでもありません。
口調にある人をサポートするケアワーカーの実践は、苦しみや困難が1人ひとり異なります。客観的な診断名で議論することができないものがあるのです。
外から対象化して類型化するだけでは、本人の経験にとって重要な苦痛が抜け落ちてしまいます。
あとがき
大学で教えていると学生たちが苦しそうに感じることも少なくありません。競争と勤勉さという社会規範に多くの若者はますます従順になっているとかんじますが、時に別のタイプの生き方を探す人も少ないながら見受けられます。
どちらにしても、別の方向性もあるのではと考えられるためのヒントになると嬉しいです。
感想
サイト管理人
数字と競争に追われるようになったのは歴史のなかで近時200年間の西欧型社会においてだけです。考え方を変えるだけで、苦しくなくなることもあるのではないでしょうか。とのことです。
自分としては、競争をしてもらって自分が買った財産が順調に値打ちを上げてくれればそれで良いと思っています。
お金がなくても、他の人がやりずらいような事業であれば、特需なビジネスも眠っていそうな気もします。数字を考えずに、経験と知識を持って別の方向を向けると、案外、道が見つかるかもしれません。
いったん経済観念や科学的根拠といったものから離れるヒントを、この本から学んでみてはいかがでしょうか。
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