病原体の世界

※読んだ本の一部を紹介します。

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

はじめに

 天然痘、ペスト、コレラ、インフルエンザ、新型コロナウイルス、感染症を引き起こすウイルスは人類社会に大きな爪痕を残してきました。

 医学の立場からみると数々の病原体が脅威です。しかし、生物学の立場からみると驚異的な進化を遂げた部分が見えてきます。

書籍情報

タイトル

ブルーバックス B-2211

最小にして人類最大の宿敵 病原体の世界

歴史をも動かすミクロの攻防

著者

旦部幸博

北川善紀

出版

講談社

細菌における進化と生存の基本戦略

ポイント
●細菌は手軽に半永久的に分裂することができる。
●性がない代わりに、突然変異やDNAの取得、寄生といったかたちで多様性を広げる。

 細菌の核様体は通常、1本の環状DNAだけで構成されており、手軽かつ半永久的に分裂することができます。

 大腸菌では約15分ほどで分裂を繰り返し、指数関数的に増殖していきます。多くの細胞分裂を繰り返すので、突然変異を起こした個体も多数生まれるのです。生存に必要な遺伝子を失って死滅する変異体も出てきますが、抗生物質に耐性がついた有用な遺伝子を獲得した変異体が出現します。

 こうした突然変異体の一部が適応することで子孫を残していき、遺伝的多様性の確保につながると考えられているのです。

 最近の中には、他の菌のDNAは取り込むものがいます。形質転換と呼ばれる現象で、遺伝的工学に応用されているものです。また、寄生して遺伝子を採取する菌もいます。

 最近には性がない代わりに、別のかたちで遺伝子のやりとりを行い多様性を広げているのです。これが、細菌の生存戦略と考えていいかもしれません。

A型インフルエンザウイルス

ポイント
●ヒトインフルエンザが鳥に感染することは滅多にない。
●トリインフルエンザが人に感染することは滅多にない。
●ヒトインフルエンザとトリインフルエンザの両方に感染する動物がいる。
●異なるウイルスが同時に感染すると、「新型インフルエンザ」が出現することがある。
●今後も10年おきくらいに、パンデミックを起こすだろう。

 ヒトインフルエンザウイルスはα2-6結合型のシアル酸を利用します。

 トリインフルエンザウイルスはα2-3結合型のシアル酸を利用します。

 ヒトの上気道粘膜の上皮細胞にはα2-6型が多く発現していて、鳥の腸管や呼吸器の上皮細胞にはα2-3型が主です。利用できる宿主域が決まっているので、トリインフルエンザウイルスが人に感染したり、ヒトインフルエンザウイルスが鳥に感染することは滅多にありません。

 問題なのは、α2-6型とα2-3型のシアル酸を両方発現するブタなどの動物がいることです。

 由来の異なるウイルスが同時に感染した細胞で、ゲノム交換が起こり、地球上に存在していなかった「新型インフルエンザ」が出現することがあります。そのウイルスが宿主域を超えて人に感染し、パンデミックを起こすわけです。

 20世紀以降、スペインかぜ、アジアかぜ、香港かぜ、ソ連かぜ、H1N、H1N1と流行しました。今後も、10年おきくらいで出現し続けるだろうと考えられています。

大腸菌のイメージとギャップ

ポイント
●腸内細菌科の大腸菌は少ない。
●大腸菌は嫌気性のため、文明が発達するまで勘違いされていた。
●大腸菌のほとんどは無害。

 細菌の種類を聞かれて、一番多く答えられるのが大腸菌だと思います。

 「大腸菌」や「腸内細菌科」という名前からは、いかにも腸内細菌の代表のように思われるかもしれません。しかし、「腸内細菌」のうち、「腸内細菌科」が占める割合は0.1%以下です。むしろ、少数派になります。

 細菌研究が始まって間もないころ、人や動物の糞便からこれらの細菌が見つかったため「大腸菌」という名前になりました。

 人の腸内細菌の大部分は酸素に触れると死んでしまう「嫌気性菌」です。昔は、普通に大気中で培養していたため、大腸菌などの通性菌だけが増殖し、腸内細菌の代表だと勘違いされました。

 また、大腸菌はO-157や尿路感染症大腸菌などが悪目立ちしているせいで、大腸菌=病原菌と思われがちです。大部分は「非病原性」の無害な腸内細菌になります。

 表面抗原と呼ばれる分子の種類が数百種類のうち、少数種類が病原性があるタイプとなるのです。

コロナウイルスの変異

ポイント
●コロナウイルスの変異は、複製時のエラーによるもの。
●相同組換えという、独自のメカニズムをもっている。
●相同組換えは、致死率の高いウイルスを生む可能性があることが指摘されている。

 コロナウイルスは自分のゲノムを複製するために、独自の核酸合成酵素を持っています。ゲノムを複製する際に、ある確率でエラーが発生し、変異体が発生するのです。

 コロナウイルスが変異する頻度は、インフルエンザウイルスの約10分の1で、RNAウイルスの中ではかなり低いことがわかりました。コロナウイルスはエラーを修復する校正酵素をもっている、ユニークなウイルスなのです。

 そして、相同組換えと呼ばれるメカニズムによって、新たな変異ウイルスが誕生することが知られています。ゲノムの一部が別のゲノムに変わったときに、変異ウイルスが生まれる仕組みです。

 例えば、Ⅰ型ネココロナウイルスがⅡ型イヌコロナウイルスと重感染して、相同組換えを起こすと、猫に致死的感染を起こすⅡ型ネココロナウイルスが、生まれる可能性があることが指摘されています。

 インフルエンザの様な分節型ではなく、相同組換えという形で「大変異」として機能しているのかもしれません。

感想

サイト管理人

サイト管理人

 病原体の生存戦略と、人間とのいたちごっこの攻防がわかりやすく解説されています。

 今後付き合っていくことになるウイルスとの戦いについて、読んでおいても損はないのではないでしょうか。

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