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目次
はじめに
コロナの影響で私たちは多くの問題に直面してきました。
パンデミックを想定していない医療体制、地域間診療科間の医師偏在、ICT導入の遅れなど、いくつも乗り越えなければならない壁があったのです。
患者の対応やトリアージ、実際の治療やケア、院内感染を防ぐためのゾーニングなど、パンデミック時における患者と医療従事者の健康と安全の確保のために取り組むべきことは多岐にわたります。
新型コロナウイルスの感染者をいち早く受け入れ、治療と対策に当たってきた私たちの経験と、そこから見えてきた課題と解決策をまとめました。
書籍情報
実例に学ぶ 医療機関のパンデミック対策
第1刷 2023年6月15日
発行者 久保田貴幸
発行 (株)幻冬舎メディアコンサルティング
発売 (株)幻冬舎
装丁 秋庭祐貴
印刷・製本 中央精版印刷(株)
ISBN 978-4-344-94683-5
総ページ数 189p
長原光
埼玉県済生会加須病院病院長。
幻冬舎MC
- 第1章 新型コロナウイルスの感染症拡大で露呈した日本の医療体制の脆弱性
- 感染症拡大で露呈した日本医療の脆弱性
- 病床は多くてもコロナに対応できる急性期病床は少ない
- パンデミック時の司令塔の不在
- 各医療機関の判断に委ねられた采配
- 全体の8割が民間病院で、公立病院が少ない日本
- 広がる医療資源の地域格差
- 病気以外との闘い―差別や偏見、恐怖感
- 孤立した全国の新型コロナ受け入れ医療機関
- 急性期病院が撤退したら日本の医療は危うくなる
- 医療のICT化で鎖国状態の日本
- 医療機関同士の連携が医療の質を高める
- 第2章 【病院体制対策】急性期病院がパンデミックに備えるために整備・構築しておくべき病院の管理体制
- 2020年2月11日、クルーズ船からの要請者受け入れ
- 予測をはるかに上回ったパンデミック
- 人類史上初ともいえるウイルスの驚異的な変異
- 人的資源と部店資源が乏しい埼玉県
- 第二種感染症指定医療機関としての体制整備
- 4床の陰圧室確保と「感染対策向上加算1」
- 感染対策室の常設
- 専従の感染管理認定看護師を配置
- 非常時に力を発揮する教育への投資
- 平時に整備しておくべきパンデミック対策マニュアル
- 参考にすべき日本環境感染学会の対応ガイド
- WHOが推奨する5つのタイミングを意識した手指衛生
- 外来患者にはホームページや掲示物で受信方法を周知
- 入院患者に対しては過去7日以内に症状が出ていないかをチェック
- 急性期病院におけるゾーニングの基本的な考え方
- LAMP法による検査実施のメリット
- ピーク時には1日250件の検査をどうやって捌けばいいのか?
- 病院長自ら直接保健所や患者に対応する意味
- 患者を救うことと職員を守ることの葛藤
- 平時から考えておくべき病院人材
- 万が一、職員が感染し死亡した場合どうするのか?
- 第3章 【外来診療対策】地域の患者と医療従事者の健康を守るために外来診療における受信患者の受け入れと対応
- 外来対応のスタートは専用の感染症診察室から
- トライアルアンドエラーで構築していく外来対応
- 病院内の「科」を超えた連携の重要性
- 他職種とのコミュニケーションをどうやって活発にするか
- 地域の開業医との連携―地域中各病院としての役割
- なぜ院内クラスターが発生しなかったのか?
- パンデミック時の外来診療との両立
- 新型コロナウイルス感染症5類移行後の病院対応
- 第4章 【病棟対策】患者の状態に応じた治療とケアを行うために入院治療・看護方針と病棟の感染症対策
- 4床の陰圧室でダイヤモンド・プリンセス号の乗客を受け入れ
- 全診療科の医師がコロナを診療
- 厚生労働省の手引きを参考に重症度を分類
- 薬物療法からECMOまで、重症度別に求められる治療法
- 全体の4分の3がコロナ病棟を経験した看護師のローテ―ション制
- コロナ病棟における業務の流れ
- 72時間待てるかどうかに分けて、グリーンゾーンへ物品を出す手順を明記
- 各病棟で協力しながらコロナ病棟に来る人数を調整
- 上限2時間としたコロナ病棟でのケア対応
- コロナ病棟の職員を守るための施策
- 産業医によるメンタルヘルスケア
- 本来の看護ができないことがストレスに
- 看護師同士もお互いを思いやって業務を実施
- 認知症の高齢者では高速の問題が課題に
- 薬剤師によるプロトコル作成で診療を標準化
- コロナ禍では薬剤不足も深刻に、海外依存の課題が浮き彫り
- 研修を受けてECMOも使えるように
- 手作りして乗り越えた資材不足
- 第5章 【地域連携対策】緊急時でも安全な医療を提供するために患者情報の管理と地域連携
- 平時からの地域連携の重要性
- 開業医と連携した患者の直接入院
- ホテル療養患者へ実施した抗体カクテル療法
- 非常時では殻を破って行動することが重要に
- コロナに特化した対策チームCOVMATの始動
- 急性期病院と慢性期病院の連携の必要性
- 第6章 地域急性期病院の使命を全うするためにパンデミック対策を事前に講じることの重要性
- 恒常的に赤字経営が続く急性期病院
- 膨大な人件費が病院経営を圧迫
- ギリギリのマンパワーで運営が求められる急性期病院
- ポストコロナは患者数の減少を覚悟
- コロナに対応した病院が明らかな経営的ダメージを受ける
- しっかり検証して次につなげることが重要に
- 第8次医療計画では新興感染症への備えが柱の一つに
- パンデミックで海外に頼らざるを得なかった日本
- 医療従事者を育てることがパンデミックへの備えにもなる
- 目先の利益を追うのではなく、医療の未来を信じて歩み続ける
- おわりに
- 発信することの大切さ
- 正しく恐れ、進む
- 新型コロナウイルス感染症年表
医療のICT化で鎖国状態の日本
作者: sasami018
コロナ禍では、日本のICT化の遅れが浮き彫りになりました。特別定額給付金は給付までに長い時間を要し、新型コロナウイルスの接触確認アプリ「COCOA」は不具合が続き成功したとはいえません。
電子カルテを介した医療情報の共有化は今後ますます重要になるでしょう。特に未知のウイルスに対処するときや、経験したことのない事態に遭遇したときには同じような経験をなるべく早く分かち合う必要があるのです。
しかし、日本で使用してる電子カルテの医療情報等を交換できるフレームワークが備わっていません。電子カルテはさまざまなベンダー(販売企業)が提供していますが、病院ごとにカスタマイズしたりバージョンが異なったりして、情報のやり取りができません。
欧米ではHL7 FHIRが標準規格化しており、医療情報の交換は容易に行われています。
今だに神の招待状がなければ患者情報を伝えることはできません。ICTの本来の目的が「つなぐ」ことの1つのキーワードだとすれば、医療分野のICT化はどこともつながっていません。日本全土でICT化の恩恵を受けることができていないのです。
なぜ院内クラスターが発生しなかったのか?
UnsplashのSardar Faizanが撮影した写真
2020年2月から患者を受け入れて、私の病院でも5~6人程度の感染はあったので、クラスターの届け出は行いましたが、数十人単位の大規模なスラスターは一度も起こりませんでした。
何よりも重要なことは日頃から院内の連携を密にしておいたこと、されにはどのような状況下でも思考を止めず、常にどうすればよいのか考え続けた点にあります。
スタッフ1人に要請が出たり、入院患者1人に要請が出たりしたときなど、たった1人だからといって甘く見ていたらあっという間に感染が拡大してしまいます。そうならないためには感染の1例目で、どこからウイルスが入り込んだのか、どのくらい広がっている可能性があるのか、リスクの大きさはどの程度かなど、徹底的に考え抜くことが必要なのです。
重要な視点として、私たちが”安全”を最優先にした点が挙げられます。これは感染管理認定看護師や感染制御認定薬剤師がよく言っていたことですが、安心を求め過ぎるあまり過剰な対策を取ることは、反対にリスクを招くことにもなりかねません。
手袋を二重にしたりマスクを二重にしても安全性を高める根拠がないのです。正しくつければ手袋もマスクも1枚で十分です。
手袋を外すときは、ウイルスで汚染した手袋を外すというリスクがあります。2枚つけていると、2回分のリスクを背負わなければなりません。
コロナ禍では薬剤不足に、海外依存の課題
コロナ禍では医療材料の不足が大きな問題になりましたが、薬に関しても流通が滞って医療現場は大変な思いをしました。
感染爆発が起こったときは、解熱剤や鎮咳剤、除痰薬などすべての患者に使用する薬剤も足りず、鎮静剤やステロイドなど人工呼吸管理が必要な重篤患者用の薬剤も手に入りにくい状態が続いたのです。
日本では海外に製造や原材料の調達を依存している薬剤が多いため、海外からの輸入が断たれてしまうと手に入らなくなってしまいます。
日本の医薬品製造・流通の脆弱さが浮き彫りになりました。病院単独の努力や工夫には限界があり、日本全体や製薬業界全体で検討すべき今後の課題なのではないでしょうか。
第8次医療計画で感染症への備え
現在の医療計画では※5疾病5事業ごとに医療連携体制を構築することが求められています。
2024年度から行われる第8次医療計画では、これに「新興感染症等の感染拡大時における医療」を追加して、5疾病6事業の医療連携体制を構築することになっています。
おそらく特定の重点医療機関のようなものを整備し、その医療機関を中心に備えていくようになるのではと予想できるのです。
その重点医療機関に名乗りを上げられるかの判断が求められると思います。今回のパンデミックで経験したことを活かすためにも、そうした重点医療機関になることを目指して準備を進めたいと考えるのです。
個々の病院だけでの取り組みと併せて、医療業界全体での議論は避けることはできません。生物学、基礎科学分野の研修者、臨床現場の医師など、より専門人材を多く育成して※日本版CDCのような機関を支えられるようになれなければならないでしょう。
5疾病
がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患
5事業
救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療
CDC
アメリカ合衆国連邦政府の機関です。健康に関する信頼できる情報の供給と、感染症対策の総合研究を目的につくられました。ジョージア州アトランタにある保健福祉省所管に研究所があります。
おわりに
私の病院の感染管理認定看護師が自分の家族が感染した際に自宅内感染防止対策マニュアルをつくりました。
自宅待機期間を最小にするために感染管理認定看護師の知識をフルに活用し、家庭内感染ゼロを目指した感染対策を行って無事に二次感染を予防することができたのです。
こうした知識は広く多くの人に役立つと考えて、すぐに雑誌へ投稿しました。すぐに掲載されました。また病院のホームページにも掲載して一般の人にも活用できるようにしています。非常に貴重な資料になりました。
コロナに関しては「正しく恐れる」ことが重要だと盛んにいわれました。一人ひとりが正しい知識を身につけることが重要なのです。
そのためには、私たちのようなプロフェッショナルが、しっかりと感染症に対する情報を発信していくことも重要であると考えています。
感想
サイト管理人
病院の紹介状も紙である必要が全くありませんし、問診票も家から予約するときや車の中などでスマホで済ませて予約を取れるようなシステムで問題ないはずです。マイナンバーカード、つまり個人ナンバーPINが日本国民全員に主キーとなって割り当てられれば、携帯のNFCからマイナンバーカードICチップをかざすだけで病院に必要な情報を送れるようなると思います。ミスがありましただ何だと人的ミスを騒ぎ散らかして普及を滞らせるのではなく、早くマイナンバーの制度を実装する良い事がてんこ盛りですという報道した方がもはや視聴率がとれるのではないでしょうか。
過去にどんな治療を行ったか、最近どんな薬を処方されたか、データベースさえ整っていればワンタッチで情報を個人と病院とで出来るわけです。問診票に書く内容が狭くなり、簡単なチェックボックスくらいで済むのではないでしょうか。
「マイナンバー1つで過去にどんな病を患ったかわかるだと。プライバシーは無いのかー…」みたいなアホ意見に惑わされることが無いようにお願いします。
個人のデータとして疾病履歴などが残れば、後々介護が必要になり施設に入りましたとなったときも、介助のプランが立てやすいと思います。ケアマネージャーの業務が減り、ケアマネという介護経験豊富人材が現場を見て回れる時間が確保できたら、画期的です。現場を怠るケアマネほど信頼できないものはありません。
病院どうし(あるいは病院対企業)のやり取りはまた特殊な情報共有が必要かもしれません。設備の有無だったり、薬の在庫数や備品のやり取りだったり、人材の教育やトレード研修だったり、医師の派遣、ICTに依存しすぎるとかえって人材が必要になりしそうなことが起きそうです。トリッキーなことは後ででいいのではないでしょうか。
肝心なパンデミック対策です。薬の確保と、設備の確保と、備品の確保といったものが課題でしょうか。第8次医療計画では設備の確保を設けることが予想されます。薬と備品の在庫については製薬会社、呼吸器メーカー、医療の備品の製造会社などと連携体制をとって、在庫がなくなってもスグに取り寄せる環境が必要です。自国内での薬や機器の開発が必要な場合もあるかもしれません。
現状でパンデミックが起こっても、冷静に情報を取り入れて正しく対応することが求められます。「SNSの情報に恐怖するのではなく、私たちはこの書籍にかかれていることを行いました」とうたう本書です。今できるパンデミック対策として、物凄く説得力があるのではないでしょうか。
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