※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
目次
序章
暗い沼をもぐって「食国」という地下世界への旅に出るとしよう。僕たちがどこからやってきて、どこへ行くのかを一皿一皿味わう「美味しいにっぽん」再発見の旅です。
身近な食材の基本的な定義、レシピができた背景と信仰や風俗との関わりを解説します。実用的な箇所だけを拾い読みしてもOK。体系的に食のことを学ぶより、ひとつながりの読みものとして、日本の食のダイナミズムを感じて欲しいのです。
神がつくったグルメな国では、食への情熱はもはや信仰です。
書籍情報
オッス!食国 美味しいにっぽん
第1刷 2023年7月19日
発行者 山下直久
発行 (株)KADOKAWA
印刷 旭印刷(株)
製本 本間製本(株)
イラスト スケラッコ
デザイン 財部裕貴
DTP 岩渕恵子
ISBN 978-4-04-112610-3
総ページ数 255p
小倉ヒラク
発酵デザイナー。東京・下北沢「発酵デパートメント」オーナー。「見えない発酵菌たちのはたらきをデザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちと発酵・微生物をテーマとしたプロジェクトを展開。臭豆腐大好き。
KADOKAWA
- 序章 百味の飲食、海川山野の味なもの
- コラム 序章の参考文献
- 第1章 米と麵 稲・神・菌のトライアングルマジック
- コラム 米と麵の章の参考文献
- 第2章 塩と醤油 草食うま味レボリューション
- 第3章 味噌 愛憎渦巻くトレンディ味噌ドラマ
- コラム 塩と醤油・味噌の章の参考文献
- 第4章 だし 海が運んだうま味の多様性
- コラム だしの章の参考文献
- 第5章 お茶と懐石 わびの茶が生んだ引き算のおもてなし
- コラム お茶と懐石の章の参考文献
- 第6章 おすし 酸に魅らせられ、山から海へ
- コラム おすしの章の参考文献
- 第7章 粟・豆・麦・芋 正月が半年ずれる?ウラの食国へようこそ
- コラム 粟・豆・麦・芋の章の参考文献
- 第8章 獣と鯨 隠された食国、燃やされた海の神
- コラム 獣と鯨の章の参考文献
- 終章 食国の再生、再出発は遠く離れた場所から
2種類のお米
日常的に炊いて食べる飯米はウルチ(粳)米です。そして主に搗いて餅にする用のモチ米があります。
この2つは、カロリー源となるでんぷん質がかなり違うのです。ウルチ米のでんぷん質はアミロースといい、糖分が直線状につながった分子構造をしています。モチ米のでんぷん質は網のペクチンといい、糖分がいくつも枝分かれして鎖になった分子構造をしています。
モチ米は搗くと米同士がくっついてひとつのブロックになっていきます。各粒の分岐したチェーン同士がつながって、からまりあった構造になるからです。つながる部分の少ないウルチ米を搗いてもキレイな餅になりません。
現在の定説では、ウルチ米とモチ米はほぼ同じ時期に大陸から渡ってきて栽培が始まったとされています。
醤から味噌へ
味噌の起源は中国の(醤)ジャンであろうと言われています。孔子の『論語』のなかに「醤できちんと味付けしていないものは食べないように」という記述もあるのです。論語を読むかぎりでは醤のレシピを不明です。
日本で最初に醤のような発酵調味料に記録があるのは、8世紀初頭の奈良時代です。奈良の唐招提寺を訪れた鑑真和上が味噌を持ち込んでいます。鑑真和上が日本にたどり着いたのは8世紀中盤なので、奈良時代に味噌の原型である「醤」が伝わっていたのは間違いありません。
奈良に伝わった醤は、中国流の「大豆の塩辛」というもので「寺納豆」と呼ばれていました。味噌の原型であるはずですが「納豆」と呼ばれています。黎明期の味噌は、今のようにお湯で溶いて飲むのではなく、薬のカプセルのようなものです。戦場でぐったりしている人に与えられた、水なしで飲める錠剤として活用されていました。ドラゴンボールの「仙豆」もここからアイデアを得たのではないでしょうか。
日本独自の味噌に金山寺味噌というローカル発酵食品があります。違いは「麹に穀物を使う」ことです。大豆に加え米や大麦などの穀物にコウジカビをつけたブレンド麹を漬け込んだものです。ご飯のおともやお茶請けに食べるのが基本ですが、お湯で溶いて味噌汁にしてみると「味噌汁っぽい」味になります。
北の「豆の麹」と南の「穀物の麹」が中世にかけて近畿地方に入ってきたことで、ブレンドされてコクと酸味とうま味と甘みを調和させた苦味のない味噌が生まれたのではないでしょうか。
例えば、室町時代には山梨の味噌「甲州味噌」としてユニークな味噌が生まれています。
茶とおもてなし
酒でもタバコでも茶でも嗜好品は文化の作法をつくります。
周辺にある道具や空間のしつらえ方、場をともにする客のもてなし方も同じく嗜みとなります。
茶を飲むことは、単なる飲食体験を超えた、自己の修練の機会であり、同時に他者への良好な関係性を育む社交の場となるのです。
茶の間では、お客様に料理がもてなされます。日本的「侘び」が生まれるまでは、大皿の料理が並べられる大仰で派手なものでした。しかし、侘び茶の確立とともに平安貴族的な食卓を否定し、空間が縮小されて実質が重視されるようになります。
千利休は引き算をこよなく愛し、晩年に近づくにつれ茶室を極限まで狭く小さくしていきます。
人がくつろげる空間は1人半畳で、一畳であれば2人までが自然の容量です。それを1畳に3人分の膳をだすとすれば、小さな膳を各自がひとつずつ据えるだけでたちまちいっぱになってしまう。もちろん2膳を置く余裕はない。
熊倉功夫『日本料理文化史』より
豆と植物性たんぱく質
獣肉や卵、乳を摂らない日本人。中世になると精進料理まで出てきて魚介する摂らなくなっていきます。動かすためのエネルギーは、米や麦でガソリンは補給できます。体をつくるタンパク質はどうでしょうか。日本人の福音となったのが、大豆です。魚も肉もなくても、塩と米麦、大豆があればとりあえず死なないのです。
中世以降、豆腐を揚げたり、タレをつけて焼いたり(田楽)、凍らせたり(高野豆腐)と、様々な工夫が生まれました。豆腐は江戸以降には庶民の食材となり、豆腐専門のレシピ本が刊行されています。
豆腐の副産物として、表面に張る膜は湯葉として刺身のように食べます。貴族から僧侶から庶民まで豆腐を満喫しているのです。
煮付けてたべたち、モチ米に混ぜて赤飯にする小豆も大事な豆です。餡にしても、飴や蜜などを混ぜても美味しくなります。小麦粉を練ってふかした生地に、小豆の雨を包んだまんじゅう、餡を塗ったあんころ餅、五穀豊穣のめでたさがいっぱいに詰まったごちそうです。
あとがき
新しい時代の食国は、日本列島を飛び越えて、世界中の食国アンテナを持つ食いしん坊たちでつくりあげていくものなのかもしれません。食いしん坊な日本の民は食国を地球全体に広げていくことがミッションです。
「食べる」が元気になると、土も水も人も菌も生き生きと輝きだします。
海川山野の味なもの、百味の飲食、集まれ!
感想
サイト管理人
調味料や米などの起源を遡って、美味い食べ方ができた歴史を学べます。
日本も国土的には、本気出せば自給自足できます。輸入に頼っているという表現はわりと正しくありません。これだけインフラが整っているのなら、地方で小麦ビジネスとか、色んな食べ物を作って合わせて商品して販売までできそうです。わざわざ競りに行かなくても農協をかいさなくてもブランド化できそうです。(※エネルギーは輸入に頼っている)
日本の食歴には、食欲と生きていく知恵が詰まっています。普段、食卓に並ぶ料理は実は卓越された美味い食べ物なのです。
わざわず脳内麻薬たっぷりの味濃ラーメンをリピートしなくても、十分贅沢だと言えるでしょう。二郎は二郎で数回目から、とてつもなく美味しいラーメンに変貌する食べ物なので、健康を害さない程度に楽しむなら最高の趣味です。普段質素で美味いと思っている人には脳が洗脳されていませんので、ホントに不味いと感じます。両者はわかり合って、好き勝手生きていくべきでしょう。
利休の茶室の話につながります。極限まで情報量を遮断していって、くつろげる空間をつくったとあります。節約も一気に80点を目指すのではなく、携帯料金、保険料、家、車、といった大きいものから見直して20点から30点、40点から50点と我慢することなく自然体で節約することができていきます。大広間から急に1畳という話ではなく、徐々に狭くしていって最終的に半畳で幸せでしたということです。外食、嗜好品、光熱費といった小さなものは節約の観点からすると緩くてもいいと思います。
食材の歴史を学んでいるだけなのに、物凄い学びを得られると思います。楽しい書物となっていますので、読んでみてはいかがでしょうか。
下にリンクを貼っておきますので、本書の購入を検討してみて下さい。
購入リンク
紙
※amazonの商品リンクです。画像をクリックしてください。