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目次
書籍情報
日本一の農業県はどこか
農業の通信簿
発刊 2024年1月20日
ISBN 978-4-10-611026-9
総ページ数 264p
山口亮子
ジャーナリスト。
時事通信記者を経てフリーになった。
新潮社
- はじめに
- 第1章 コスパ最高の農業は群馬にあり
- 1 魅力度ランキングでは低空飛行でも
- 2 国の指標では評価されない実力
- 3 誰も知らない北関東の高い財政効率
- 第2章 コメだけやっていても先がない
- 1 コシヒカリをバカにした静岡県知事
- 2 茨城の「たまげた」コメ減産計画
- 3 「コメの一本足打法」から脱却したい王者・新潟
- 第3章 サトウキビで太り過ぎの沖縄農業
- 1 サトウキビは沖縄のコメ
- 2 キューバ危機で拡大したサトウキビ
- 3 農家だけでなく農地まで急減の危うさ
- 第4章 海外に伍する産地――労働生産性と土地生産性
- 1 労働生産性は全産業の3分の1
- 2 労働生産性の3トップ、北海道・関東・南九州
- 3 愛知から大分に移住した「機関車農家」
- 4 人手不足とは無縁の新規参入キュウリ農家
- 5 高知が「園芸のコスパ日本一」の理由
- 第5章 農地の集積――農業における最大の課題
- 1 儲からないコメが多くて集積進む富山・石川・福井
- 2 北関東、埼玉、愛知では大規模農家が担い手に
- 3 農家版「そして誰もいなくなった」
- 4 集積遅れる果樹産地、山梨・和歌山・愛媛
- 5 「みかん県」の生き残り戦略
- 6 リンゴの新技術導入で先んじる長野
- 第6章 食料自給率――むしろ有害なガラパゴス指標
- 1 自給率が上がるほど都道府県の農業は衰退する!?
- 2 なぜか食料自給率を自慢する7位の佐賀
- 3 自給率0%でもすごい東京の農業
- おわりに
はじめに
農産物の価格は上がりません。しかし、農業に使う経費は増えます。当然の結果として、所得が減ってしまうのです。
農家のほとんどは家族経営で、経営としての農業と生活の境目がありまいとなっています。労働に対する報酬が確保できなくても経営を続けることが許されてしまうのです。
農家が農地や家を自前で所有しているとしても、ふつうであれば、これでは食えません。生計が成り立ってしまうのは、年金や兼業先の会社の給与があるからです。それでも、外から得てきたお金は儲からない農業に消えてしまいます。
茨城のコメ減産計画
茨城県は7万5000ヘクタールあるコメの作付面積を50年に6万6000ヘクタールまで減らすといいます。12%減であり、山手線の内側1.5個分相当です。
国内需要の減少を踏まえ、高収益作物への転換を推進するなど、コメを減らすというところが大きな話
県職員の説明
大井川知事は元経産官僚で、マイクロソフト、シスコシステムズ、ドワンゴという大手IT企業を経て知事に就任しました。知事の基本姿勢は「戦略的な行財政運営」です。成果と利益を重んじる経済産業省の出身らしい姿勢をみせています。
実際に儲かる園芸に移行しようとする動きがありますが、移行できるかどうかは、圃場の条件が関係してくるようです。水田エリアとして「水はけが悪いといった条件の圃場で、コメしかつくれないところ」が農地を集積していて移行できないといった問題が想定されます。
コメの生産性減少の原因
コメの労働生産性を低くしてしまった元凶こそ、生産調整です。
農水省が全国でコメを作付けする面積を取り決めて、農地に割り振りました。2004年以降は、制限する対象が面積から生産数量に変わっています。
生産調整は現在、米価を上げて農家の手取りを増やす手段として使われています。しかし、長期的に損失をもたらすものとなっているのです。
米価が上がると、外食事業者や弁当を作る中食事業者を中心にコメの消費を減らしました。ご飯の量を減らしたり、パスタなどに置き換わっています。
結果として、コメの需要が下がり、年間10万トンほど消費量が減ってしまっているのです。
そして誰もいなくなった
集落営農組織が存在する地域は、そもそも中核になるような大きな農家がないために、苦肉の策として集落単位で組織を作っています。
そんな農家が条件不利地域でいなくなってしまうのが、近い将来で現実になりそうです。
農林業センサスは2015年を最後に耕作放棄地の統計をとるのをやめてしまいました。どのくらい増えたかを把握することはできません。経営耕地面積は全国で6.3%減っているので、条件不利地域ではかなりの工作を放棄されているだろうと予測できます。
自給率0%でもすごい東京の農業
食料自給率は国内生産額から国内消費額を割ったものです。
東京のように生産ベースの食料自給率が、カロリーベースのそれを上回るところが多いです。農業がどの程度栄えているかをみるには、生産額ベースを見なくてはなりません。
都内では「都市農業振興基本法」の制定を契機として、国は方針を転換しています。アパートや駐車場、住居、屋上などを農地として整備する費用を補助する事業もあります。
日本は国土が狭い中で、土地生産性を高めて農業を発展させてきました。カロリーベースとは本来、反りが合わないのです。