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目次
書籍情報
天然知能
発刊 2019年2月1日
ISBN 978-4-06-514513-5
総ページ数 256p
郡司ペギオ幸夫
理学博士。早稲田大学基幹理工学部・表現工学専攻教授。
講談社
(シリーズ:講談社選書メチエ)
- ダサカッコワルイ宣言
- 1 マネコガネ_知覚できないのが存在するもの
- 人工知能・自然知能・天然知能
- 天然知能として生きる
- 三人称的知能=自然知能、一人称的知能=人工知能
- 1.5人称知性=天然知能
- 「心のモデル」なんていらない
- 悪夢とデジャブの違い
- 2 サワロサボテン_無意識という外部
- ツーソンのサボテン
- ツーソンのモーテル
- ツーソンのベーコンとオートミール
- ツーソンの川床に落ちた痛み
- 天然知能における痛み
- わたしは痛い、では川床は痛みを感じるか
- 3 イワシ_UFOはなぜ宇宙人の乗り物なのか
- ベイエリアのクーラーもない部屋
- UFO
- 「向こう側」の知覚
- いつから「わたし」になったか
- 試合に勝って勝負に負けたサール
- 中国語を理解する中国語の部屋
- 4 カブトムシ_努力する神経細胞
- 信号を理解する神経細胞
- 「努力」を宙づりにする天然知能
- 擬人化の向こう側
- 現実とVR(仮想現実)は違うのか
- 特別に訓練されたカブトムシ
- 5 オオウツボカズラ_いいかげんな進化
- 適応戦略の天然知能化
- 「ヤバイ」の変質、概念の変質
- 目的論と機械論_斑点から接続へ
- 機械論を実現する内包。外延の一致
- 機械論の天然知能化
- 6 ヤマトシジミ_新しい実在論の向こう側
- 減少と実在
- 人工知能と現象学
- 思弁的実在論
- 「世界」を否定する新しい実在論
- 四方対象の解体
- 7 ライオン_決定論・局所性・自由意志
- 自由意志定理
- ライオン狩りと酋長の踊り
- トリレンマ
- 脳の中の酋長
- 三つの意識構造
- 局所性不在の脳科学的意味
- 操作的身体・所有的身体
- 天然知能と三つの意識
- 8 ふったち猫_ダサカッコワルイ天然知能
- 猫であり、猫ではない
- ふったつのは猫ばかりではない
- おわりに
- 引用文献・註
サワロサボテン_痛み
米国アリゾナ州の州都ツーソン郊外にあるサボテンだらけの小山を、ひとり灯ってきました。山頂には、赤く塗られたアリゾナ州の頭文字、Aが大きく掲げられ、京都の大文字焼に似た形態を持ちながら、落ち着いた風場など一切ありません。
斜面はごつごつした火山岩と棘だらけの灌木に覆われ、ところどころに大きなサボテンが屹立しています。
頭文字Aの赦免で、登るか下りるかを迷っていました。前には干上がった川があります。アリゾナといえば砂漠地帯です。市街地のはずれとはいえ、そこには砂漠の片りんが見え隠れします。とりあえず山を目指して一直線に歩いた私は、川に阻まれました。その時のことも思い出しながら、天然知能の構図を、完成させましょう。
こんな小さな河岸でも、落ちて打ちどころが悪ければ動けなくなるかもしれません。この痛みは、私が感じているものであり、痛みの原因は外部から来たものです。衝撃を受けた臀部の筋肉繊維の何本かは破断され、修復を余儀なくされます。破損した筋肉修復のために流れ込んだ血液は、当の筋肉部位を腫らし、皮膚の赤変、青変さえもたらすでしょう。その筋肉周辺の変化情報は、電気信号となって、脳へ伝えられて「痛い」と感じることになっています。
わたしにおいて「痛み」を感じるのですから、「痛み」はわたしにおいて文脈を選択しないといけません。文脈の意味を決定しながら文脈を選ぶことが必要です。
しかし、「痛み」を引き起こす現実の状況に適合するのは極めて困難です。万全を期して条件の束を決めたつもりが、個別的な「痛み」の現実の状況に合わず、条件が足りません。条件を増やしてみても、現実では別の条件の不備が見つかりました。これが、無限に繰り返されるのです。
わたしにおける「痛み」の出現を、無から有ではない質的差異によって説明することは不可能となっています。
特別に訓練されたカブトムシ
「特別に訓練されたカブトムシ」という造語を考えてみます。
「特別に」の意味は、普通ではない、異例のやり方を意味します。
「訓練された」は、ある振る舞いを徹底的に学習させられたことを意味するでしょう。
「カブトムシ」は、日本原産の大型昆虫を意味します。
カブトムシが何かを学習することはできるでしょう。通常、生物学の実験以外で、カブトムシに訓練を施す状況はありません。
カブトムシによる世界征服を信じている秘密結佐があって、「特別に訓練されたカブトムシ」の開発成功しました。そういった異様さが醸し出されています。
「特別な」で逸脱した異様さを意味しそうです。「訓練された」と続くと、訓練として成立しないような訓練がイメージできます。特殊能力まで連想できそうです。
少しでも解釈者、文脈が変更されれば、たちどころに意味が変わります。
「ふったつ」の猫
「ふったつ」のは猫ばかりではありません。我々もまた、いずれふったちます。
ふったちは、基本的に外部の異質なものを、ただ徹底して受け容れることです。
年齢的にふったってからわかっても、少し遅い。異質なものを受け容れることにしか、外部に開かれる術はないのです。若いあなたもまた、ふったち、天然知能を全開にするなら、比較して評価するしかない世界とは、違うものが見えてくるに違いないのです。
人工知能の発達によって、定量化し評価し能力主義が全面化する今だからこそ、天然知能は意味を持つのです。
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