いじめ対応の限界/著者:内田良

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書籍情報

タイトル

いじめ対応の限界

発刊 2024年4月15日

ISBN 978-4-491-05057-7

総ページ数 159p

著者

内田良

名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授。

スポーツ事故、体罰、長時間労働などの学校リスクについて情報を発信している。

出版

東洋館出版社

もくじ

  • はじめに
  • 第1章 見えない、語られない事実
    • 思い込みからの脱却
    • 都道府県間でバラバラ いじめの認知件数
    • 子どもの受難_いじめと虐待
    • 子どもはいじめ被害を話さない
    • 事実確認の困難
    • いじめ被害者にも責任がある?
  • 第2章 主観に頼ったいじめ認知とその落とし穴
    • 「いじめ」定義の変遷
    • 教員の理解と認知件数の増加
    • 教員の共感と切り捨てられたリアリティ
    • 個人の中のわかりにくさ
  • 第3章 オンラインへの誤解と期待:いじめ被害者の救済と加害者の発見に向けて
    • 「ネットいじめ」の「わからなさ」
    • オンラインいじめについて残された課題
    • オンラインいじめの実態
    • 認知件数から読み解くオンラインいじめ
    • オンラインに対する大人のまなざし
    • 大人はオンラインをどのように認識しているのか
    • 子どもにとっても危険なオンライン
    • オンラインは被害者の居場所にもなっている
    • オンラインへの誤解が生みだす帰結
    • オンラインに期待を寄せること
    • オンラインといじめ加害者の今後
  • 第4章 生徒の人間関係といじめを防止する教師の役割
    • 傍観者はワルなのか
    • 被害者のための相談体制
    • 被害者の周縁から教師につながる
    • わからない教師にできること
    • 教師が築くピア・サポートプログラム
    • 教師は家庭・地域社会・学校の架け橋
    • 教師がつくるいじめ防止の相談体制
  • 第5章 いじめをめぐる現場の判断の難しさ
    • いじめ認知件数の実態
    • 事実認定の難しさ
    • 保護者に合わせて対応を変えなければいけない
    • 子供がケガをしてしまったときの対応も大変
    • 同じクラスで揉め事が起こったとき
  • 第6章 だれもの頼れない悲劇
    • どんな小さなことでも取り上げる
    • 物をなくす、忘れる
    • 子供の話を鵜呑みにできない
    • 保護者にどう伝えるかでその後が変わる
    • 指導に労力を要する子供中心に暮らすが編成される
    • ハサミを持って暴れる子供にどう対応するのか
  • おわりに

書籍紹介

 教育現場でのいじめ問題に対する取り組みの限界と課題を深く掘り下げた一冊です。編著者である内田良氏は、多くの教育専門家や研究者と共に、いじめ対策の現状を客観的かつ批判的に分析し、教育現場が抱える根本的な問題点を浮き彫りにしています。

1. いじめ対応の現状とその限界

 本書の前半では、日本の教育現場におけるいじめ対策の実態が詳述されています。いじめ防止対策推進法の施行以降、学校や教育委員会は様々な対策を講じてきましたが、それでもなお深刻ないじめ問題は後を絶ちません。内田氏と共著者たちは、これらの対策の限界を明らかにし、その原因を探ります。

2. 教育現場の声

 本書には、多くの教育現場で実際に働く教師や教育関係者の声が収録されています。彼らの声を通じて、現場のリアルな状況が伝わってきます。例えば、いじめの報告や相談があっても、学校の体制や教育委員会の方針によっては、十分な対応が難しい現実が描かれています。

3. 学校と家庭、地域の連携の重要性

 いじめ問題を解決するためには、学校単独では限界があることを本書は強調しています。家庭や地域社会との連携が不可欠であり、そのための具体的な方法や取り組みも提案されています。特に、家庭の教育力の向上や地域の支援体制の整備が重要であると説かれています。

4. 提言と未来への展望

 本書の最後には、いじめ問題解決に向けた具体的な提言がまとめられています。現状の問題点を踏まえた上で、どのようなアプローチが効果的であるかを論じています。内田氏は、学校教育の枠を超えた社会全体での取り組みが求められると強調し、読者に対して行動を促しています。

試し読み

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

オンラインいじめの実態

 オンラインいじめはどの程度起きているのでしょうか。文部科学省のデータでは「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中小や嫌なことをされる」認知件数が2010年では2000件程度だったものが2021年には21500件程度にまで急増しています。

 この特異的に増加している傾向に対して、マスメディアでは、オンラインいじめが特異的に増えていることを強調し、その危険性を誇張するような論調が目立ちます。しかし、加納寛子のように被害・加害経験するのは稀なことだと主張する人もいます。

 オンラインにより、いじめが増加しているという情報が間違っていることを示すように、全体で認知されているいじめは、小中高学校・特別支援学校全てで2006年から比率が横ばいです。

ピア・サポート

 日本では、静岡県藤枝市が「いじめを許さない学校づくり」と「思いやり溢れる学校づくり」を目指して、市内の全27小中学校で「ふじえだ型ピア・サポート」に取り組んでいます。

 ピア・サポートでは、生徒をピア・サポーターとして育成します。

 教師の指導や支援のもとで、生徒たちはピア・サポートプログラムを通じて得た知識やスキルを活かし、友達を思いやり支え合う学校環境を作り上げようとしています。ピア・サポーターは、いじめ被害者に寄り添い、いじめが発生していることを教師に相談する役割を担います。

 この制度は、生徒を教師からの指導によって相談者や仲裁者へと成長させることが期待されています。生徒たちは、ピア・サポーターを通じて仲間同士の感情理解や傾聴力を身につけることができます。世界的に有名な俳優もこの制度を活用して学びました。教師が教育的な働きかけを行うことで、教師不在の場面でもいじめを防止することができるのではないでしょうか。

いじめ認定の難しさ

 放課後、2人の子どもに石を投げられるといういじめが発生しました。放課後だったため、目撃者はいませんでした。

 被害者からの報告で、石を投げられたことは明らかでした。しかし、加害者の2人は事実を認めず、何も言いませんでした。

 保護者にも連絡をしましたが、親としては「やっていない」と言われると信じたくなるのが普通です。

 子どもは、自分に都合の良い事実を正当化する傾向があります。親にも自分に有利な話を伝えるでしょう。そのため、保護者は子どもの認識のずれを信じてしまうことがあります。

 事実確認をし、わかっている範囲の事実を伝えましたが、加害者からは何の反応もありませんでした。そのため、「石を投げるのはやめよう」と、本当にやったかどうかにかかわらず指導するしかありませんでした。

いじめ増加とは

 教育委員会や学校の対応に不満を感じるのは理解できます。問題を過小評価したり、担任に丸投げしたり、自分たちの保身に走ったりと、リスクマネジメントやクライシスマネジメントが不十分だと感じることが多いからです。

 しかし、いじめ件数の増加は、学校側がいじめを発見しようと積極的に取り組んだ結果です。過去に重大な事案が発生し、学校側がいじめに対する危機意識を高めたことで、いじめ件数が増加しているのです。

 重要な現実を無視して誰かを非難することが、いじめ問題の解決につながるとは思えません。立場を問わず、現在苦しんでいる人や困っている人が少しでも安心できるように尽力することが求められます。目標は、人を攻撃することではなく、人を助けることにあるはずです。

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