※読んだ本の一部を紹介します。
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
はじめに
彼らの実態をストーリとして展開した方が、むしろ事実は伝わるのではないか。そういった経緯があり『ケーキの切れない非行少年たち』コミック版が連載されることになりました。
文章として伝えたい情報はどうしても制限されてしまい、コミックでは書ききれなかったディテールを小説版としてお届けしようと考えたのです。
この物語は、現実に起きていることを匿名化して紹介します。
目次
書籍情報
タイトル
ドキュメント小説
ケーキの切れない非行少年たちのカルテ
著者
宮口幸治
立命館大学教授。医学博士、精神科医、臨床心理士。
出版
新潮新書
出院後の社会
雪人は少年院の中ではむしろ優等生と過ごし、少年院で設けられた勤勉賞も受けることになりました。模範少年だったのです。
出院後、親戚筋から地元の建設関連の会社を紹介もらった会社の社長は、非行少年に理解の人でした。少年院で賞をもらった自身が後押しとなり、頑張る決意を決めて務めることにしたのです。
母から褒められたことのない雪人にとって、母親の期待に応えたい気持ちもひとしおでしたが、少年院での勤勉賞など社会では到底通用しません。足場組みを中心に扱っている建設会社でしたが、雪人にとっては、言われた通りに動くだけで精一杯だったのです。
お前は、仕事は覚えへん、無断欠勤はするって、いったい何を考えてるねん。嫌やったらもう辞めてもいいで。そや、もう辞めろ
そんな発破をかけたつもりの主任の言葉は、雪人に強い怒りを覚えさせた。
なにやってんだ!
同僚の大声でハッと我に返ったときには、主任が足元でうずくまっていたのです。拳を振るってしまったのです。
「力になれず申し訳ない」といった社長の顔は、殴られた主任へのケアや後始末があったのか疲れ切った表情をしていました。雪人も母も反論はなく、解雇されることとなったのです。
「やっぱりだめか」母親の声に、雪人は焦るを募らせました。
解説
殺人を犯した少年たちは、様々な経緯で犯行に及んでいます。マスコミでは「他に類をみない残虐な殺人事件」と報道されることも多々あるのです。
そんな、少年たちの性格は、昔から気性が荒くすぐにカッとなる少年もいれば、口下手で動作の緩慢な少年もいます。
中には容貌をみた瞬間に「通常の責任能力は問えないのではないか」と思うような少年たちもいるのです。
本章に出てくる田町雪人は、IQ68と軽度知的障害で、精神年齢は最大でも小学6年生レベルになります。想像してみて下さい、自分が小学生のときに、臨機応変に仕事ができるか、周りに支えてくれる大人がいない環境で生きているのか、彼の行動にも納得いただけるかと思うのです。
暴力防止プログラム
「違った考えをしよう」というシートが少女たちの前に1枚ずつ配られます。
この一週間を振り返って、少年院生活で嫌な気持ちになったことを思い出してください。その日にちと時間に何があったかをシートに書き、その下にそのときの気持ちを書きましょう。そのときの気持ちの強さが何%だったかをその隣に書いてください。
もし、怒りがその時の感情なら、相手に殴りかかるレベルが100%です
みんなが一通り書けたのを見届けると、女性教官は続けました。
門倉さんの書いたものが解りやすいので、門倉さん発表してみてください
はい、10月17日2時ごろ、老化で他の子とすれ違ったとき、その子が私の顔をみて笑いました。
怒り80%です。
もう少しで、100%だったのですね。では違う考え方をして、その怒りを下げてみましょう。
考え方①ですが、今度は私も笑ってやろうと思いました。そしたら、怒りが85%になってもっとイライラしました。
それは困りました。2番目は?
無視しようと思いました。60%まで下がりました。3つ目は出てきませんでした。
まだ高いですね。誰かもっと怒りを下げられる考え方はありませんか。
はい、それって、その子は本当にバカにして門倉さんを笑ったのでしょうか?他のことで笑っていたり、思い出し笑いなのではないでしょうか?
門倉さん、もし、そうだとしたら、怒りは何%になりますか。
5%です。
自分が怪我を負わせた中学の西村先生が、私をバカにしたように注意したのも、ひょっとしたら単なる勘違いだったのではないか?そんな、疑念もすこしずつ生じ始めていたのです。
解説
女子少年院に入院する少女たちの特徴は、非行の前に何らかの被害にあっているケースが多いです。虞犯の被虐待経験が約7割であることや、覚せい剤使用には好ましくない男性の影が付きまとうことがあります。付き合っていた彼氏の覚せい剤の費用を賄うために、身売りしていることも少なくありません。
「そんな男とは別れない」と何度も言われたと思いますが、少女たちにとっては自分の話を寄り添って聞いてくれる稀有で親身な人であり、親よりも大切な存在だったりするのです。
本章に登場する門倉恭子は、入院時に15歳で妊娠8か月でした。出産したり、中絶を受ける場合もあります。どうしても出産のことが懸念事項になり、入院となった原因の非行についてはなおざりになってしまいます。ですが、傷害事件にはしっかり向き合ってもらわなければなりません。
被害者へ気持ち
ここにきて、3カ月たったので精神科の定期診断をします。荒井君に何か問題があったから呼んだ訳ではありません。安心してください。
…
非行について今はどう思っていますか?
取り返しのつかないことをしたと
すぐに返答が戻ってきました。その早さに「悔いる」という言葉はどうしても当てはまりませんでした。
今から考えるとなぜやったと思いますか?
父からの暴力がストレスで、
放火をすれば父も気づいてくれるかなと
被害者にはどんな気持ちですか?
申し訳なかったと
誰が聞いても、反省したと感じるような答え方ではありませんでした。荒井路彦はどうもまだ、被害者の気持ちにピンときていないようなのです。
火災被害者家族による公演に、路彦も参加しました。家族の体験談とストーリーを聞き、そこで初めて自分が行ってしまった放火の被害の大きさを知るのです。
解説
少年による刑法犯の放火の比率は。0.02%程度と決して多くはありません。2019年に起きた京都アニメーション放火殺人事件などからも分かるように、放火は罪のない大勢を巻き込み甚大な被害をもたらす恐ろしい犯罪となります。
発達障害の人の中には、後先のことを考えられず思い込みによって行動し続ける人がいます。本章の路彦がそうです。父から逃げるためには放火しかないと思い込み、修正が効かなくなってしまいました。
何らかの非行をして少年院に入ってきたはずなのに、自分を「やさしい人間」と表現する子どもが大多数を占めます。自己認識としては、自分はやさしくて良い人間だと思っていたら、自分のことを直そうとは思えないでしょう。
こういった少年は、実際に被害者の話を聞いたり、手記を読むことで更生のキッカケを得ることが少なくありません。
性非行をしてしまう理由
性加害防止プログラムは週一回のペースで実施されていました。
今日は出水君、なぜ今回の事件をやったか、発表してください
以下の順で亮一は説明していきます。
毎日、学校でイジメにあった
↓
家では父が暴力をふるってきた。ストレスが溜まった
↓
インターネットでHな動画を見たら、女性が触れられて喜んでいた
↓
女性に触っていいと思った
↓
公園で近所の女の子が遊んでいるのをみた
↓
触りたくなってトイレに連れていった
↓
非行した
Hな動画は、どんなんだったんですか?
触られて最初は嫌がっていた女性が、だんだん喜ぶような動画です
みなさんに念のため聞いておきますが、そういう動画は演技だというのは知っていましたか?
え、演技なんですか?ずっと本当だと思っていました
解説
彼らになぜ性加害を起こしたのかと聞きますと、口をそろえて「性欲が強かったから」と言います。しかし、彼らの性欲のあり方は、私を含めた多くの男性のギラギラ、ネトネトしたものとは明らかに違い、少女への興味関心を満たすための「コミュニケーション手段」だったりするのです。
彼らはどうして同年代の女性と付き合おうと思わないのでしょうか。理由は精神年齢の低さです。上手いコミュニケーションを取れず、なかなか健全な交際に繋がりません。そうなると、同年齢の女性には恐怖を覚えてしまい、対象が幼女になってしまうのです。
幼女を相手にストレスと発散させているケースが多々ありました。
また、性非行をした少年を、出院後に快く引き受けてくれる施設は少ないので、親が失踪するなどした少年の場合、帰住先なかなか見つからないことはしばしばあります。
感想
サイト管理人
『ケーキの切れない非行少年たち』が揉まれてできた小説編です。
漫画よりも想像力を膨らませて考えることができますし、物語になっているので印象に残りやすくなっています。
ストーリーになることで、非行少年たちの立場にたって考えられることもありました。よろしければ、ベストセラーをより深く理解するために、読んでみて下さい。