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目次
書籍情報
日本のウナギ 生産・文化・保全と図鑑
海部健三
中央大学法学部教授。
脇谷量子郎
東京大学大気海洋研究所特任准教授。
内山りゅう
”水”に関わる生き物とその環境の撮影をライフワークにしている。
山と溪谷社
- ◆第1章 ウナギという魚
- ウナギとはどのような魚か?
- カライワシ上目の概要 レプトセファルス幼生期をもつウナギの仲間たち
- ウナギ目の系統と分類
- ウナギ科の系統と分類
- ウナギ属内各種
- ウナギの外部形態
- 回遊と生活環
- ◆第2章 日本のウナギ
- 日本で見られるウナギ
- メジャーな2種と希少な2種
- ニホンウナギ
- オオウナギ
- ニューギニアウナギ
- ウグマウナギ
- ◆第3章 日本のウナギの一生
- ニホンウナギの生態 接岸から降河まで
- 接岸 海流によってたどり着き、匂いで川を知る
- 遡上 満潮にのって遡上をはじめ、さらに上流へ
- 隠れ場所 ウナギにとって重要な身を隠す場所
- 捕食 夜間に活動し、さまざまな餌をとる
- 被食 小さなうちは敵も多い
- 個体間の争い 餌や隠れ場所を巡る争い
- 産卵回遊 住み慣れた川を離れ、産卵場へ
- 河口ウナギ・海ウナギ ほとんど遡上せずに暮らすウナギたち
- オオウナギ 知られざるその生態
- ウナギの採集調査
- ◆第4章 日本人とウナギ
- 日本人とウナギの歴史
- 縄文・弥生時代 出土する骨から知る当時のウナギ事情
- 奈良~安土桃山時代 日本の文化に入り込むウナギ
- 江戸時代 豊富な文献から読み解くウナギ
- 明治時代~令和 養鰻がはじまり、養殖ウナギが消費の中心に
- 養鰻
- 今も続くウナギ信仰
- 縄文・江戸・現在のウナギ分布比較
- 縄文・弥生時代におけるウナギの分布
- 江戸時代におけるウナギの分布
- 現代におけるウナギの分布
- ウナギ属魚類自然分布変動の要因
- 内陸部への遡上
- ウナギの漁獲
- シラスウナギ漁
- 黃ウナギ・銀ウナギ漁
- ウナギ釣りに使う道具
- さまざまな釣り餌
- 岡山県児島湾の天然ウナギ漁
- ウナギを食べる
- ウナギの栄養価
- 鰻蒲焼きの誕生
- 鰻丼の誕生
- 蒲焼の作りかた
- 日本のウナギ料理
- 世界のウナギ料理
- 美味しいウナギとは?
- 江戸時代の文献から辿る美味しいウナギの条件
- 頭部形態と味
- 江戸時代の「美味しいうなぎ」の特徴と養殖ウナギ
- ◆第5章 日本人とウナギの未来
- 保全
- ニホンウナギの集団構造と国際協力
- 海の環境変化
- 過剰な消費
- 生育場環境の劣化
- 放流
- 完全養殖
- 日本の消費が世界に与える影響
- 保全に関係する国際条約
- 世界で行われる保全の取り組み
- 日本人とウナギの未来
- 【コラム】
- 耳石によってわかること
- 「ウナギ」とつくがウナギではない魚たち
- ウナギの性分化と繁殖戦略
- 超音波テレメトリー手法を用いたウナギの生息域利用研究
- 東都宮戸川之図から見る江戸時代の隅田川
- 古座川で餌として使われるボウズハゼ
- 北アイルランドのウナギ漁
書籍紹介
著者の海部健三、脇谷量子郎、そして写真家の内山りゅうが共同で制作したこの書籍は、ウナギの生態から文化、保全に至るまでを網羅しています。
内容の深さと広がり
この書籍は大きく五つの章から構成されています。まず、ウナギという魚そのものの生態を解説する第1章では、ウナギの分類や回遊、生活環について詳述。第2章では、日本で見られるウナギの種類を図鑑形式で紹介。特に注目すべきは、2021年に日本で初めて自然分布が確認されたウグマウナギが含まれている点です。
第3章では、ウナギの一生を追い、捕食や被食、産卵回遊といった生態をビジュアルで解説。そして、第4章では縄文時代から現代まで、日本人とウナギの関係性を文化的な視点から探求。ウナギの漁法や料理、特に鰻蒲焼きや鰻丼の歴史に触れています。
最後の第5章では、現在問題となっているウナギの保全について考察。過剰な消費や環境変化、そして保全策としての完全養殖の可能性など、未来を見据えた議論が展開されます。
写真とイラストの魅力
内山りゅう氏のダイナミックな水中写真は、ウナギの生態をリアルに描き出しており、読者の興味を引きつけます。また、ブロガーの安斎俊さんによる生息地イラストも、ウナギの生活環境を理解する上で大変役立ちます。
保全への意識
ウナギの減少は単に食文化の問題ではなく、自然環境全体の保全に直結しています。ウナギの生態を理解することで、自然環境への関心を高めるきっかけを提供します。近畿大学の完全養殖成功のニュースと共に、この書籍は持続可能なウナギ資源の利用について深く考えさせられることでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
捕食
ウナギは動物を捕まえて食する捕食者であり、成長段階によっては動物の遺骸を食べる腐食動物でもあります。
沿岸に近づきシラスウナギに変態して河川へ遡上する際は、ほとんど餌を食べないと考えられています。河川の下流域に着底すると、徐々に餌を摂取し始めます。
ニホンウナギのエサは、アメリカザリガニ、アナジャコ、イソガニ類、テナガエビ類、モズクガニ、サワガニなどの甲殻類、トンボ類、ユスリカ類、カゲロウ類などの昆虫の幼生、ゴカイ類、ミミズ類、ヒル類などの環形動物、二枚貝や巻貝などの貝類、カワムツ、ヨシノボリなどの魚類、森林性のゴキブリ類、ムカデ類、フトミミズ類など、非常に幅広いです。
ウナギ属魚類の摂餌戦略は、近くに生息している動物のうち、バイオマス密度が高い生物を中心に捕食することで効率よく摂餌しています。例えば、岡山県の河川淡水域では、アメリカザリガニが多く捕食され、カゲロウの幼生が羽化する季節には、特に羽化途中の亜成虫を集中して捕食する行動が観察されています。
養鰻
現在の日本におけるウナギ養殖は、マリアナ海溝から来遊したシラスウナギを河川付近で捕獲し、養殖池で出荷できるサイズまで育てています。中国や韓国でもニホンウナギ、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギが盛んに養殖されており、一部は蒲焼に加工された後に日本へ輸出されています。
ウナギの養殖は一般的に、陸上にコンクリート製の池を造成して行われます。これらの池はガラスやビニールハウスで覆われ、ボイラーなどを用いて加温します。
養殖場では高密度でウナギを飼育するため、酸欠になりがちです。常に水車を回転させて曝気しなければウナギは死亡します。停電などの電力供給停止で水車が停止すると、数時間で養殖場のウナギが全滅するため、予備電源が常に準備されています。最近では液体酸素を用いた酸素供給も行われるようになりました。
ウナギの成長には個体差があり、あまりにサイズが異なると共食いされる可能性があるため、数か月ごとにサイズ選定を行い、複数の養殖池を用いて需要に応じたサイズのウナギを出荷しています。
蒲焼店では重箱に美しく収まる5pサイズが喜ばれるようです。
輸入されたウナギであっても、値段が安いだけで同じニホンウナギであること、養殖には手間と時間とお金がかかることがわかります。
ウナギの栄養価
UnsplashのTakuma Tsubakiが撮影した写真
ウナギは栄養価の高い食べ物として知られています。ウナギは他の魚と比較して総エネルギー量が高く、高カロリーの食材です。栄養素としては他の魚類と同様に、たんぱく質が豊富で炭水化物などの糖質が少ないです。脂質も多く含んでおり、焼くと油が滴り落ちます。しかし、タレに糖分が含まれている場合や、鰻重のようにご飯が添えられている場合は、糖質に注意が必要です。
1000年以上前の時代において、我々の祖先はウナギの栄養価が高いことを経験的に理解していた可能性があります。