地図入門/著者:今尾恵介

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書籍情報

タイトル

地図入門

発刊 2015年5月1日

ISBN 978-4-06-258601-6

総ページ数 248p

著者

今尾恵介

音楽出版社勤務を経て独立。地図・地名・鉄道関係の単行本の執筆を精力的に手がています。現在は地図研究家。

出版

講談社 講談社選書メチエ

もくじ

  • まえがき
  • 第1章 地図とは何か―地形図、土地条件図、住宅地図、海図
    • 地図の種類―一般図と主題図
    • 地形図―風景の見える地図
    • 陸軍と田んぼの記号
    • 学校地図帳―立体的に世界を眺める
    • 地名は現地呼称主義に
    • 土地条件図
    • 住宅地図―足で情報収集した苦労の賜物
    • 海図―水の底を見透す
  • 第2章 風景を記号化する―地図記号
    • この世を抽象化するための記号
    • お役所の記号が多い日本の地形図
    • 地形図の植生記号
    • 総描―この世を丸めて示す
    • 独立建物(小)
    • 街の発達史を読む
    • 独立建物(大)
    • その他の「見物類似物件」―無壁舎
    • 外国地形図の総描家屋
    • 建物記号の位置について
    • 真位置に置く記号もある
    • 建物記号が真位置に変更された新図
    • 縮尺によって必要になる「転位」
  • 第3章 地図の縮尺と高さ
    • 縮尺とは何か
    • 大縮尺と小縮尺
    • メートル法
    • 「6万3360分の1」の謎
    • 地図の「高さの基準」
    • 海図の0メートルは東京湾の平均海面ではない
    • 地形の表現方法、等高線
    • ケバ
    • 等値線と等高線
    • 等高線と地形
    • 地図作成のための空中写真撮影
    • 等高線の種類
    • 各国の等高線間隔の相違
    • 等高線が描かれない場所
  • 第4章 地図と地名のはなし
    • 日本の行政区分と地名階層
    • 住所表示の特例
    • 大正期の帝国における町村名居住地名
    • 地勢図の「宇隔の違い」にも残った帝国図の思想
    • 平成の大合併と地名表記の問題
    • 自然地名の表記
    • 優れた地図は「地名の広がり」を直感できる
    • 地図で読む地名と地形
  • 第5章 地図と政治
    • 戦争と地図
    • 戦時改描と立川
    • いろいろな改描の実際
    • 要塞地帯の観光
    • 竹島の地図はどうなっていのか
    • 北方領土の地形図
    • 東京都庁問題、ロンドンの幽霊道路
  • 第6章 地形を味わう
    • 地図で観察する川
    • 大井川下流部「越すに越されぬ……」
    • 大井川中流部は嵌入蛇行の西の雄_四万十川
    • 河川が何を争奪する?
    • 北海道の山でも人知れず河川争奪
    • 集落の形に残る阿賀野川の蛇行跡
    • 扇状地と天井川
    • 河岸段丘というテラス
    • ダイナミックな信濃川の河岸段丘
    • 川がトンネルをくぐる―養老川
    • 地図で味わう個性的な地形―細長く伸びた東平安名岬(沖縄県宮古島市)
    • 若く美しい山肌―開聞岳(鹿児島県指宿市)
    • 噴火で陸続きになった桜島(鹿児島県鹿児島市)
    • 地形の見本市・上島(鹿児島県薩摩川内市)
    • 本当に丸い米丸と住吉池(鹿児島県姶良市)
    • メサの代表・万年山(大分県玖珠町・九重町)
    • 讃岐のミニ富士郡(香川県坂出市・高松市ほか)
    • 中海と「締切未遂」の堤防(島根県松江市)
    • 身を削って城の石垣を提供した犬島(岡山市東区)
    • 複雑な飛地をたどる(京都府木津川市・笠置町)
    • 古墳がひしめく近郊都市(大阪府藤井寺市・羽曳野市)
    • もうひとつの五稜郭(長野県佐久市)
    • 伊豆北西端のフック・大瀬崎(静岡県沼津市)
    • 大崩海岸・石部の海上橋(静岡市駿河区・焼津市)
    • 大室山と溶岩台地(静岡県伊東市)
    • 一碧湖と校庭になった噴火口(静岡県伊東市)
    • 地すべり地帯・猿供養寺の棚田(新潟県上越市)
    • 旧山古志村に広がる無数の養魚池(新潟県長岡市)
    • 三宅島の噴火前と噴火後(東京都三宅村)
    • 丸い頂が並ぶ箱根の二子山(神奈川県箱根町)
    • 田んぼの海に浮かぶ島々―象潟(秋田県にかほ市)
    • 日本最低所―ダイナミックな石灰の露天掘り(青森県八戸市)
    • 青函トンネル内の水準点(青森県外ヶ浜町沖)
    • 分水界が海辺の崖上―落石付近(北海道根室市)
  • あとがき 地図に騙されないために
  • 主要参考文献

まえがき

 ひと昔前まで、マザー牧場へ行くなら地図で調べるのがふつうです。ガイドブックを頼りにする人でも、読んでいるうちに房総半島の簡単な全体像はだいたい頭に入ります。牧場が房総半島の西側中央あたりに存在することを知ると、今度はそこへ行くために時刻表の索引地図を見ます。そうすると、内房線の佐貫町駅からバスがでていることがわかり、時刻表にたどり着くという手順です。

 最近は外国人観光客が富士山目当てに、群馬県の富士山下という駅にたどり着くといいます。それを考慮したのか、富士急行線の富士吉田駅が富士山駅に改称し、スマホで「富士山」と検索すればお客様を間違えずに運んでくれるようです。

 スマホの画面で現在地を確認しながら、指2本で拡大縮小をして確認できるのだから迷いようがありません。それでも「地図」はどんな地理情報を伝えてくれるのでしょうか。それを伝えるのが本書の目的です。

足で情報収集した苦労の賜物

 1500分の1の大きな縮尺の基本図に描かれた家やビルに、それぞれの所有者もしくは住居者などを記入した地図で、宅配便やピザ屋など配達を生業とする営業所はもちろん、警察や消防、市役所などの行政機関でも欠かせない基礎資料となっています。

 この資料の分野ではゼンリンが国内ダントツのシェアをもっています。「善隣友好」に由来するという同社は別府温泉の案内図から始まった地図会社で、今では全国の市町村の99%にわたる膨大な数の住宅地図帳を都市部ではない都市、新しい版を出版しています。

 ゼンリンの調査員アルバイトはなかなか大変な仕事です。犬に吠えられ、雨の日は地図を濡らさずに外でデータを書き込むのが難しく、冬は寒くて思うように指が動かないといいます。他にも日焼け対策やトイレ事情も難題です。できるだけ最短ルートで回り調査をするかが腕の見せ所となっています。

 そうした足で情報を得ながら、グーグルやカーナビといった地図にもゼンリンのデータは提供されていて、アナログな仕事がデジタルの最先端に活かされているのです。

高さの基準

 2万5千分の1などの地形図には、どこを0メートルにしたかの基準が記されています。日本国内の地形図なら大半の図に「高さの基準は東京湾の平均海面」とあります。

 素人考えだと、海面は世界中どこでもつながっているのだから一定ではないかと思ってしまいがちです。実際は各地で相当に異なっていて、日本海側は太平洋側より最大数十センチ高いのです。潮流、地形、重力が重なって、地域で大きな差がでます。

 日本国内ではすべての地図が東京湾の平均海面で示されているわけではありません。川の水面の高さに「A.P.」「O.P.」などが表示されていることがあります。河川関係の工事を行う場合、干潮の時間帯では水面の高さがマイナスになってしまい、プラスとマイナスの間で数値が行き交うのは煩雑で間違いの元です。そのため大潮の干潮時の海面を0としたのがAPとなっています。性質上「工事基準面」とも呼ばれています。

優れた地図は「地名の広がり」を直感できる

 一般の地図にとって、書体・字大・字隔の「単純化」は、データのメンテナンスや入力の手間の軽減にかなりの威力を発揮するでしょう。けれど、地名がもつ「広がり」を表現する努力をないがしろにすれば、結果的に読者にとって読みにくい地図ができあがります。

 地名表記は、住居地名であれ自然地名であれ、その示す範囲が明確になったときに初めて地図上で生きるものです。すなわち「読者に立体感をもって地名を把握させる表現」への努力を怠らないことが、現代において地図の大役を担うのではないでしょうか。

箱根の二子山

 誰が見ても二子山と名付けそうな山です。北西側にあるのが上二子山、南東側が下二子山で、麓の方から見ると2つのなだらかな超常があるようにみえますが、いずれも3つ4つの頂上からなっている。

 箱根火山のカルデラの中にある中央火口丘で、典型的な溶岩円頂丘です。粘り気の他界溶岩が噴出すると、周囲に流れださずにこのようなドーム状の山ができます。上二子山の北西麓にある「元箱根石仏群」は岩壁を利用した六道地蔵などで、国の重要文化財です。

 国道1号がここを通り、また麓の湯本の方からもよく見えるので、お馴染みの山です。小田原付近を走る東海道新幹線の車窓からも遠望できます。

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