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目次
書籍情報
産業革命
起源・歴史・現在
ロバート・C・アレン
オクスフォード大学なフィールド・カレッジ・フェロー、経済史教授を経て、ニューヨーク大学アブダビ校特任教授。専門は経済史。
白水社
- 第1章 過去と現在
- 第2章 産業革命の前提条件、1500~1750年
- 第3章 なぜ産業革命はイギリスから始まったのか?
- 第4章 イギリスの変容
- 第5章 革命と民主主義
- 第6章 産業革命の世界的拡大
書籍紹介
この書籍は、長い論争の歴史を持つ「産業革命」を新たな視点から再評価し、その意義を明らかにしています。
違ったアプローチから考える
なぜ産業革命がイギリスで最初に起きたのかという問いに答えるため、経済的な要素だけでなく、グローバル・ヒストリー、環境史、科学史、社会史・文化史といった多様なアプローチを採用しています。高賃金と低エネルギー価格がイギリスで機械化を促進した理由の一つであると論じ、他地域ではこのような条件が揃わなかったために産業革命が遅れたと説明します。
産業革命がない訳がない
「産業革命はなかった」という近年の修正主義的な見解に対する反論でもあります。アレンは、産業革命が人々の生活をどのように変化させたか、そしてそれが現代の構造的問題にどのように関連しているかを考察します。具体的には、グローバル化による格差や貧困の拡大、奴隷制や人種差別の歴史、そして気候変動や環境破壊のような問題が挙げられています。
産業革命を理解する
産業革命の複雑さとその後世への影響を理解するための重要な資料であり、学術的な研究だけでなく、一般の読者にとっても興味深い一冊です。この書籍を通じて、我々は産業革命の本質と、それがなぜイギリスから世界に広がったのかを深く理解することができます
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
蒸気機関
工業化以前は、木材や泥炭の燃焼、風力や水力といったものをエネルギーの基盤としていました。
18世紀になると、蒸気機関を通じてエネルギーが機械の動力へと転換されていきます。最初は鉱山で水を排出するために用いられました。そこから100年間で改良され、高圧の蒸気機関へと発展しました。
1830年から1870年にかけて、蒸気機関によって駆動される機械は、経済全体のさまざまな活動から人間や動物による労働を取り除いていきました。製材所でのノコギリ作業を代替し、陶器製造における粘土の混ぜ合わせといった重労働にとって代わりました。19世紀半ばには、手作業のほとんどが消滅し、高い生産性の工場労働に変わったのです。
フランス革命と産業革命
国王や多数の貴族が断頭台に送られることで、封建制度は廃止されました。そうしたフランス革命は、イギリスでも民主主義がより良い世界を作り出すと信じる支持者を増やしていったのです。
富裕層にも、改革を支持する人が多かったが、残虐さが増すにつれて熱量が希薄になっていったようです。工場労働者や職人といった、誰かに言われたとおりに働くような賃金奴隷ではなく、独立自営の自由な存在を理想としてプロパガンダが行われました。
雇う側の労働者の裁量権が強すぎたために起きた革命でしたが、これに対して団結禁止法などの法律が制定され、労働組合や団体交渉が禁止されるなどの防衛策が取られました。民主主義の攻撃に対して、古い秩序が抵抗した形です。
かつてよりも、商業や製造業の利害が影響力を獲得するようになっていきました。しかし、この頃はまだ労働者の投票権が認められていませんでした。
開発国家
20世紀には、工業化のもたらす利益が以前よりもさらに大きくなりました。新しい技術には研究開発が必要です。世界中のほとんどの研究開発は、少数の最も富裕な経済圏で行われます。それらの努力は直面している問題の解決に向けられているため、新しい技術は地域の状況に合わせて調整されます。
新技術は、労働者の生産量と資本を増加させ、賃金を引き上げるというスパイラルを生み出します。しかし、このスパイラルが解けると、技術が進歩しても実質賃金が停滞することになります。
主要国で工業化を経験せずに豊かになった国は存在しません。多くの国が依然として貧困状態にあり、その状態を脱却するためにも工業化を期待しています。現在の中国は、安価な工業製品の供給源となっており、将来の工業国家はそれに対抗しなければなりません。
産業革命は貧しい国で起き、豊かな国に多大な影響を及ぼします。先進国は、安価な製品を生み出す工業国家と競合できないことに気づいています。豊かな工業部門は縮小し、経済はサービス部門に傾きつつあります。中国に続いて産業革命を成し遂げる国はどこなのか、歴史の展開に注目するべきでしょう。