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目次
書籍情報
移民は世界をどう変えてきたか
文化移植の経済学
発刊 2024年4月25日
ISBN 798-4-7664-2961-9
総ページ数 261p
ギャレット・ジョーンズ
ジョージ・メイソン大学公共選択研究センターの経済学准教授。専門はマクロ経済学。
慶應義塾大学出版会
- はじめに 最善の移民政策
- 序 経済学者は「文化の力」にいかにして気づいたか
- 第1章 同化という神話
- アルゼンチンの物語
- 態度を輸入する
- 信頼は移動するか
- 文化変化のスパゲッティ理論
- 倹約は受け継がれるか
- 家族的価値観の危うさ
- 受け継がれるものと継がれないもの
- 第2章 繁栄はどこから来たのか
- 16世紀以前の東アジア・アフリカ世界
- 始まりの論文
- 過去はプロローグか?
- 「移民調整」の作業
- 場所の歴史か人の歴史か
- ヨーロッパからの移民が重要なのか?
- 地理についてはどうか?
- 「なぜ」は「何」より難しい
- 第3章 人なのか、場所なのか
- 経済学者、尺度を作る
- 注目すべき一枚のグラフ
- 国のSATスコアを算出する
- 「ディープルーツ」を探究する
- 文化的距離の尺度
- 多様性の評価
- SATスコアの重要性
- すべてが偶然の一致だったら?
- 第4章 移動する「善き統治」
- 政府の質のディープルーツを探し求めて
- ジェイムズ・アンの予測
- 世界銀行による「善き統治」の尺度
- 第七の尺度(SAT+)
- 運命の逆転はなかった
- 第5章 多様性の何が問題なのか
- 民族的多様性に関するテスト
- ビジネスにおいて多様性が問題になる場合
- 最良のシナリオ:それほど良くない
- 民族的多様性に対する企業側の需要
- コンサルタントが多様性を支持する理由
- 信頼できるのは誰か
- 紛争の民族的性質と政府の規模
- 多様性がもたらす両義性
- 第6章 I-7─イノベーションを支える国々
- 良いアイデアの源泉
- 善き統治は特許を増やすか?
- 良いアイデアの拡散
- I-7の統治を改善する
- 第7章 華人ディアスポラ――資本主義への道
- 台湾・シンガポール・マカオ・香港のディープルーツ
- 華人ディアスポラの始まり
- 東南アジア:同化神話を反証する
- 第8章 アメリカのディープルーツ
- 移民の国:アメリカ
- 富裕国からの移民:良い不動産を選んでいるだけ?
- 先祖はなぜ重要か
- スキルの多様性vs価値の多様性
- 文化的特性の持続を測る
- 全米50州のディープルーツを探る
- いわく言いがたいもの
- 文化はどのように移植されるか
- おわりに ガチョウと黄金の卵
- 移民が変える世界
- 移民は移住先を出身国と似たものにする
書籍紹介
移民がもたらす多様な影響を経済学の視点から解き明かす一冊です。本書は、移民がどのように世界を変えてきたか、その背後にある経済的メカニズムを探るための豊富な洞察を提供しています。
移民の影響力を理解するための経済学的アプローチ
ギャレット・ジョーンズは、経済学者としての豊富な知識と経験を駆使し、移民の影響を多角的に分析しています。彼は、移民が受け入れ国の経済にどのような影響を与えるか、そしてその影響が時間とともにどのように変化するかを詳細に説明します。特に、移民がもたらす「文化移植」—異なる文化的背景を持つ人々が新しい環境に適応し、その過程で新しい文化が形成される現象—に焦点を当てています。
文化と経済の交差点
本書の特徴の一つは、文化と経済の交差点にある問題を明確にする点です。移民が新しい文化を持ち込むことで、受け入れ国の経済構造にどのような影響を与えるかを分析します。例えば、移民が持つ独自の技能や知識が受け入れ国のイノベーションを促進する一方で、文化的な摩擦が経済的なコストを引き起こす可能性についても言及しています。
データと事例研究を活用
ジョーンズは、豊富なデータと具体的な事例研究を活用して議論を進めます。世界各地の移民政策やその結果についての詳細な分析は、読者に具体的な理解を提供します。彼のアプローチは理論的な枠組みにとどまらず、現実のデータに基づいているため、非常に説得力があります。
読者へのメッセージ
移民問題に関心のあるすべての人々にとって必読の書です。移民の経済学的影響を深く理解することで、私たちはより包括的で持続可能な移民政策を考えるための基盤を得ることができます。ジョーンズの分析は、移民が単なる経済的要因ではなく、社会全体に深い影響を与えることを示しており、その理解は現代社会においてますます重要となるでしょう。
まとめ
ギャレット・ジョーンズの『移民は世界をどう変えてきたか 文化移植の経済学』は、移民の影響を深く掘り下げた一冊です。文化と経済の交差点に立ち、移民がもたらす変化を多角的に捉える彼の視点は、私たちに新たな洞察を提供します。移民問題をより深く理解し、未来の政策を考えるための重要な指針となるでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
地理についてはどうか?
ある国の繁栄を測るのは簡単です。例えば、1980年代には1人当たりのシャンデリアの数、現代では1人当たりのエアコンの数を調べれば、その国が裕福か貧しいかを予測するのに役立ちます。
しかし、なぜその国が成功してきたのかまでは分かりません。国家の歴史や農業の歴史という観点から見ると、過去に遡ることでより多くのことが見えてきます。これらの歴史的な視点は、ある国の生産的な指標をわかりやすく示してくれるのです。
これらの歴史の尺度は、ヨーロッパ人や中国人の移民が繁栄に適した場所に移動したことを示しているように見えるかもしれません。
しかし、原因と結果の関係を考えると、組織化された文化がなぜ高い生産性を持つのかが分かります。何世紀にもわたり、人々が権力者に従い生産活動を行わなければならなかったからです。平和的であれ暴力的であれ、生産力の高い文化は最適な場所を確保してきました。生産的な文化ほど、農業の予測ができ、水上交通が便利になる特徴があります。仕事に有利な土地をみつけることが、秀でていたのです。
文化的距離の尺度
スポラオーレとワチアーグは「ジャンクDNA」と呼ばれるものを解析し、遺伝的距離の尺度を作成しました。彼らは、この遺伝的距離の尺度を文化的距離の客観的尺度として使用しています。さらに、彼らは二つの文化が似ている場合、良い概念を相互に交換しやすいと考えています。
世界の見方が非常に似ていると、隣国の文化とイノベーションを共有するのは簡単です。
逆に、文化的差異が大きいと、うまく翻訳できないため、ジョークであれ生産ラインの方法であれ、意見交換に障壁が生じます。
文化的尺度や言語的尺度は、間接的に遺伝的距離の尺度を反映しています。この遺伝的距離を気候や地理的な尺度と照らし合わせることで、豊かさについて考察しています。こうした尺度は、さまざまなコンテストで非常に好成績を収めています。彼らのオリジナルの論文は、ハーバード大学の権威ある『クォータリー・ジャーナル・オブ・エコノミクス』に発表され、学術論文や専門書に700回以上引用されてきました。
良いアイデアの拡散
1990年代に、ボストン大学の2人の経済学者が、新しいハイテクの概念や習慣がいかに速く、いかに広く、ある国から別の国に普及するかを調査しました。
アメリカ系の多国籍企業のトップエグゼクティブに対して行ったインタビューの内容は次の通りです。「新しい技術があなたの会社のアメリカ支店で成功したとき、その技術が他の富裕国にあるあなたの会社の海外支店に広がるまで、通常どれくらいかかりますか?」
31社の製造会社がインタビューされました。無作為に選ばれたこれらの会社は、科学、薬品、石油、電気機器、電子機器、機械、楽器、ガラス、食品、ゴムなどの広範な産業を含んでいます。
インタビューの結果、富裕国にある海外支店には技術が広がるまでに平均6年、発展途上国にある支店には10年以上かかることがわかりました。今ではこのプロセスが加速しているかもしれませんが、大企業の1つの支店でしか使われない良いアイデアがテーブルの上に放置されるには、非常に長い期間です。これは、ある国で良い改善策であっても、変化を起こすのが難しいことを示しています。
移民が変える世界
寓話は経済理論と非常によく似ています。それは、私たちを取り巻く世界の本質の一部を教えてくれる物語です。たとえば、純金の卵を産むガチョウのイソップ物語は、富が不思議なプロセスによって生まれることを教えてくれます。
多くの人は短期的な利益だけを考えたがります。今すぐにガチョウの腹を切り裂いて欲しいものを手に入れようとするのです。
衛生的なトイレも野外便所もなく、平均寿命が70歳以下の国が50カ国もあると言われています。貧困事情が切迫しているため、最貧国から富裕国への移民が魅力的で直感に訴えるものとなるのも理解できます。
しかし、長い目でみて移民を受け入れ続けるとなると、「政府の質の低下」「汚職の増加」「内戦の勃発」「信頼に対する価値の低下」「最低賃金の引上げ」「労働者の解雇を困難にする法律に改訂」といったリスクが高まります。
けれど、多様性にはリスクがある一方で、その卓越性には見返りがあるものです。ノーベル賞受賞者、偉大な作家、イノベーティブな科学者を歓迎し、彼らには市民権が即座に与えられます。移民の中の1000人に1人は聡明な人材であり、宝物です。私たちは最高の人材を歓迎し、彼らから常に学びます。