※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
目次
書籍情報
私はヤギになりたい
ヤギ飼い十二カ月
内澤旬子
文筆家、イラストレーターl、獣肉処理販売業。
2014年に小豆島に移住し、動物たちと暮らす。
山と溪谷社
- ヤギ家系図
- 四月 卯月嬉しや待望の御馳走を刈り取る
- 草を食べると言うけれど
- 雑草木万華鏡
- 春はオーツ麦から
- 春はマメ科
- 気高きグルメたち
- 五月 皐月あおめき浮かれて噛め呑め若葉は甘露
- 新緑を噛み締めて
- 恐るべき発情力
- 新天地の植生
- 棘だらけのごちそう
- 葡萄の葉を味わい
- 六月 緑深まり 葉も茎も大きく硬く 虫育ち 駆け抜ける水無月 梅雨は干草
- 藪と化していく鬨と化していく叢
- 赤目柏は森の先兵隊
- チェーンソーに挑戦
- 李も梅も、枇杷の実も葉も
- ヤギが五頭体制になるまで
- 七月 豪雨にも耐えて文月 カヨパレス 苧麻刈り取り かたつむり転々
- 風雨とヤギ舎
- 騒然、頭突き食事会
- 刈り払い機
- 刈りすぎ注意
- 八月 繁る葉の月酷暑でもヤギの食欲衰えず摑み引く蔓
- 猛暑到来
- 茶太郎の隠れ家
- 虫から逃れて
- 楽に採れて美味しい葛
- 季節で変わる味?
- 九月 長月ながく 酷暑終わらず夏枯れのあと 芽吹き花先まるで春
- 夏シカ、獲れる
- チェーンソーと楡
- 溢れだす樹液
- 秋の花々
- 留守中の餌
- 乳搾りは楽じゃない
- 偶然の美味
- 十月 蔓は乾せ 亥の月眺め 霜の降るまで鎌を振りつつ 草暦を読む
- 秋の構掃除
- 山なす残枝の処理問題
- 秋の大発情祭り
- 雑草の刈り方考
- 刈っては干して、食べられて
- ヤギは忘れない
- 十一月 山眺め 色づき落ち行く 葉に焦り 霜降る日まで 刈り回れ
- 落葉前にいただきます
- 落葉樹の枝を保存
- 干し書きは少しずつ
- ヤギの気持ち
- 十二月 食べ尽くせ 小春の草々 霜降るまでの美味や愛おし
- 小さき春に
- 麦の芽を食われる
- ヤギは寂しがり屋さん
- 嫌われ玉太郎、鬱ヤギを救う
- 一月 霜枯れて 草がなくても 大丈夫 山の照葉があると 山羊啼く
- 青い草木を探し求めて
- ヤギの子離れ
- ランクダウンは唐突に
- 空き地は密林
- 一頭か多頭か
- 二月 はやばやと 吹き出す 芽のうま味 ヤギのみぞ知る如月
- 山へ
- ヤギの病気
- 疑惑を晴らせ
- 春の欠片
- 怒れる女王
- 三月 弥生よい月 若葉に新芽 噛めば立つ音に 耳済ます
- 春草の御馳走
- 隔離終了
- 春と除草剤
- 開眼!懇願式蹄切り
- 府章 目を凝らし 耳を澄ませる 十六夜 照る月 笑むヤギ 潜むイノシシ
- ヤギを飼うなら
- ヤギと生きる
- ヤギが好む小屋は
- リーディングを仕込む
- 給餌の迷宮
- ヤギになりたい
- あとがき
書籍紹介
この本は、ヤギ飼いとしての日々を四季折々の自然と共に描いた、まさに”ヤギ飼いイラストルポ”とも言うべき作品です。
内澤旬子さんは、神奈川県出身で、2014年に小豆島に移住し、その後ヤギをはじめとする動物たちと共生する生活を送っています。この書籍では、ヤギたちとの生活を通じて、四季の変化や自然の営みを非常に詩的な視点で綴っています。春の柔らかな草から冬の常緑樹の枝まで、ヤギの食事に合わせて一年間の草刈りの様子が詳細に記されています。
ヤギと気づき
内澤さんがヤギたちと過ごす中で見つけた自然の美しさと、そこに潜む生命の尊さです。ヤギたちが食べる草の選び方、季節ごとの草木の変化、ヤギ同士の関係性、さらにはヤギの病気や発情期に至るまで、彼女の観察眼は鋭く、読者に新鮮な驚きを与えます。
興味深いのは、ヤギが食べる草を通して、季節感や自然のリズムを学ぶことができる点です。ヤギの食性は非常に選択的で、旬の草を好むため、ヤギ飼いは自然とその地域の植物学、季節の移り変わりに敏感になるようです。内澤さんはこれを「ヤギたちの世話をしているおかげで、私は多くの草と出合い、誰かがつけた名前を知り、若芽を出してから枯れしぼみ、次に生えてくる草の間に沈んでゆくまでを見届けてきた」と述べており、ヤギ飼いが単なる飼育ではなく、自然との対話であることを示しています。
独特な四季を感じたい方へ
ヤギ愛好家だけでなく、自然や植物に興味がある方、四季の移ろいを感じたい人々にお勧めします。内澤さんのユーモアと詩情に溢れた文章は、読後には心に潤いを与えてくれることでしょう。
自然と共に生きることを学ぶ一冊として、多くの読者に新たな視点を提供してくれるでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
チェーンソーに挑戦
島を留守にする際、ヤギの世話を大家にお願いしたときの話です。大家は楡の木を一本切り倒し、枝を切り払ってヤギ舎に放り込み、餌を与えている画像を送ってきました。
私もやってみたいと思い、ついマキタの充電式チェーンソーを買いました。ヤギのために人間の除草能力がどんどん向上するのは一体どういうわけでしょうか。
ヤギ舎の近くの山の境には榎があります。榎の上のほうにはヤギの御馳走がついています。DIYで使う木材よりも水分が多いため、切りやすく、刃が通りやすいのです。
草地に向かって倒れるように考えて切り込みを入れるのですが、隣の枝に絡まって倒れないこともあります。また、チェーンソーの重さとエンジンの振動を抑える作業が大変で、すぐにクタクタになってしまいます。
都会では自然破壊というイメージがあるかもしれませんが、木が増え続ける田舎では伐採しなければなりません。木を倒すという戦闘に似た高揚感と、ヤギを喜ばせることができるという達成感が相まって、はち切れそうになりました。伐り分けた枝をヤギ舎へ引きずり、ハイエナのように群がるヤギたちを眺めます。
騒然、頭突き食事会
トラックの荷台に山盛りに積んできた餌を、何往復もしてヤギ舎に運び入れています。まずは一番大きな角を持つ茶太郎が最初に駆け付け、一番美味しい草や枝にかじりつきます。その際、他のヤギが先に駆け付けていたとしても、頭突きをして追い払ってしまうのです。
カヨは群れのリーダーではありますが、純粋な喧嘩で茶太郎に敵わないので、一歩引いた立ち位置を確保しています。この茶太郎とカヨに1回目の草は占領されがちです。
他の三頭は頭突きされないように、いろいろな角度から首を延ばして草をつつこうとします。角がない玉太郎は、餌を下ろす前に軽トラに乗り込んで、抜け駆けて餌にありつきます。末っ子の雫は、辛抱強く餌が運びこまれてくるのを待ち、なるべく頭突き闘争を避けて草にありつこうとします。
彼らの食の好みと、強弱関係や性格といったものが、食事の場では色濃く表れるようです。
乳搾りは楽じゃない
人間を含めた哺乳類すべて、まずは「産後」の状態を作ってやらないと、乳は出ません。雌の成獣なら常にミルクを出すものではないのです。
カヨは合計4回出産しているので、そのたびに乳を取りました。これが想像以上に茨の道でした。カヨは乳房に触られるのを本気で嫌ったため、手加減なしの鋭い頭突きを仕掛けてきます。おかげで、足が痣だらけになりました。
身体の小さな赤ちゃんたちでは、カヨの母乳を飲みきれません。乳房はパンパンに膨れていて、乳房炎になる危険がありました。
半強制的に絞らなければならないため、カヨ一頭がギリギリ入る木枠を作り、中に入れて繋ぐことにしました。これで頭突きは免れます。
最初は全然絞れず、カヨは暴れまわります。『アルプスの少女ハイジ』でペーターがヤギの乳を搾って直飲みしていますが、カヨの乳を搾るようになってからは心の底から尊敬します。