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目次
書籍情報
女たちがつくってきた
お酒の歴史
マロリー・オメーラ
ベストセラーを複数もつ作家
歴史研究科
脚本家
独立系映画会社プロデューサー
草思社
- はじめに
- ガーリードリンクって何?
- 錬金術のようなアルコールの世界
- 女と酒の新たな発見の旅
- 第1章 酔った猿とアルコールの発見_有史以前
- 高カロリーのアルコールが進化をもたらす
- 古代メソポタミアで女性が仕切っていた醸造業
- ビールをつかさどる女神ニンカシ
- 古代エジプトではビールは労働者階級、ワインは上流階級
- ハンムラビ法典によって自由が失われていく女性たち
- 第2章 クレオパトラの飲酒クラブ_古代世界
- 酒好きだったクレオパトラ
- 古代ギリシャでは女性の飲酒は言語道断
- エトルリアの女性 は酒好きで驚くほど美しい
- 並外れた知識と能力を身につけたクレオパトラ
- ローマ帝国で世界初のガーリードリンク
- ローマにとって危険なカエサルの恋人
- クレオパトラとア ントニウスの「真似できない生き方の人々」
- ローマが恐れた官能的な快楽と反道徳性の 象徵
- 第3章 聖ヒルデガルトと修道女たちの愉しみ_中世前期
- ビールの歴史を変えた修道女
- 貧しい女性の生きる術だったエールワイフ
- ホップの効用
- を世界に広めたヒルデガルト
- 唐の時代の女性は大いにお酒を楽しんだ
- 日本の酒造りは 少女たちの「口噛み」
- インドの女性たちはお酒で魅力を増す
- 中世ヨーロッパの女性たちにはアルコールは罪ではなく生存の手段
- 第4章 李清照と悪魔の日曜学校_中世中期
- 詩人李清照の酒と文学の世界
- お酒の販売でのさまざまな困難
- アメリカ先住民はサボテンからワインをつくっていた
- モンゴルの遊牧民は男と女が競い合って酒を飲む
- 自分の声を見つけていた李清照
- 女の追い出しと日本酒造り
- 酒に酔った感情を表現した先駆者
- 第5章 規範を笑い飛ばすメアリー・フリス_ルネサンス期
- ブームを巻き起こした男装のメアリー・フリス
- 独身女性は醸造業から締め出された
- アフリカでも女性主導の酒造り
- 蒸留酒の発見錬金術師マリア
- 蒸留業が女性を魔女に仕立てる
- メアリー・フリスの偽装結婚
- 第6章 女帝エカテリーナのウォッカ帝国_十八世紀
- ロシアの王位に惹かれたエカテリーナの結婚
- 家事をしながら酒造りをするベトナムの女性たち
- 初期のアメリカで大規模な施設での醸造を支えた奴隷労働
- クーデターの報償は ウォッカ/イングランドの「狂気のジン時代」
- スコットランドの人気酒ウイスキー
- スペイン人による植民地化に反抗した南米先住民の女性たち
- フランスの女性がワインを飲む新しい酒場「ギャンゲット」
- エカテリーナ大帝がもたらしたビールの大革新
- 第7章 未亡人クリコと女性たちを虜にした味_十九世紀
- スパークリングワインの立役者、バルブ=ニコル・クリコ
- 未亡人となり自由を得たバルブ=ニコル
- マクシ族の女性がつくるキャッサバのビール
- カクテルのレシピ本
- アメリカ西部開拓時代の酒好きの女性たち
- 十九世紀パリのカフェにはレズビアンの女性客が集まった
- 国際的な人気を得たヴーヴ・クリコのシャンパン
- 女性がつくっていたアイリッシュウイスキーとスコッチウイスキー
- アメリカンウイスキーを密造する武装した女性たち
- ウォッカを密造する農村女性たち
- シャンパン造りに革命を起こしたヴーヴ・クリコ
- 日本最大の酒蔵を築き上げた未亡人、辰馬きよ
- アルコールの世界における女性たちの 影響力
- 第8章 エイダ・コールマンと「アメリカン・バー」_二十世紀
- カクテル界の新しい女王エイダ・コールマン
- ビール売りで自立する先住民の女性たち
- 二十世紀初頭のメキシコでも飲酒とプルケの醸造・販売が規制
- アメリカの禁酒運動と女 性参政権運動
- エイダ・コールマンの「ハンキーパンキー」
- パリジェンヌを魅了した 「緑の妖精」 アブサン
- アメリカン・バーのもうひとりの女性バーテンダー
- 第9章 密輸酒の女王ガートルード・リスゴー_一九二〇年代
- 禁酒法の成立と白人女性の参政権
- 社会規範を無視するアメリカ女性「フラッパー」の登場
- 禁酒法のおかげでカクテルパーティーが発展
- 「密売の女王」ガートルード・クレ オシリスゴー
- 日本の「モガ」の出現と、新しいソビエト体制下の女性たち
- カナダの禁酒法
- 莫大な財産を築きメディアの寵児となったクレオ
- 違法酒場で活躍する女性たち 禁酒法の顔、 メイベル・ウィルブラント
- 禁酒法撤廃を勝ち取った女性たち
- 第10章 テキーラとズボンとルーチャ・レジェスの栄光_九三〇~四〇年代
- メキシコの女性たちの葛藤を体現した歌手、ルーチャ・レジェス
- 韓国でもキムチや酒造 りは女性の仕事
- 武器を持って立ち上がった南アフリカの女性たち
- 日本の農村には女性限定の酒盛りもあった
- ルーチャ・レジェスはテキーラを飲んで女性の真実の姿を表現した
- 女性のアルコール依存症に対する偏見と闘ったマーティ・マン
- 「ガーリードリンク」 を好まない女性たち
- バーカウンターから締め出される女性たち
- 持ち帰りやすい缶ビー ルの出現
- ルーチャ・レジェスの傷つけられた女性像
- 第11章 サニー・サンドと「ビーチコマー」_一九五〇年代
- ティキ文化発祥のティキ・バー
- 女性は家庭での良きホステス
- イギリスとオーストラリアで女性向けのお酒が発売
- 人目を引く真っ赤な封
- 禁酒法廃止後も規制の厳しい地域
- ハリウッドの女性セレブたちが愛したビーチコマー
- 南アフリカ先住民の女性たちの大規模な抗議活動
- LGBTQのコミュニティを求めて
- ティキはアメリカ史上もっとも長い飲酒文化のトレンドとなった
- 第12章 レディースナイトはベッシー・ウィリアムソンとともに_一九六〇~七〇年代
- スコッチのファーストレディ、ベッシー・ウィリアムソン
- バーに入る権利を獲得した女性たち
- 女性客を目当てにバーにやってくる男性たち
- ストーンウォール暴動の口火を切ったマーシャ・P・ジョンソン
- 世界でもっとも成功したウイスキー/ワイン業界への女性の進出
- テレビでワインを飲む女性
- 「バーボンの不良女子」
- ラクシ造りのために立ち上がったネパールの女性たち
- 自家醸造が合法となった南アフリカ
- ストレートのスコッチはガーリードリンク
- 第13章 ジョイ・スペンスのアニバーサリーブレンド_一九八〇~九〇年代
- 世界初の女性マスターブレンダー、ジョイ・スペンス
- 妊婦の飲酒は是か非か/男の子みたいに好き放題に騒ぐ女の子
- 「飲み物から目を離すな!」
- 二〇〇種以上の香味を嗅ぎ分ける
- ウィスキー業界でも女性マスターブレンダーが相次ぐ
- ビール業界初の女性プリ ューマスターの誕生
- アルコポップの流行と衰退
- カクテルとスピリッツの世界でもっとも影響力のある女性
- 第14章 ジュリー・ライナーは午後三時過ぎのバーテンダー_二〇〇〇年代
- 人気を集めたジュリー・ライナーのクラフトカクテル
- 生活の一部として酒を飲む女性たち
- ニューヨークのカクテルシーンを変えた「フラットアイアン・ラウンジ」
- 女性杜氏 町田恵美
- ジュリー・ライナーの闘い
- 第15章 アピウェ・カサニ・マウェラの新風_二〇一〇年代
- マスター・ブリューワーの資格を取得した最初のアフリカ系黒人
- ダイエットを組み合わせたカクテル「スキニーガール」
- 「ワインママ」への賞賛と非難
- 黒人女性が過半数を占める酒造会社
- ビール造りに情熱を注ぐ修道女
- アルコール産業の女性たちが組織化し活動を始めた
- 女性愛飲家たちの組織
- 醸造の世界に戻る女性たちの闘い
- エピローグ 女性と飲酒の歴史はどこに向かうのか
- 女性たちはこの先もお酒をつくり飲みつづけるだろう
書籍紹介
古代から現代に至るまで、女性がお酒の製造や文化にどのように関わってきたかを詳しく探っています。読者はこの本を通じて、酒造りが単なる技術や商業活動ではなく、文化的な表現や社会的なレジスタンスの形としても機能してきたことを理解できるでしょう。
女性たち物語
世界各地の女性たちが醸造を通じて自身の存在感を示し、社会に影響を与えてきた歴史を紐解きます。オメーラは、女性醸造家たちの物語を追うことで、彼女たちが直面した困難や挑戦、そしてそれを乗り越えるための独特な工夫や技術革新について描写しています。読者は、例えば、禁酒法時代のアメリカで密造酒を製造した女性たちや、戦後の日本で酒造業を再建した女性たちの話を通じて、酒がいかに女性のエンパワーメントにつながったかを知ることができます。
交流の手段としての酒
各時代ごとの社会背景やジェンダーの役割を考慮しながら、酒造りが持つ深い文化的意味を探求します。物語は、酒が単なる嗜好品ではなく、文化的な象徴や交流の手段として重要であったことを明らかにします。特に、女性が酒造りを通じてコミュニティを形成し、伝統を守りつつも新たな文化を創造していく様子が生き生きと描かれています。
読後は、お酒を一杯傾けるたびに、その背後にある深い歴史と数々の女性の労働と創造性を思い出すことでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
日本の酒造りは処女の「口嚙み」
日本で酒造りが始まったのは「口嚙み酒」だと言われています。西暦300年頃の話で、米や粟などの雑穀を口の中で嚙んで粥状にしたものを、大きな木製の桶に吐き出して作られました。数日間発酵させてから飲まれていたようです。
古事記などから推測すると、酒造り職人に指名されるのは、特に若い女性です。ちなみに処女に限るようです。
処女である十代の若い女性が、炊いたお米の塊を嚙んでは木桶に吐き出していました。収穫祭の際に、顎が痛くなるまで嚙み続けていたことでしょう。これらのご苦労な少女たちは神への媒介者とされ、彼女たちが作る酒は「美人酒」と呼ばれました。
蒸留酒の発見 錬金述師マリア
15世紀の終わりに蒸留という技術が開発され、アルコールをつくるための技術を学び始めていました。マティーニやマルガリータといった蒸留酒の登場は、人類がビールやミードを作れるようになって以来のゲームチャンジャ―です。
紀元100年から200年頃、マリアという女性は世界で最も偉大な錬金術のひとりです。自らをユダヤ婦人マリアと名乗っていたようですが、おそらくシリア人でアレクサンドリアに住んでいたようですが、詳しくはわかっていません。
マリアが目指したのは、不老不死や永遠の若さをもたらす霊薬「命の水」を見つけることです。それを発見する過程で「トリビコス」と呼ばれた三本腕の蒸留装置を編み出しています。彼女の目的と合わなかったため、蒸留を突き詰めることはありませんでした。
蒸留装置がアルコールとつながってくるのは、8世紀にイラクの科学者ジャービル・ブン・ハイヤーンがワインで蒸留器を試してからです。アルコールを気化させて集めたものを、冷やすことで再び液体に戻すと、蒸留酒が出来上がりました。
蒸留酒全般を「スピリッツ」といい、ウイスキー、テキーラ、ウォッカ、ジン、ラムとして知られています。
禁酒法撤廃
1920年代末頃は、禁酒法撤廃に多くのキャンペーンが行われていた時代です。
セービンは、共和党女性委員を辞めてまで禁酒法廃止キャンペーンを始めた人物です。15人の女性仲間を集め、計画をまとめて、運動への支持と宣伝を呼びかけました。
危険な密造酒が出回り、若い命が奪われているとして、法の尊重と節度ある飲酒を推進すると主張し、世間の母を味方につけていったのです。
全国規模へ発展して、各州の女性からなる諮問委員会を組織し、活動支部が置かれました。禁酒法にとって最強の抵抗勢力は、大酒飲みでも、密造酒の密売人でも、カクテル愛好家でもなく、母親たちです。
ルーズベルト大統領に政権が切り替わって、禁酒法の修正の公約を掲げていましたが、母親たちの圧力は留まることを知りません。あくまでも禁酒法の撤廃を要求していました。
その禁酒法撤廃の決着は早く、1933年12月5日にアメリカの禁酒法は終わりを告げています。