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目次
書籍情報
ゲノムでたどる
古代の日本列島
発刊 2023年10月12日
ISBN 978-4-487-81661-3
総ページ数 287p
斎藤成也 国立遺伝学研究所名誉教授
山田康弘 東京都立大学人文社会学部教授。専門は先史学
太田博樹 古人骨DNA分析をテーマに研究。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授
内藤健 農研機構遺伝資源研究センター上級研究員。農学博士
神澤秀明 国立科学博物館人類研究部研究主幹。理学博士
菅裕 県立広島大学生物資源科学部教授。理学博士
東京書籍
- 第0章 日本列島人のはじまり
- 第1章 縄文時代を「掘る」 山田康弘
- どうやって考古学者になり、なぜ墓をテーマに研究することになったか
- Column 縄文人の血液関係を古人骨のゲノム解析で調べる 太田博樹
- 第2章 お酒に弱い遺伝子とウンコの化石のゲノムから何がわかるか
- 第3章 アズキはどこで生まれたのか 内藤健
- 植物遺伝学で読み解く縄文時代の食文化
- Column 漆の過去・現在・未来 菅裕
- 第4章 日本列島人はどこから来たのか 神澤秀明
- おわりに
- 参考文献・読書案内
- 索引
ヤポネシアゲノム(第0章)
2018年度から2022年度までの5年間、文部科学省の新学術領域研究「ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明」を遂行しました。私はこの領域の領域代表を務めたのです。
ヤポネシア人の起源と成立については、江戸時代以降、人類学においておれまで主として3種類の仮説が提唱されていました。置換説、混血説、変形説です。常識的に考えれば、混血説がもっとも妥当となっています。
本書では、縄文時代の話、古代人ゲノム、アルコール脱水素酵素の遺伝的研究、植物のアズキのゲノムなどをしょうかいします。
お酒に弱い「変異」
ヒトの地域集団の間で、特定の地域で固有な遺伝的変異は、変異全体の1~2割でしかありません。その変異のなかでわかっている代表的なものがALDH2遺伝子のrs671というSNPです。この遺伝子はアルデヒド脱水素酵素をコードします。コードするとは暗号化するという意味です。
このSNPにはG(グアニン)→A(アデニン)の変異があって、Aアレルは、東アジアにしか存在しません。この変異が有名なのは、それをもつ人は「お酒に弱い」という体質を示します。
アルコール飲料に含まれるエタノールは、肝臓で作られたアルコール脱水素酵素でアセトアルデヒドに分解して、ALDH2酵素でアセトアルデヒドを分解します。ところがALDH2遺伝子のrs671において、Aタイプは壊れたALDH2分子を作ります。
これらの遺伝子をもつ人々は、中国人、台湾の漢民族、客家、日本人、それぞれの集団内で30~40%ほどです。ヨーロッパやアメリカ大陸などには極少数しかいません。
アズキゲノム解析
自分のゲノムは、隣の人のゲノムよりも父親や母親のものの方が似ているはずです。
ゲノム解析で現在の栽培アズキに最も近縁なのは、日本のヤブツルアズキなのか、中国や韓国のヤブツルアズキなのかを判定することで、祖先がわかります。
塩基配列をしらべ、主成分の軸を設けて図にプロットした結果、日本や韓国の栽培アズキとヤブツルアズキは、お互いに相当近い関係にあることがわかりました。素直に受け取れば、中国のアズキは栽培化されたものの先祖ではなく、日本のアズキは日本や韓国から生まれたと解釈するのが現実的です。
しかし、ヒトが栽培しやすいものを選抜していったとなると、交雑したというシナリオが立てられるため、この問題に決着をつけることができません。
古代DNA研究
古人骨のDNAは大部分が分解され、ごくわずかしか残っていません。そして、恐ろしいことに外部からヒトDNAが混入して汚染し、古人骨のDNA情報が得られなくなることです。
汚染のことをコンタミネーション、コンタミと言います。実験者自身のDNAやPCR産物、購入した実験試験薬によってコンタミが混入してしまうことがあるのです。
貴重な骨を粉にして実験に用いたら、その骨粉は2度と戻ってきません。クリーンウェアを装着し、丁寧にドリルでけずって、クリーンブースでDNA抽出を行います。微量のDNAを抽出する技術を習得することも必要です。
実際に手を動かしながら、環境を整えていくのはなかなか大変です。
DNA抽出方法からPCRの条件検討など、知識と経験を着実に積み上げていかなればなりません。