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ウクライナ戦争は制御不能か?
監修
戦場と暗黙の了解
米国がウクライナに重火器を供給し、情報を提供することをロシアは受け入れていますが、欧米の部隊投入は認めていません。
欧米は、大量破壊兵器の使用にエスカレートしない限り、ウクライナ国境内でロシアが通常戦力による戦闘を遂行することを、やむを得ず受け入れてきました。
これは、バイデン大統領とプーチン大統領が、これ以上の戦争拡大を望んでいないことを意味するものです。
しかし、キーウとモスクワの協議は決裂しています。停戦に向けた努力は続けられているが、戦争が始まった2月24日以降、ほとんど進展していないのです。
6月には、ロシア本土から離れたロシアの飛び地、カリーニングラードへの物資輸送をリトアニアが阻止したことに対して、「報復措置をとる」と威嚇しています。もちろん、NOTO加盟国であるリトアニアを攻撃すれば直接的な軍事衝突の引き金になるのです。
エスカレーション
ロシア軍司令官の多くは、戦場での交代、不十分な装備、マンパワーの不足に苦しみ、決意に満ちたウクライナ軍を前にして苛立っています。
2014年の戦争で起きた偶発事故で、オランダ人を中心に298人が犠牲になったのです。親ロ派・分離主義集団が、ブーク対空ミサイルでマレーシア航空MH17便を撃墜した事件でした。
ウクライナの紛争は局地的で規模も限定的だったため、言葉による争いを越えてエスカレートことはありませんでした。
今の状況で同じことが起きれば、結果が違ってくるかもしれません。
また、クリミアなどのロシア軍事目標を攻撃するときに、ウクライナ軍が民間目標を誤爆してしまう恐れもあります。そうした誤爆があれば、ロシアはNATO加盟国のすぐ近くや、加盟国内の武器供給ラインに報復攻撃をするかもしれません。
簡単な解決策はない
戦争が拡大するのを抑え込む魔法の杖はありません。
プーチンの核の脅しに対して、戦略的に無視することもできます。
話し合い、交渉では上手く行かないので、プーチンを抑制できるのは武力行使だけですが、それには必ずリスクが付きまといます。
アメリカとロシアが第三次世界大戦の瀬戸際にあるわけではありません。すべての行動が命取りになるわけでもありません。
ロシア軍は成約に苦しみ、ウクライナでは恐ろしい新事態にみまわれるでしょう。世界はそれとともに生きることを学んでいかなければなりません。
まとめ
●米ロの両大統領は、これ以上の戦争拡大は望んでいないのではないか?
●停戦に向けた話し合いは、進展していない。
●今、偶発事故などが起きれば、ロシアが報復攻撃をするかもしれない。
●武力行使でしかプーチンを抑制できない。
●武力行使はリスクが大きい。
●プーチンの脅しを、戦略的に無視することもできる。
マジックマネー時代の終焉
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FRBの挫折
数年前まで、漫画かは名中央銀行のバンカーたちをスーパーマンとして描いていました。しかし、インフレが復活した今、スーパーマンとしてのイメージは失墜しています。
2009年から2017年までの36四半期において、コアインフレ率はFRBのインフレ目標の2%を超えたことはなく、平均でわずか1.5%でした。2008年に迎えたグローバル危機に対して、中央銀行が数兆ドル刷り増しした政策は成功したといえます。
2020年にGDPが縮小した時にFRBは積極的な政策をとり、2009年の2倍の資金を市場に投入しました。2021年第1四半期にかけて、この巨大な経済対策は非常にうまく機能していたのです。
しかし、2021年春以降、うまくいかなくなっていきます。
一過性のインフレではなかった
インフレ加熱のリスクに直面しながらも、FRBは利上げも量的緩和の縮小も試みませんでした。FRB批判をする人の中には間違いだったと言う人もいます。ですが、パンデミックのさなかで経済を予測するのは、「科学というより芸術」です。
FRBは傍観を続け、2021年第2四半期には年率3.4%、第3四半期3.6%に達していたが、「一過性の現象」だと主張し、対策の先送りを正当化しました。
FRBはすでにハーバード大学の8倍近いエコノミストを擁しています。もし人々がゆっくりとしか仕事に戻らず、供給が短期間で復活しないことがわかっていれば、中央銀行はもっと早く引き締めをとっていたでしょう。
一過性については、2021年11月30日、パウエルは議会で、「インフレ一過性論はそろそろ引退させるべきだろう」と証言しています。
FRBの間違い
- 一過性のインフレと見誤ったこと
- 3カ月以上様子見をしてしまったこと
- 金融バブルを無視したこと
FRBはなぜこれほどまでに消極的になったのでしょうか。それは、フォワードガイダンスが誤って定着してしまっているからです。「話す・待つ・行動する」の3段構造は、インフレ率が低く、短期金利をゼロに引き下げ、これ以上引き下げる余地がない場合に有効になります。
フォワードガイダンスを重視する姿勢を考え直すべきでしょう。悪性のインフレをさらに深刻にして、経済に大きな代償を強いる可能性があるからです。
また、2021年に膨張した金融バブルを無視したことも間違いでしょう。COVID19ショック以前のドットコムバブル崩壊と住宅ブーム破綻でも、トラウマ的な市場の修正を経て起きています。現在の経済では資産価値は極めて重要であり、無視できません。
まとめ
●今までのドルの刷り増し政策は功を制していた。
●2021年春から、巨額を投じた政策がうまくいかなくなった。
●FRBが一過性のインフレだと信じてしまった。
●利上げや量的緩和をせず、インフレした3カ月間も見過ごしてしまった。
●FRBのフォワードガイダンスの姿勢は考え直すべきだ。
●現在の資産価値は無視するべきではない。
グローバルサウスと米中競争
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ソフトパワー
「ソフトパワー」ほど、ポスト冷戦時における米外交論争の方向性を規定したものはないでしょう。ソフトパワーという柔軟性の概念は、アメリカが派遣を握る支えになったというイメージは、多くの国や地域の思想家や指導者にとっても魅力的でした。
ソフトパワーの概念をもっとも熱狂的に受け入れた国の1つが中国です。中国の研究者たちは、このトピックについて数多くの論文を執筆し、共産党も莫大な投資をしてきました。
米中で違う概念
ワシントンはソフトパワー推進策の中核に、民主主義の価値と理念を据えています。
中国はもっと実利的側面に焦点を絞り、文化とビジネスの魅力を統合しようとしています。
そして、グローバルサウスでは、アメリカと中国のソフトパワーは競合するものではなく、相互補完的とみなされることが多いです。
中国のオファー
近年中国に対する好感度が低下していることからも明らかなように、中国のソフトパワー戦略は、アメリカをはじめとする米国の産業民主国家にはほとんど影響がありません。
しかし、アフリカやラテンアメリカなどのグローバルサウスでは、ソフトパワーへの中国プラグマティックなアプローチが、欧米のそれ以上に大きな成功を収めています。中国の経済的、政治的影響力には肯定的な意見が多いのです。
エチオピアなどの国では、政府関係者が中国との関わりを、アメリカからさらなる貢献を引き出す交渉材料に利用することもあります。
どちらか1つではない
アメリカは、訓練や教育の機会を通じた人材への投資を制限することで自らを縛っています。米外交官は奨学金制度などの人材獲得手段で中国と競争することに関心を示しつつも、優秀な人材が自ずとやってくる方法を見つけると確信しています。この確信が、広報外交を見直さない状態を作りだしているのです。
人的交流を妨げてきた、中国のコロナ対策としてのロックダウンが、グローバルサウスにおける中国のイメージにどんな影響を与えるかはまだわかりません。しかし、中国はこれらの国との関係を維持するために、ますます多額の贈り物を用意しなければならないでしょう。
米中はソフトパワーでも競争しているという認識がありますが、実際にはソフトパワー共存に近いです。相手を出し抜くより、自国が抱える問題を克服することにかかっています。
まとめ
●ソフトパワーの概念を積極的に受け入れた中国。
●アメリカは民主主義の理念を中心としている。
●中国は実利的な構想を考えている。
●グローバルサウスでは、アメリカからの交渉材料に中国との関係を引き合いにだすこともある。
●アメリカを人材への投資を制限している問題がある。
●中国は周辺国との関係維持のために多額のお金が必要になる。
●米中のソフトパワー競争というよりは、自国の課題を克服することが先。