目次
低成長と中国経済の課題
監修
ポイント
●中国で不動産危機に陥っている。
●政府が大手銀行と投資ファンドを支えることによって、高度成長を維持してきた。
●低所得者層の負担が大きく、民間への直接的な支援は期待できない。
●中国の輸出相手国は、大量の工業生産品を補えるわけではない。
いつか来た道
中国の不動産部門が揺れています。
民間最大手の不動産デベロッパーが外貨建て債務不履行に陥りました。ほどんどのデベロッパーも人民建て債務のリファイナンスに苦労しています。
デベロッパーは工事遅延などに備えた引当金を積み上げておらず、購入者が住宅ローンの返済を拒否する動きもでているのです。
中国金融システムを危険にさらしている不動産危機が、最終的には経済全体を危険に陥れる恐れがあります。不動産の新規開発や建設は、中国の経済活殿約25%以上を牽引しているとみられ、不動産市場の一時的な不振が、長期的な景気低迷に繋がっていると考えられても不思議ではありません。
政府が支援する
中国の金融システムは、過去20年間の平均貯蓄率が対国内総生産(GDP)比で約45%という膨大な規模の貯蓄のおかげで、外国から多くの狩り得れを鈴に内外の融資の両方を提供できていました。
問題は、貯蓄が多く消費が弱いということです。そして、中国経済は内需ではなく輸出や定期的な投資によって支えられてきました。
中国は不動産とインフラに巨額の投資をすることで、貿易黒字が縮小するなかでも高成長を維持しました。その結果、債務レベルが150%~250%を超えて拡大しているのです。
それでも、債務が安定しているのは、政府がほとんどの大手銀行と多くの投資ファンドを支えていることに起因しています。不動産部門の低迷がもたらした目先のリスクは管理できるでしょう。
しかし、北京は、あらゆる損失をカバーするつもりはないようです。過剰な支援によって、教訓を学ぶこともなく、リスクの高い融資を繰り返す恐れがあります。
一方で、大手デベロッパーが破綻し、インフラ投資が滞ることは避けなければなりません。経済全体が動かなくなり、住宅ローンを組んだ人々の怒りが社会の安定を脅かすことになるでしょう。
新たな成長モデルを
国内の消費を増やすには、家計を直接支援する経済対策に移行しなければなりません。
中国の社会保障が限定的で、所得格差が激しく、税収の大部分が消費税と給与税に依存する税制のため、低所得者の負担が大きすぎるのです。
北京は既存の政策モデルからの離脱には及び腰で、最高指導部は直接支援は非生産的だと考えられています。
最近の政府の発表によると、地方政府によるインフラ投資拡大し、輸入を減らす予定のようです。国内技術の発展に力を入れて、成長を刺激したいと考えています。
しかし、国内需要の拡大をせずに経済を動かし続けるのは綱渡りをするようなものです。時間が経つにつれて足下が危うくなるでしょう。
グローバルな意味合い
中国は輸出を頼りに景気回復を成し遂げてきました。あらゆる国で物価の上昇が高まる中、世界中の国が中国の輸出拡大を許容してきたのです。
中国が大量に生産した製品を、世界経済が補えるわけではありません。実際に、中国の貿易相手国も債務問題に苦しんでいることが多いのです。
北京は、国内債務が拡大し、巨大投資の時代が終わってしまったことを受け入れて、歴史的な高度成長が過去のものになった現実をみつめなければならないでしょう。
米対中戦略の落とし穴
監修
ポイント
●アメリカが望む世界は、中国国益を損なえさせたかではない。
●2008年ごろから、中国共産党は国内外に対して強制力を強めている。
●米中は台湾を挟んで緊張関係にある。
●2024年に米台で大統領選挙、総統選挙を控えていて、一線を越えてしまう可能性もある。
ゼロサム思考からの離脱
中国との競争がアメリカの外交政策を疲弊させ始めています。
習近平国家主席の下で、北京は国内ではより権威主義的になり、対外的により高圧的な路線をとるようになりました。
根拠のある対中警戒論が反射的な恐怖へ姿を変え、アメリカの政策と社会に影響を与える恐れがあります。
また、ウクライナ戦争に大きな関心と資源を振り向けてきたが、中ロを接近させて、地政学的競争を激化させています。
しかし、アメリカの政策を判断する基準は、中国国益をどれだけ損なえたかや、優位を得られたかではなく、アメリカが望む世界へ向けた進歩が得られたかどうかです。
中国の侵略を抑止しつつ、アメリカの同盟関係を強化していくべきではないでしょうか。
中国の世界に対するアプローチ転換
2008年、グローバル金融危機をきっかけに、北京は「経済ガバナンスにおいてアメリカが先生で中国は生徒」という考えを捨て去りました。この年の北京夏季五輪では、中国が世界舞台へ躍り出たことを示す機会だったのです。
中国共産党は徐々に、「外国勢力が中国の台頭を阻もうとしている」という思いにとらわれるようになりました。
対立へ
2008年以降、共産党はリベラル思想を教えることや外国の非政府組織(NGO)の活動を取り締まるようになったのです。
日本を抜いて世界第2位の経済大国となった中国は、その経済力を振りかざして、中国共産党の利益に服従することを他国に強制しています。
かつては限定的だった核弾頭の増強を含めて、北京は軍事力の強化に力をいれているのです。そして習近平の時代になってから、アプローチが強くなりました。
オバマ大統領は、アジアへの「ピボット戦略」を発表しました。トランプ大統領は、貿易戦争を開始しました。バイデン大統領は、対中アプローチを調整しつつ牽制する必要があるという立場を維持しています。
衝突リスク
2022年6月、中国の魏鳳和国防相は、ロイド・オースティン米国防長官と会談した翌日に、台湾統一は必ず実現する「最後の最後まで戦う」と明言しました。
アメリカは、台湾海峡周辺での軍事パトロールを増やし、台北との公的交流を緩和するガイドラインを示しました。台湾を支持すると線を表明し、国連を含む国際機関への台湾の価値ある参加を唱えたのです。
台湾が攻撃された場合に介入するかどうかは、ワシントンは曖昧さを残しているが、中国の軍事プランナーは、米軍は介入してくると予想しています。
空や海における重大な衝突リスクは台湾海峡の外でも高まっているのです。東シナ海とシナ海では、中国軍と米軍が近くで活動しており、パイロットやオペレーターは危険な戦術をとり、不用意な衝突につながるリスクが高まっています。
米台は2024年にそれぞれ大統領戦況、総統選挙を控えているため、党利党略の生十区から台湾の政治的地位や事実上の独立をめぐって一線を越えてしまう恐れもあるだろう。
アフリカのウクライナ・ジレンマ
監修
ポイント
●アフリカ17か国がロシア非難決議を棄権した。
●アフリカには54か国それぞれの事情と歴史がある。
●植民地化した過去の傷跡は今も続いている。
●ロシアと接している国は、生き残りをかけてロシアの支援に依存している。
なぜウクライナを支持しない
国連総会緊急特別会合で、アフリカ17か国がロシア非難決議を棄権すると、アフリカにいる欧米の外交官たちは、大陸の指導者たちを厳しく批判しました。
なかでも南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は、ショッキングなほど非外交的なツイートのターゲットにされています。
しかし、アフリカは広大かつ複雑で多様な大陸です。54の国と地域にはそれぞれ独自の事情と歴史があります。ロシアと欧米との関係もそれぞれに違っているのです。
遠く離れたヨーロッパの戦争をめぐって、アフリカ諸国が欧米の味方をするのに懐疑的なのは、欧米とアフリカ諸国間のパワーの不均衡にも根差していて、歴史的な不正義があり、現状でも問題が続いていることからに他なりません。
植民地時代などの暴力的な歴史をうやむやにしがちですが、アフリカ諸国は今もその余波に対処しています。
歴史的経緯ゆえに、欧米がアフリカで反ロシア連合を形成するのは難しいのです。
しかし、新型コロナのパンデミック対策で、欧米のワクチン入手をアフリカ諸国懇願せざるを得ない状況に追い込まれ、友好関係が条件付きであることを思い知らされることとなりました。
ソビエトのポジティブな遺産
アフリカで経つ植民地化の闘争が展開されたのは、大昔の話ではありません。2018年にも、1950年代のケニア独立戦争のときに収容所に入れられ、拷問を受けた生存者グループが、イギリス政府を相手取って訴訟を起こし、最終的に賠償金を勝ち取っています。冷戦期の不正義を正す取り組みはまだ始まったばかりです。
ソビエト時代にアフリカの脱植民地化運動を支援したのはロシアだけではありません。共産陣営を構成するウクライナを含む多くの共和国や国も運動を支援しています。ロシアは過去の名声とアフリカと欧米諸国の複雑な関係を巧みに利用しているのです。
アフリカの立場
アンゴラ、コンゴ民主共和国、モザンビークの紛争を含む、米ソ代理戦争の遺産は、今もアフリカ大陸の多くの地域に傷跡を残しています。前回東西は大きく荒廃し、数多くの人が犠牲になっているのです。
マリ、エチオピア、ウガンダを含む、ロシアに軸足を移している国の多くは、自国の政治的生き残りをロシア支援に依存しています。
国連のロシア非難決議を棄権したアフリカの多くの国とって、ロシアは重要な兵器供給国であり、ワグネル・グループなどの傭兵組織を通じても軍事支援を提供してくれます。いまやロシアはアフリカへの最大の武器供給国で、ストックホルム国際平和研究所によると、2017年~2021年にアフリカ大陸で購入された武器の44%はロシアの兵器です。
ロシアはすでに、アフリカ諸国への武器供給の拡大を約束しています。それが、相手国の忠誠を買おうとする思惑からであるのは明らかです。