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目次
書籍情報
日本の宇宙開発最前線
発刊 2024年7月1日
ISBN 978-4-594-09574-1
総ページ数 253p
松浦晋也
ノンフィクション・ライター。
宇宙作家クラブ館員。
航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。
扶桑社
- はじめに 衛星も有人宇宙船も、民間が開発・運用するものに
- 第1章 技術開発と実用化の主体は官から民へ
- 徐々に進んだ宇宙の民間開放
- ロケットもまた、民間が開発するものに
- 巨額の投資の必要性と、安全保障面での懸念
- 新自由主義、冷戦終結、そしてムーアの法則
- 第2章 衛星技術の発展がもたらす革新
- 小さな衛星と小さなロケットによるひそやかなパラダイムシフト
- サレー大学のUoSAT
- 宇宙開発の流れを変えた「1Kgの超小型衛星」
- ロケットもまた小型化の流れが始まる
- スぺースシャトルの失敗と、欧州・アリアンの勝利
- スペースシャトルというヒョウタンから小型ロケットという駒が生まれた
- 空中発射ロケット「ペガサス」
- ダークホースとなった旧ソ連のロケット
- ドットコムのバブルで資産を形成した者が宇宙産業に参入
- 第3章 イーロン・マスク、宇宙事業を変革する異端児
- 電子決済から宇宙へ
- ファルコン1ロケットで衛星の商業打ち上げに成功
- ファルコン1に仕込まれたイーロン・マスクの狂気
- ”物理学帝国主義”的発想法が世界を変えていく
- シャトル引退後もISSを運用するために
- ファルコン1からファルコン9への飛躍
- 異例の「改良に次ぐ改良」
- ファルコン9第1段の回収・再利用へと進む
- 仕込んだ布石が、ことごとく当たりの目を出す
- 素速く失敗を繰り返して、高速の技術開発を可能にする
- 次々と進むファルコン9の改良と、ファルコン・ヘビーのデビュー
- 第1段再利用の新の利点を生かすために
- 死屍累々だった通信衛星コンステレーション
- グレッグ・ワイラーのワンウェブ
- 60機のスターリンクのビジネスモデル
- 世界中どこからでもスマホでスターリンク通信が可能に
- 火星植民の野望を担うスターシップ
- 立て続けの失敗と成功
- 3回目の打ち上げで、試験機が地球周回軌道に到達
- 火星植民に向けて、スペースXは止まらない
- 第4章 日本宇宙開発体制改革10年の蹉跌
- 日本政府の宇宙政策の体制
- 総理府・宇宙開発委員会
- 日米通商交渉”スーパー301”による挫折
- 技術導入から自主技術へ_相次ぐ事故と失敗
- 日本最大の宇宙計画、情報収集衛星
- 中央官庁再編とJAXA発足
- 宇宙基本法施行と内閣府中心の体制へ
- 最悪のタイミングで、日本は体制改革と宇宙利用に傾いた
- 第5章 日本の宇宙開発はこれからどこに向かうべきか
- 新体制の目玉、準天頂衛星システム
- 準天頂衛星システムは、民間ビジネスの後片付けとして始まった
- 測位衛星ではなく「衛星測位を日本地域に限って補完する衛星」
- 権限争いの道具としての準天頂衛星
- 宇宙政策委員会は傍聴不可、審議は非公開
- 7年遅れたH3ロケット
- 追いつき、また引き離された衛生技術
- 新体制で進んだ法整備
- 新たな補助金政策「宇宙戦略基金」
- スペースXを駆り立てているのは”狂気”だ
- 素速く動くことと、狂気を抱えること
- 有人飛行と宇宙科学に投資を
- あとがき
書籍紹介
松浦氏は長年にわたり、宇宙開発の現場を見つめてきたジャーナリストであり、彼の視点は常に「リアル」にあります。この本では、打ち上げや開発に携わる技術者や科学者たちの声を丁寧に拾い上げ、読者に届けています。宇宙開発は一部の専門家だけでなく、私たちの日常生活にも深く関わるテーマであることが、松浦氏の筆致を通じて明らかになります。
成功と挫折を乗り越えて
本書では、日本の宇宙開発が直面してきた数々の挑戦と、それを乗り越えてきた過程が描かれています。例えば、H-IIAロケットの成功と苦難、そしてそれを支えた技術者たちの情熱や努力が詳細に語られています。松浦氏はこれを単なる技術的な成功談として描くのではなく、そこに関わる人々の思いをも浮き彫りにしています。
世界に挑む日本の姿
また、松浦氏は日本の宇宙開発が国際的な競争の中でどのように位置づけられているのか、そして今後どのような展望があるのかについても論じています。アメリカや中国など、他国との競争や協力の中で、日本がどのように独自の存在感を発揮していくのか。その視点は、読者に新たな視座を提供してくれるでしょう。
未来を担う次世代へのメッセージ
『日本の宇宙開発最前線』は、単なる現状報告にとどまらず、未来を担う若者たちへのメッセージでもあります。宇宙開発という大きなテーマの中で、日本が果たすべき役割や、今後の可能性についての考察は、次世代に向けた希望の光として輝いています。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
ドットコムのバブルで資産を形成した者が宇宙産業に参入
ネットの一般開放により、それまで研究開発や学術用途に限られていたインターネットが商業的に利用できるようになりました。
一気に拡大したネットワークは社会を変革しました。情報流通はもちろん、物流や商品開発も変わり、私たちの生活も今なお変化し続けています。
その結果、従来では考えられないほどの富を手にする者が現れました。そして、なぜか宇宙に強い関心を持つ者も少なからずいたのです。
そのようなネット成功者の一人がイーロン・マスクです。彼が2002年に立ち上げたスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ社は、創業から20年足らずで世界の宇宙開発を一変させました。
60機のスターリンク衛星
ワイラーとの協議でイーロン・マスクが明かしたことは、世界中でネット接続を可能にする計画であり、それを実現するためにスターリンクを推進しているという内容でした。
2015年1月に公表された計画では、初期段階で4,425機の衛星から構成される通信衛星コンステレーションが予定されていました。この数字は、構想に終わったテレデシックの880機や、ワンウェブの648機という計画と比べても桁違いの規模です。
2019年5月からは、実際の衛星打ち上げが始まりました。スターリンク衛星はファルコン9ロケットに一度に60機搭載され、打ち上げが行われています。2024年3月には、打ち上げられた衛星の数が6,000機を超えました。
現在もシステムの拡充が続いており、スペースXは成功を収めつつあると考えられます。
最悪のタイミング
宇宙基本法は、2024年現在、日本の宇宙開発体制の基盤となっています。宇宙政策の主導権を文部科学省から内閣府へ移行するための作業には4年を要しました。
新たな体制では、「宇宙の実利用」と「政策のツールとしての宇宙」を強く打ち出しています。
しかし、日本の宇宙開発体制の推移とスペースX社の新技術開発を比較すると、日本の状況が全体的にネガティブに映ってしまいます。スペースXが次々と新しい宇宙機を開発し、革新をもたらしている一方で、日本の宇宙体制改革は権力構想に時間がかかり、進展が遅れたのです。