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目次
はじめに
大学と大学院で醗酵(発酵)工学を専攻した私は、おおむね50年間、微生物と付き合ってきました。広島にとどまり、微生物学、発酵学、微生物薬品学が私の研究部分野になりました。
本書は、これらの学問のなかでも「発酵現象」「発酵食」をキーワードに執筆したものです。
書籍情報
発酵
伝統と革新の微生物利用技術
第1刷 2023年7月10日
コーディネーター 深町龍太郎
発行者 南條光章
発行 共立出版(株)
印刷 大日本法令印刷
製本 加藤製本
ISBN 978-4-320-00939-4
総ページ数 131p
杉山政則
広島大学大学院医系科学研究科(薬学分野)未病・予防医学共同研究講座教授、広島大学名誉教授、工学博士
専門は、醗酵工学、微生物学、微生物薬品学、バイオテクノロジー
共立出版
- 序章
- 発酵現象とは何か
- 微生物の脅威に挑む発酵食
- 未病を脱するための発酵食とセルフメディケーション
- 発酵食を支える微生物と保険機能
- 発酵と腐敗の違い
- 本書への想い
- 偶然と幸運が生んだ発酵食
- コーラの起源は発酵飲料
- カルピス
- 世界文明と伝統発酵食
- 世界文明と発酵食誕生の経緯
- 各地域の発酵食
- 世界のさまざまな発酵食品
- 日本の伝統発酵食
- 食の系譜
- 日本のさまざまな発酵食品
- 発酵を支える微生物とその発見経緯
- 発酵学を主導したパストゥール
- 微生物の加熱処理
- 海外と日本の発酵産業
- 海外の旨味調味料
- 旨味成分の発見
- グルタミン酸発酵
- 核酸発酵
- テアニン発酵
- アセトン・ブタノール発酵
- クエン酸発酵
- コハク酸発酵
- 発酵技術で生まれた治療薬
- 医療で使われる薬剤発見の経緯
- 未病の改善や健康維持に役立つ発酵食
- フレイル予防に役立つ発酵食
- 認知症予防に有効な発酵食
- サルコペニアの予防と改善に役立つアミノ酸
- メタボリックシンドロームに役立つアミノ酸
- 発がんを抑制する発酵食品
- 植物乳酸菌による生薬発酵技術
- 病気の治療に使われる薬草
- 創薬の候補となる二次代謝産物
- 健康長寿へ向けた植物乳酸菌の利用
- 炎症を改善する戦略
- アレルギー症状の予防改善に有効な植物乳酸菌の産生する細胞外多糖体
- 発酵がつくる未来
- 世界の人口増に役立つ発酵技術
- これからの発酵技術開発
- 地球の温暖化がもたらす食料生産の危機
- 発酵食の未来
- 参考図書・引用文献
- あとがき
- 発酵がもたらす「食と健康」ー人生120年に向けてー(コーディネーター 深町龍太郎)
- 索引
コーラの起源は発酵飲料
ペルーやボリビアの住民は「コカの葉エキス」をお茶として日常的に飲み、疲労回復や高山病対策にも利用していました。しかし、コカの葉からはコカインが抽出できるため、今では大半の先進国はコカの葉や木を麻薬原料植物に指定し、栽培、輸入、流通を厳しき禁止しています。
コカインを含む発酵飲料がワインとして飲まれていた時代があり、それが巡ってコーラが誕生しました。
1800年代のアメリカでは、コカの葉を赤ワインに浸漬し、コーラ(Cola)の木の実(Cola nitida)はコーラ・ナッツと呼ばれていました。コーラ・ナッツを添加した「レンチワイン・アンド・コカ」が大人気だったようです。うつ状態を改善し、活力を与えるドリンクとして人気がありました。禁酒活動の高まりとともに、この飲料にもクレームがつくようになっていったのです。
コカとカフェインを含むコーラナッツ抽出液(コーラエキス)を使ったコカ飲料の開発が始まります。コーラエキスに対してアルコールの入っているワインの変われり水を加えようとしました。しかし、誤って炭酸水を入れてしまったのです。ところが、その炭酸飲料が一躍人気を得ました。国民の不安払拭のため、コカインを除去した炭酸飲料「コーラ」が1903年に誕生しました。
発酵飲料だった飲み物は、明らかに発酵飲料ではなくなってしまったのです。
日本のさまざまな発酵食品
日本の発酵食品
●甘酒・清酒
●発行茶(緑茶)
●漬物
●味噌と醤油
●みりん
●納豆
●塩辛・馴れずし・くさやの干物
塩辛
魚介類の身や内臓などを加熱することなしに塩漬けにし、素材の持つ酵素に加え、微生物によって発行させ、高濃度の食塩により保存性を高めた発酵食品です。食塩体制を示す乳酸菌が見つかっています。
なれずし
魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品です。
現在の寿司は酢飯を用いますが、馴れずしは乳酸発酵により酸味を生じさせるもので、これが本来の寿司となっています。
日本海側各地には、アジやニシンなどの魚を使ったなれずしが多いです。
ニゴロブナという名の魚と米を発酵させた滋賀を代表する鮒(ふな)寿司もあります。
くさや干物
クサヤモロという魚を原料とした干物で、主に伊豆諸島でつくられています。独特の匂いと風味をもち、普通の干物よりも腐りにくいことが特色です。酒の肴として重宝されている発酵食品になっています。
諸説あるが、江戸時代に伊豆諸島では天領として塩の年貢が課せられており、塩が貴重品であったため、近海でとれた魚を塩干しする際、同じ塩水を繰り返し使っているうちに、塩水は微生物の作用で特有の臭いを醸し出すことが発見されたようです。
クサヤモロ以外にもアオムロ、ムロアジ、トビウオなどが使われています。
発がんを抑制する発酵食品
鳥取大学医学部の岡田太教授らの研究グループが、炎症性の発がんモデルマウス用いて調査した結果、玄米および米ぬかを発行させた食品をマウスに摂取させると、炎症が抑制される結果、がんの発症も有意に抑制したと発表しました。
非発酵食では炎症を抑制しなかったことから、麹菌を用いて米ぬかを発酵させた食品が炎症性疾患の抑制作用を発揮したと推測されます。よって、抗炎症用は腸内細菌を介して発揮されるものと思われています。
世界の人口増に役立つ発酵技術
偶然に見つけた現象がヒントになって生まれた伝統発酵技術には、健康長寿社会と未来医療社会を実現するためのヒントがあります。
高齢者のフライるを予防すつためには食肉の摂取はかかせません。しかし、高齢になると嚥下力と消化器官の低下により、食肉の摂取量が少なくなるのです。そのため、酵素を用いて肉類を柔らかくする研究が行われています。乳酸菌を用いた発酵液に食肉を浸して、大腸菌群の抑制とやわらかさの実現を目指しています。
直近10年で、日本から海外に輸出される発酵食品の消費量は2倍近くに拡大しています。発酵食品は日本の成敗特許ではないけれど、国内に広がる発酵食文化には地域独特の素晴らしいものがあるのです。日本の四季ははっきりしており、しかも南北に長い日本列島は温暖で多湿であることから、地域に適した微生物が存在し、特有の発酵食が育ってきたのではないでしょうか。
国の授記、国の花、国鳥などを定める国は多いが、「麹菌」を国菌として指定するのは日本以外にはありません。世界に誇る発酵技術と言えるでしょう。
あとがき
故郷の静岡県富士市では、いつも夕方になると、経木に包んだ納豆を自転車で売り歩く納豆屋がいました。当時、赤松からつくった天然の包装材である経木が包装紙の代わりに使われていたのです。
赤松の受益は抗菌作用があるので衛生的にも良く、通気性と諸室性に優れ、強すぎないし優しい香りがします。この天然木の発行環境下で、納豆菌が独特な香りを醸し出す納豆が好きでした。
科学者になるのを楽しみにしていた父が詠んだ短歌「ほうれん草 蒔きて憩へる 七十歳 できる仕事の あるが嬉しき」を紹介して筆を置くことにします。
感想
サイト管理人
すごくシンプルな表紙に、共立スマートセレクションという、興味を持たなければ手に取らないだろう書籍ではあります。
読んでビックリ、めちゃめちゃ面白かったです。濃い知識と雑学が知れる良書だと思います。
発酵が日本から世界に発信できるビジネスになるかもしれないと聞いて、何かアイデアが浮かぶ人もいると思います。
旅行先に行ったら、お土産にするのはお菓子だったりしますが、発酵食品にも目を向けて伝統食を堪能してみようと思います。日にちも持つし、美味いし、健康に良いし、地域食に触れられます。良いおみやになるでしょう。
ビジネスのヒントも眠っているかもしれません。健康についてのヒントもありました。発酵の勉強に一読いかがでしょうか。
下にリンクを貼っておきますので、本書の購入を検討してみて下さい。
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