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目次
書籍情報
顔に憑りつかれた脳
発刊 2023年12月20日
ISBN 978-4-06-533872-8
総ページ数 247p
中野珠実
順天堂大学医学部助教、大阪大学大学院医学研究科・生命機能研究科准教授を経て、大阪大学大学院医学研究科教授。身体・脳・社会の相互作用から生まれる心の仕組みに関する研究を行っている。
KODANSHA
講談社現代新書
- はじめに
- 第1章 顔を見る脳の仕組み
- 見られるように進化した顔
- 人間は驚くほど「顔」を見ている
- 「目」の進化
- 「眉」に与えられた機能
- 鏡の中の他人
- 顔の見分けがつかない症状
- 革命的な発見_fMRIとは何か
- 物体のパターンを分類する
- ひっくり返った顔
- 顔認識は正立がベース
- 顔の配置の情報が大切
- 顔を認識する専門領域
- 後頭部で「顔」のパーツを見る
- 2人のノーベル賞研究者の功績
- 目と口の距離に反応する神経細胞
- 脳の底に横たわる神経ネットワーク
- 神経細胞の活動から「見ている顔」を推定
- なんでも顔に見えてしまう
- 「人面魚」とパレイドリア
- レビー小体型認知症
- 見知らぬ顔と知っている顔
- おばあさん細胞仮説
- 「あの人の顔」担当の細胞はあるのか
- 写真にも文字にも反応した細胞
- 知っている顔の数は何人?
- 顔から心を読む
- 「心のシグナル」をつかむ脳
- 単純な図形にも「社会」を見出す
- 赤ちゃんの見ている世界
- 顔を見るのは生まれつき?
- 「倒立顔」より「正立顔」
- 赤ちゃんが見ている人物は
- 顔を見つける生得的な神経構造
- 視覚情報の1割が通るルート
- 「ヘビニューロン」と「顔ニューロン」
- 赤ちゃんは顔を見分ける達人
- 成長とともに失う能力
- LとRの聞き分けと同じ_知覚狭窄
- 鏡の中の自分への気づき
- わが子を観察したダーウィン
- 鏡像自己認知の3段階
- 自分のまねをする〝友達〟
- 鏡像自己認知ができる動物
- 巨大な軸索を持つ神経細胞
- 特殊な形をしたフォン・エコノモ・ニューロン
- 超高速遠距離通信は何をもたらすのか
- 恥じらいの感情
- 鏡の前で恥ずかしがるのは人間だけ
- 鏡像自己認知と恥じらいの発達
- 時間を超えて存在する自己
- アルバムを眺めるのは高度な能力
- 鍵を握るのは「エピソード記憶」?
- アルツハイマー型認知症と自己意識
- 見られるように進化した顔
- 第3章 自分の顔に夢中になる脳
- 自分の顔はVIP扱い
- 〝自分の顔を探せ〟
- 潜在意識とサブリミナル刺激
- 鍵を握るドーパミン
- 顔写真の加工にのめり込む現代人
- 自分の顔には「強めの美加工」
- 美加工写真とドーパミン報酬系
- 依存を生み出す脳の仕組み
- ジキルとハイド
- レバーを押し続けるラット
- 報酬系の仕組み
- ドーパミンの役割
- 化粧や美加工に夢中になるのはなぜ?
- 不気味の谷
- さまざまな価値を表象する脳
- 脳は何処で価値を表現する?
- 鉄の棒が頭を貫通_フィニアス・ゲージのケース
- 自分の顔を知るメリットは何か
- 原始的な自己意識
- ミニマルセルフとは何か
- 「幽体離脱」体験での発見
- 0.7秒の遅延でも失われる
- 社会的な自己とサリエンス・ネットワーク
- 「サリエンス・ネットワーク」という領域
- 恥ずかしい写真
- 心臓のドキドキを感知する
- アイデンティティの座
- 過去から未来までつながる「わたし」
- デフォルト・モード・ネットワーク
- 瓜二つの偽物の家族
- 自分の顔はVIP扱い
- 第4章 自己と他者をつなぐ顔
- メラビアンの法則
- 表情の普遍性
- 真の笑顔と偽の笑顔
- 表情は人類共通か
- 表情で気分が変わる
- 自分に似ている顔を信頼する
- 脳が信頼する他人の顔
- 「類似性の法則」と「相補性の法則」
- 魅力的に感じる顔の特徴
- 輝きで会話の間を共有
- 何のために輝きするのか
- アンドロイド相手でも瞬きで同期
- 自閉スペクトラム症と顔
- 自閉スペクトラム症と脳の顔認識
- 考えられる「2つの可能性」
- 第5章 未来社会における顔
- SNSの弊害
- プロテウス効果
- 偽物の顔
- ディープフェイク動画
- 存在しない顔
- 敵対的生成ネットワークとは何か
- 続々登場する画像生成のモデル
- 素顔と仮面
- おわりに
- 参考文献
はじめに
江戸時代に入るまでは、金持ち以外では鏡を愛用することがなかったため、多くの人が自分の顔を今ほどよく知りませんでした。自己意識の形成に自分の顔を他人の顔と比較する必要がなかったのです。
現代の私たちは、過剰なまでに自分の顔のイメージがつきまといます。刑事事件が起こったときに報道される被害者の顔にスノーで盛った写真が使われるほどです。自分の顔に憑りつかれ、もはやまともな写真を撮ることがなくなったのかもしれません。
バーチャルリアリティーや人工知能などの技術が発展していけば、自分の顔の在り方は大きく変わっていきます。脳科学、心理学、文化、歴史、社会学、工学といった幅広い観点から理解していく必要があるでしょう。
見知らぬ顔
よく知っている顔の場合、多少写りが変化していても、簡単に同一人物だと見分けることができます。アメリカ人であれば、元大統領のビル・クリントンの写真を何枚も並べても、同一人物だとわかるのです。
しかし、イギリスの人にオランダ人の顔写真40枚を同一人物にグループ分けしてもらうように求めると、8名の人物に分類しました。実際はたった2名の人物しか含まれていません。
見慣れていない人の顔認識機能は、かなり悪いようです。
人間の顔認識能力は、見知っている人に限り優れています。日本の国際航空には、AIによる顔認証システムが導入されていますが、人間はとてもその代わりをつとめられそうにありません。
超高速遠距離通信
鏡の中に映っている姿が自分だと気づくのに、チンパンジーは2日間を要します。
他の霊長類の脳に比べて、人間の脳にあるフォン・エコノモ・ニューロンの数は突出して多いのです。
誕生時にはほとんど脳内に存在せず、生後8か月ごろに急速に増加した後、刈り込みが起こり、3~4歳頃には聖人と同じぐらいの数にまで減少します。
2歳頃から鏡像自己認知ができるようになることを考えると、仮設の1つとして、フォン・エコノモ・ニューロンの発達に伴って事故関連の情報統合の能力が向上し、そのことが自己意識の発達と関係している可能性がありそうです。
不気味の谷
「不気味の谷」という言葉は、ロボットの見た目が人間に似れば煮るほど、わずかな違いが不気味な印象を与えてしまうという意味です。
ゾンビや動く日本人形を見ているときと同じ不安を感じています。
極端に美加工された不気味な顔の写真を見ているときの脳活動を調べてみると、不安や恐怖の中枢である偏桃体が強く反応します。これは、他人の顔の場合でも、自分の顔の場合でも同じ反応がでるのです。
けれど、不安や恐怖の反応に対して、ドーパミン報酬系は自分の顔には反応しません。側坐核の活動にブレーキをかけているのだと考えられます。これにより美加工の作用で顔の魅力が増すと、その行為をもっとするようにドーパミン報酬系がアクセル踏みます。そのせいで美加工に夢中になってどんどん目を大きく、顔を小さくしてしまいます。
行き過ぎると、偏桃体がアラームを出して、ブレーキがかかるので、いい塩梅で留めておくことができるでしょう。
しかし、自分に自信がないと答える若い女性だと、強い美加工を好む傾向が見られます。コミュニケーションに難がある自閉スペクトラム症の人も、美加工を好む傾向があります。
表情で気分が変わる
唇でペンをくわえて口をすぼめる表情と、歯でペンをくわえて横に広げる表情では、口を横に広げている表情の方が漫画の内容を楽しんでいるような印象を受けます。
この表情フィードバックの仮設をサポートする研究が行われています。ボトックス注射によって、眉間のシワを無くすことで、怒りや悲しみの表情が出せなくなり、抑うつ傾向が減少しました。笑いを引き起こす筋肉にボトックス注射をすると、うつ病のスコアが上がるという結果もでています。
表情によって感情に働く作用が少なるなることで、幸福度に大きく影響を与えることがわかります。
しかし、落ち込んでいるときに無理に笑顔になることは、かなり幸福度を低下させますので、注意が必要です。