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目次
書籍情報
イングランド銀行公式
経済がよくわかる10章
発刊 2023年8月26日
ISBN 978-4-7991-1152-9
総ページ数 433p
イングランド銀行
村井章子
すばる舎
- 日本の読者の皆さまへ
- イングランド銀行総裁による序文
- 序章 経済学はどこにでも
- エコノミストの日常
- ランチの時間がやってきた
- 選択肢は、よりどりみどり
- それはどうやって手元に届く?
- テムズ川の水位が上がり続ける理由
- ドックランズ地区の再開発と産業構造の変化
- コーヒーを一杯。支払いはタップ一つで
- 立ち並ぶ多くの 銀行の役割
- 経済学とは?
- 何を扱う学問なのか
- 経済学の誕生と発展
- より広く政治や社会に関わる科学
- なぜ経済学が大事なのか
- 日々の生活に役立つ経済学
- それでも経済学が敬遠される理由
- 私たちイングランド銀行の役割
- この本は何の役に立つのか?
- 本書の構成
- 読者の皆様へ
- エコノミストの日常
- 第1章 食べたい朝ご飯を選べるのはなぜ?
- 世界中からやってくる食材
- 土曜の朝食、何にする?
- 一人ひとりの選択が「市場」を作る
- 日々膨大な数の選択をする私たち
- 「お菓子の計り売り」の店頭で起きていること
- 誰もが最大限満足のいく選択をしたい
- 何かを選択すれば「コスト」が発生する
- わかりやすい「機会費用」の考え方
- 経済学の基本「需要の法則」
- 価格が上がれば需要が減る、価格が下がれば需要が増える
- な下げて生じる二つの効果
- 価格の変化に敏感な財、鈍感な財
- 通常の「需要の法則」が当てはまらないケース
- 価値観の変化
- 所得の変化
- 代替財・補完財の価格変化
- 高価だから需要のある「ヴェブレン財」
- 値上がりすると需要が増える「ギッフェン財」
- 企業が市場において果たす役割
- 商品を作って市場に供給する
- 利益を最大化するにはどれだけ作ればいいか
- 企業の社会的責任をめぐる議論
- 受容の法則の裏返し「供給の法則」
- 価格が上がれば供給が増える、価格が下がれば供給が減る
- やはり「供給の法則」も万能ではない
- 受容と供給が出会う場、それが「市場」
- 「何を・いくつ。いくらで」やりとりするか
- 配車アプリ、ウーバーの彫金
- 受容と供給が「均衡」するよう価格が決まる
- まとめ 市場の「見えざる手」で世界が動く
- 世界中からやってくる食材
- 第2章 経済学は気候変動問題を解決できる?
- 市場はしょっちゅう失敗する
- 「ポテトの取り放題」で何が起こる?
- 失敗の代表例「コモンズの悲劇」
- 「完全競争市場」とはどういうことか
- モデルを使って経済を理解する
- 完全競争市場が成り立つ条件
- はたして、市場は「効率的」になりうるのか?
- 「不完全競争市場」とはどういうことか
- 一社が世界シェアの大半を占めるケースも
- 売り手は自由に価格を決められる
- 書いては高い値段で買わされがち
- 政府が取り締まる「独占」の事例
- 「不完全競争市場」が容認される場合
- 狂騒がないのはそんなに悪いことか
- 「規模の経済」がもたらす恩恵
- あえて独占を認める「特許精度」
- 自然独占の例「ネットワーク効果」
- 市場の失敗の原因、「外部性」について
- 誰が費用を負担し、誰が便益を受けるのか
- 正の外部性:大学の学費は誰が払うべき?
- 負の外部性:石炭火力を制御するには?
- 誰もが目先の利益を重視しがち
- 気候変動問題を解決するために
- 税や補助金の導入
- コストを取引する市場を作る
- 共同体への権限移譲
- 「情報の非対称性」に対処する
- 品質がどんどん低下する「レモン市場」
- 不完全な情報が市場の機能を奪う
- まとめ 経済がはたすべき役割
- 市場はしょっちゅう失敗する
- 第3章 どうすれば賃金は上がる?
- 労働市場とは何か
- ゲームのプレイで高収入
- 賃金は何で決まる?
- すぐには賃金が上がらない理由
- 労働市場はどのように動く?
- 労働市場の「供給」について
- 労働市場の「需要」について
- 労働市場がうまく機能しない理由
- 失業が生じるのはなぜか
- 本人が望まない室上の三形態
- スプリングフィールドの労働争議
- 労働者VS雇用主
- 賃金と雇用の関係
- 労働者の交渉力を決定づけるものは?
- あなたの賃金をあげるために
- 自分への投資で「人的資本」を増やす
- 長期の失業は要注意
- 教育はどこまで有効か
- まとめ 自らの選択と行動で賃金を上げる
- 労働市場とは何か
- 第4章 ひいひいおばあちゃんの代より私たちのほうがゆたかなのはなぜ?
- 経済は成長する
- 1970年代にタイムスリップ
- 昔になればなるほど貧しい私たち
- 国の経済規模を示すGDP
- 経済成長の度合いがわかる
- 大恐慌時代のアメリカで誕生
- GDPの三つの算出法
- GDPでは計測できないもの
- 「国民一人当たり」のGDPに注目
- 経済成長で多くの人の生活がゆたかに
- 経済成長に欠かせない四つの要素
- できるだけ大きなケーキを焼くには
- 土地
- 労働
- 資本
- 技術
- 経済成長の三つの落とし穴
- けっしていいことずくめではない
- 所得格差
- 幸福感の喪失
- 環境破壊
- まとめ 持続可能な成長のために
- 経済は成長する
- 第5章 私の福の大半がアジア製なのはなぜ?
- 教の貿易
- イケアの本だなはどこで作られている?
- 専門家で効率は劇的に上がる
- やることを一つに絞り込む
- アダム・スミスが訪れたピン工場
- 生産性の向上に欠かせない
- 国レベルの専門家と分業
- 得意なものを貿易で取引する
- 絶対優位と比較優位
- 国際貿易で最大限の利益を得る
- 無形のサービス、情報、データなども対象
- まとめ 世界の市場で利益を上げる
- 教の貿易
- 第6章 どうしフレッドはもう10ペンスでは買えないの?
- インフレがもたらすもの
- どんどん値下がりする人気のお菓子
- インフレ率を調べる方法
- 平均的な過程の消費支出を調査
- 対象品目は国や時代によってさまざま
- 自分にとってのインフレ率を調べるには
- よる正しく計測するために
- お金の価値がどんどん下がる
- せっかく宝くじに当たっても
- インフレが現金の購買力を奪う
- 住宅ローンや老後の生活にも大きな影響
- 「ハイパーインフレ」とは何か
- 一年で三桁台の値上がり
- 高インフレで余計なコストがかかる
- 貯金の目減り、債務の目減り
- デフレも望ましいとは言えない
- 物価がどんどん下がる現象
- 進行すると「デフレスパイラル」に
- めざすべきは二%程度のインフレ
- インフレが起きる二大原因
- 「コストプッシュ」と「デマンドプル」
- 「コストプッシュ・インフレ」四つの要因
- 通貨供給量でインフレをコントロールする
- 「デマンドプル・インフレ」の要因
- インフレを安定的に維持するために
- マネタリズムに基づく経済政策
- マネタリズムの限界
- 新たな展開「インフレ期待」
- まとめ ゆるやかなインフレで経済を守る
- インフレがもたらすもの
- 第7章 そもそもお金って何?
- お金の歴史
- 始まりは紀元前メソポタミア
- 貴金属から貨幣へ
- 時代や場所によってさまざま
- 貨幣の三つの機能
- よりよい貨幣であるために
- なぜお金には価値があるのか
- 貴金属などの裏付け「兌換紙幣」
- 金本位制の普及
- 金本位制の終わり
- とくに裏付けのない「不換紙幣」
- お金が生み出されるしくみ
- 近代経済における三種類のお金
- こうして銀行が通貨を創る
- ただし無制限に増やせるわけではない
- 通貨は誰にでも創れるのか
- ビットコインの登場
- ビットコインは通貨なのか
- 「民間通貨」創造は容易ではない
- 銀行とお金の未来
- 誰もが中央銀行に口座を持つ時代がやってくる?
- デジタル通貨ならではのメリット
- 中央銀行が直接価値を保証してくれる
- まとめ 経済を支える信用のシステム
- お金の歴史
- 第8章 タンス預金が好ましくない理由は?
- 銀行なんて信用できない⁉
- マットレスに隠した100万ドル
- 現金を手元に置きたくなる理由
- お金を銀行に預けるメリット
- 銀行の役割とは
- 銀行の歴史
- 銀行が果たす三つの役割
- お金を回して経済を活性化する
- 預かったお金を眠らせない
- 万一のときのお金を必ず手元に準備
- 銀行はお金をいくら準備しておくべきか
- 100%準備できれば安心だが
- 取り付け騒ぎが起きるしくみ
- ある程度までの預金は守られる
- 中央銀行の役割とは
- 取り付けから市中銀行を守る
- 最後の貸し手としての判断
- 「モラルハザード」を防ぐために
- 自己資本は以前の三倍に
- 経済全体の状況に応じて柔軟に調整
- さまざまな機関が市中銀行を監督
- まとめ 銀行は経済の重要なプレーヤー
- 銀行なんて信用できない⁉
- 第9章 どうして危機が起きると誰もわからなかったのですか?
- 女王陛下からの質問
- 経済危機はなぜ起きたのか
- 二つの金融危機とその影響
- 正直なところ、予測はむずかしい
- 何が経済危機の引き金となるのか?
- 一生に八回は経験することになる
- ニュートンも大損した「南海泡沫事件」
- クマのぬいぐるみ投機「ビーニーベイビーズ・バブル」
- 予測不能の衝撃「ブラックスワン」
- 経済危機が引き起こす問題
- 経済に広がる悪影響
- 社会全体への悪影響
- プラスの影響もいくらかある
- 危機の発生を予測するために
- 経済モデルを使って制度をあげる
- 予兆を示す膨大なデータ
- 「合理的経済人」という仮定の限界
- それでもモデルはないよりはまし
- まとめ 女王陛下への手紙
- 女王陛下からの質問
- 第10章 中央銀行がどんどんお金を刷ることはできないの?
- 金融危機後の経済政策
- 世界中で大量にお金が創られている
- バブル崩壊後の日本
- 金利を介して経済の安定を図る
- 金融政策効果の五つの波及経路
- 効果が出るまでには時間がかかる
- 日銀のゼロ金利政策
- 金利引き下げの限界
- 実質マイナス金利になることも
- 次なる一手「量的緩和(QE)」
- 追随したFRBの金融政策
- なぜ量的緩和は機能するのか?
- 金融政策は中央銀行の仕事
- ニュージーランド中央銀行の衝撃
- 決めるのは政治家でなくエコノミスト
- もちろん無制限にお金を刷ったりはしない
- 財政政策は政府の仕事
- 日本の「ハコモノ」行政とは?
- 公共事業で政府支出を増やす
- 財政出動の効果はどれくらいか
- 何にどう使うかで効果は大きく変わる
- 税制を経済政策に活用する
- 自動的に経済を安定させるしくみ
- 財政出動に必要な資金はどうするのか
- 国債の発行
- 国家はどの程度まで借金ができる?
- 過度の緊縮政策は逆効果
- 慎重な判断で国の経済を守る
- 金融危機後の経済政策
- 終章 あなたも経済学者
- 生活の中の経済学
- 市民パネルに参加したシャーリーン
- 誰もが日々の生活で使っている経済学
- 経済学の旅を振り返って
- 人生に役立つ経済学
- 世界を理解し、世界を変える
- 経済学でよりゆたかに、健康に、幸福になる
- 新しい経済学
- 生活の中の経済学
- 付録 経済学に関する五一の質問
- 謝辞
- 原注
- 索引
日本の読者の皆様へ
日本は長年にわたり、経済学思想のそまざまな面で世界の先頭を走ってきました。
今回、この本が日本語に翻訳されることをたいへんうれしく思います。
経済学を学ぶ新しい世代の日本の人々がこの本を読み、経済学の旅を続けてくださることを願っています。
何かを選択すれば「コスト」が発生する
実際にあることの効用を考えるときには、それがいくらかかるか、どれほどの時間や労力を要するか考えます。
何かを買う場合には、コスト、つまり価格が効用に直結します。そのものから得られる効用が大きいほど、たくさん払ってもいいと考えるからです。
コストはこれだけではありません。経済学者コストについて一風変わった考え方をします。あるものを選んだとき、他のものを選んでいたら得られたはずの価値が失われたと考えるです。「機会費用」と言われています。
美容院で髪を切ってもらうと、自分で切るより高くつきます。けれど、カットにかかる時間はどうでしょう。自分で切ったら美容師の2倍は時間がかかるに違いありません。
スタイルを整えて好印象を与える髪型にしてくれるのに、自分で整えたばかりに社会性を失う危険を冒すのは、バカげているでしょう。
長期の失業は要注意
学位や社会スキルといった人的資本も価値を下げることがあります。プロスポーツ選手が負傷をすれば休まざるを得ないことを想像すれば、わかりやすいでしょう。
すぐに息が上がってしまったり、動いた途端に筋肉が痛くなったり、テクニックが錆びついている可能性もあります。失業が長期におよぶと、人的資本の価値は下がる可能性が高いです。
不況のときに職を失って長い時間が経つと、やる気をなくして職業訓練を受けなかったり、せっかく身につけたスキルを忘れてしまったりします。
経済的損失や社会的地位低下などを招き、それらは容易には取り戻せません。
とある調査によると、不況時に大学を卒業した学生の年収は、不況から10年後でも、好況時に卒業した学生より少ない傾向が見られると言います。
お金を銀行に預けるメリット
なぜマットレスの下にお金を隠しておくのは良くないのは防犯の観点だけではありません。
銀行にお金を預けると、他のすべての人に利益をもたらします。銀行が行う預金者と借り手のマッチングは、最も生産的に使われるところへお金を回し、それによって経済を活性化させるとともに利益を上げることへの任務です。
お金をただ眠らせておかず、本来の所有者が返却を求める前に確実に返してもらうことを条件にして、他の人に貸し出して賃料を取っています。預かった金を貸し出すことによって、単に金庫にしまっておくより多くの利益を生み出すことが可能になるのです。
このプロセスを介して、たくさんの建設的なプロジェクトに投資資金を回せるようになることも重要です。
投資が生む利益はまた他の投資に回され、さらに利益を生むことになり、経済はいっそう活性化されます。そうして経済の中を回るお金の量は増えて行くのです。
なぜ量的緩和が機能するのか?
1990年代~2000年代の標準的な経済モデル、いわゆる新ケインズ派モデルは、量的緩和がうまくいくとすれば、その唯一の理由は「経済と金利に関する人々の予想に働きかけるから」とされていました。
景気は上り坂なのか下り坂なのか、金利は上がるのか下がるのか、そういった予想で決断がされるからです。
市中銀行が返済期間30年の住宅ローンの金利を決めるときには、中央銀行の毛める政策金利を1ヶ月後、半年後、1年後…という具合に30年にわたって予想し、この予想に基づいて金利水準を定めることになります。
新ケインズ派の分析では、量的緩和でつねに決め手となるのは将来の金利に関して発せられるシグナルでした。
コロンビア大学の経済学者マイケル・ウッドフォードは、長期的な低金利を維持する約束だけで十分だとしていたのです。けれど、後に量的緩和のことを、中央銀行が多くの債務を引き受けることを知らせる役割を果たすと考えて、いくらか量的緩和を認めるようになっていきました。
その債務の価値は金利と密接に結びついています。約束を守らずに利上げをすれば中央銀行自身が莫大な損失を被ることになるからです。中央銀行としては、大損を被るのはじつに具合が悪いのです。
しかし、現金と国債が同じものとした場合に限っての話です。
ある資産と別の資産との交換には波及効果があります。誰かが自分の国債を買い取り、必要以上に現金が増えて国債が減ったとします。その増えたお金を何かに使います。すると、その何かの価格が上昇するというわけです。かくして中央銀行は物価の押し上げに成功するという考え方をする経済学者もいます。
今日では、シグナルを発する効果だけに量的緩和をしているわけではありません。経済の中で保有される国債と現金の量を調整する働きもあります。ポートフォリオ・リバランス効果と呼ばれるものです。
2008年以降、金融危機後の景気後退に見舞われたグローバル経済の立ち直りを促すために、中央銀行は量的緩和策を講じるようになりました。
経済学の旅を振り返って
新規開店したレストランの外に長い列ができていたら、本当に料理がおいしいから並んでいるのか、それとも長い行列そのものが「おいしい」というメッセージを発しているだけなのか、考えてみて欲しい。後者の可能性があると気づいたら、何時間も並ぶ価値があるかどうかの判断がつくはずです。すぐに座れる隣のレストランのがたぶん安いでしょう。それに、おいしいかもしれません。
イングランド銀行の金融政策委員会が金利を上げる下げる決定を下せば、次の海外旅行のときに為替レートが変化したことに気づくでしょう。金利変動型住宅ローンの返済額も変わります。金利の状況によって、いまつい買うお金を増やすか貯金に回すかの判断も違ってくるはずです。
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