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目次
書籍情報
教育の力
発刊 2014年3月19日
ISBN 978-4-06-288254-5
総ページ数 256p
苫野一徳
若手の教育哲学者として注目されている。専攻は教育学・哲学。
KODANSHA
シリーズ:講談社現代新書
- 序章 そのそも教育は何のため?
- 一万年の戦争の歴史
- <自由>への欲望
- <自由の相互承認>の原理
- <自由>とは何か
- <自由>と<自由の相互承認>を実質化する
- 相互承認の〝感度〟
- 「社会のためか、子どものためか」を乗り越える
- <一般福祉>の原理
- 平等と競争・多様化
- 「原理」の重要性
- 「目的・状況相関的方法選択」の原理
- 第一章 「よい」学びをつくる
- 「学力」概念の混乱
- 知識基盤社会
- 専門家に求められるもの
- 学力=「学ぶ力」
- 「ゆとり教育」について
- 危惧されるさらなる格差拡大の問題
- 深刻なのは「学力格差」
- 格差の是正とともに
- 頑健な学校制度
- 第二章 学びの個別化
- 「学び方」の多様性
- オンライン学習の衝撃
- ドルトン・プラン
- 木下竹次の実践
- サドベリー・バレー・スクールの教育
- 現行制度の可能性
- 反転授業
- 「学びの個別化」実現のために
- 新教育の挫折と現代における可能性
- 格差の再生産?
- 新教育の再構築
- 第三章 学びの共同化(共同的な学び)
- 「学び合い」を通した学力保障
- 学びの共同体
- 教師の協同
- 『学び合い』
- 海外の共同学習
- 「個別化」と「協同化」の融合
- 第四章 学びのプロジェクト化(プロジェクト型の学び)
- デューイ・スクール
- プロジェクト・メソッド
- 最終局面にさしかかった学びの転換
- イエナプラン教育
- ワールドオリエンテーション
- 「学力」は保障されるのか?
- 第五章 学校空間の再構築
- 評価の問題をどうするか?
- 実りある学びのための評価
- 受験の問題をどうするか?
- 高等教育の問題
- 第六章 教師の資質
- 「学級」の誕生
- 「学級」における教師の役割
- 過重な同質性要請
- 群生秩序とその背景
- 逃げ場のない教室空間
- 人間関係の流動性を
- 流動性の仕掛け
- 「学び合い」を通した相互承認
- 学校建築の工夫
- 第七章 教育からつくる社会
- 教師の専門性
- 省察的実践家
- 省察的実践家としての教師
- 信頼と承認
- ケアと忍耐
- 権威と畏敬
- 教師への信頼
- 第八章 教育からつくる社会
- 教育にできること
- ポスト新自由主義
- 「平等と競争」再論
- 開かれた関係性と道徳教育
- 共通了解をつくる
- 超ディベートの方法
- 終章 具体的ヴィジョンとプラン
- 短期的ヴィション・プラン(~2020年ごろ)
- 中・長期的なヴィジョン・プラン(2030~40年ごろ)
- あとがき
- 参考文献・引用文献
はじめに
長い伝統をもつ教育学において、何がどうあれば「よい」という答えは出されてこなかったと言っていいでしょう。
何でも教育のせいにしたがります。自分のなかの正解を主張する独りよがりの教育論が披露されがちです。
この本は、大学や生涯学習社会の在り方に視野をいれつつ、義務教育段階の教育に焦点をあてました。
本書が何らかの形で、実践や思考の羅針盤になるならば、これ以上に嬉しいことはありません。
オンライン学習の衝撃
質の高い学習コンテンツをは、近年爆発的に増え続けています。アメリカのNPO「カーンアカデミー」には、無償で質の高いビデオ教材が、何千も投稿されています。日本にも、NHKのテレビ番組や、オンラインで視聴できるコンテンツはたくさんあります。
オンライン学習の発展は、「学びの個人化」を、高いレベルで達成できる可能性を持っています。理解が早くて授業が退屈な生徒にも、スロースタートの生徒にも、それぞれにあった学習に適応できます。
未来の公教育において、すべての子供たちを一様に学校に集める必要がなくなるかもしれません。
しかし、教育の機会均等や一定上の学びの達成の保証を、別の仕方で保障する仕組みが必要になるでしょう。
実りある学びのための評価
学ぶ力の測定が難しい以上、目的を達成するための評価もまた、やはり難しいのではないかと考えられるかもしれません。
学ぶ力の計測は不可能ですが、手がかりとするための評価は一定可能です。
近年では「パフォーマンス評価」と呼ばれるものが注目されています。これは、「学力」と、子どもたちの「パフォーマンス」(ふるまい)を観察し、それをさまざまな観点を通してできるだけ総合的に解釈しながら評価します。これから、有用性があるように開発・改善されていくようです。
信頼と承認
子供たちのだれも良好な親子関係に恵まれて育つわけではありません。色々十分でないまま大人になっていく子どもたちが大勢います。
それゆえに、どんな親の元に生まれたにせよ、子どもたちにとって教育が原始的な「信頼・認証」の砦であってほしいと考えているのです。
「どうせ…」「お前に…」といったことを教師はついいってしまうことがあります。それで信頼を失えば、反抗心から学ぶこともしないでしょう。何より、自分への信頼を失って、自信をなくします。
人に答えたいと、自らを成長させていくためには、まず「信頼・認証」の空間が必要なのです。