※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
目次
書籍情報
中東の経済学
発刊 2024年6月12日
ISBN 978-4-86255-728-5
総ページ数 191p
細井長
國學院大學経済学部教授。経営学博士。国際経済、中東経済、エネルギー経済を専門とする。
カンゼン
- はじめに 中東の経済事情を知るために
- プロローグ 中東の基礎知識
- 中東という地域
- 主要な中東の国ぐに①
- 主要な中東の国ぐに②
- 主要な中東の国ぐに③
- イスラム教の基本
- アラブ人は空気を読める?
- ホフステードの五次元モデル
- <中東経済こぼれ話①>
- 中東ビジネスの要諦
- Part.1 石油産業の歴史としくみ
- 石油産業の構造:上流と下流
- 世界的大企業サウジ・アラムコ
- 「後出しジャンケン」で石油を買う日本
- 大きくなりすぎたスタンダート石油
- イランからはじまる中東の石油産業
- 我々以外は仲間に入れぬ:赤線協定
- アラビア半島での石油発見
- サウジアラビアで世界最大の油田発見
- メジャーが支配する中東の石油
- メジャーに暗雲立ちこめる60年代
- 資源ナショナリズムの動きとOPEC結成
- メジャー支配からOPECへ
- 盟主サウジアラビアの苦悩
- 価格低迷の90年代、市場過熱のゼロ年代
- 産油国「アメリカ」への対応
- 脱炭素時代の石油産業
- <中東経済こぼれ話②>
- 日本に石油メジャーが生まれなかったワケ
- Part.2 世界と日本のエネルギー事情
- 石油と天然ガスはまだまだ主役
- 化石燃料依存度が高い日本
- 日本の弱点はエネルギーの海外依存
- 石油はあとどれくらい採れるのか?
- 石油の生産量・消費量
- 世界最大の産油国アメリカ
- 世界経済を左右する石油価格の推移
- 石油の貿易:中東の得意先はアジア
- 天然ガスはあとどれくらい採れるのか?
- 天然ガスの生産量・消費量
- 世界最大の産ガス国もアメリカ
- 日本の石油中東依存度は9割超
- アジア主要国の石油中東依存度
- 石油市場における中東の重要性
- <中東経済こぼれ話③>
- 中東の統計の信頼性
- Part.3 オイルマネーの循環
- 中東経済でもっとも重要なのは石油価格
- 中東産油国の財政の柱は石油
- サウジアラビアの財政はラクじゃない
- レンティア国家とは?
- 「課税なくして代表なし」
- レンティア国家における石油収入の循環
- みんな公務員
- 国が相手じゃ勝負にならない
- 民間企業も地主さん
- 石油価格が低いと王様もツラいよ
- 国民にも負担してもらいます
- 新興勢力の地代の生み出し方
- 資源があると経済成長しない?
- <中東経済こぼれ話④>
- オランダ病:工業化できない産油国
- Part.4 中東の貿易構造
- 中東の貿易:お隣さんとは少ないよ!
- サウジアラビアとUAEが中東貿易の二強
- NOイスラエル:アラブ・ボイコット
- イスラエルとの経済関係
- カタール断交問題と経済関係
- カタール経済は断交でダメージを受けた?
- 棚からぼた餅のオマーン
- トルコがリードする地域経済統合
- 域内貿易が少ないGCC
- もともとのドバイは地域の物流拠点
- ドバイの再輸出先はどこか?
- 海外直接投資の状況
- 世界競争力ランキングからみた中東
- <中東経済こぼれ話⑤>
- 世界銀行報告書の不正とサウジアラビア
- Part.5 労働構造と人的資本
- 中東の労働市場の特徴
- 外国人だらけの湾岸諸国
- 男だらけの湾岸諸国
- 稼いだお金を故郷に送る
- 外国人労働力に頼りつづけられる?
- 公務員での雇用も限界?
- 課題山積の労働力自国民化
- 「働かざる者食うべからず」になるか?
- 湾岸諸国の学力は高くない
- なぜ学力が低いのか?
- <中東経済こぼれ話⑥>
- 経済成長は外国頼み
- Part.6 中東経済の未来
- 中東経済の新たな針路
- サウジアラビアの「ビジョン2030」
- 投資を通じた国づくり
- スポーツを通じた産業育成
- 趣味がビジネスに:競馬
- 世界から脚光を浴びる観光開発
- 利子という言葉は使わない:イスラム金融
- イスラム圏市場へのパスポート:ハラル認証
- 次世代エネルギー供給地をめざす中東
- <中東経済こぼれ話⑦>
- 中東にお金もちは多いのか?
書籍紹介
多面的なアプローチ
細井氏は、中東の経済を単なる数字や統計だけでなく、歴史的背景や社会構造、政治的な要素も考慮しながら分析しています。例えば、石油産業がこの地域の経済に与える影響について、ただの資源収入としてではなく、その資源を巡る国際関係や国内の政治的な力学とも関連付けて論じています。
歴史的背景の理解
中東地域の経済を理解する上で、歴史的背景は欠かせません。細井氏は、オスマン帝国の時代から現代に至るまでの経済史を丁寧に解説しています。このような歴史的視点を持つことで、現在の中東経済の特異性や課題がより明確に浮かび上がります。
現代の課題と未来への展望
本書は、現代の中東が直面する経済的課題にも焦点を当てています。例えば、若年層の高い失業率、石油依存経済からの脱却、多様化を目指す政策などが具体的に取り上げられています。さらに、これらの課題に対する解決策や、未来への展望についても詳細に述べられており、中東地域の経済発展に向けた希望や挑戦が描かれています。
読みやすさと専門性の両立
経済学の専門書と聞くと、難解な内容を想像するかもしれませんが、細井氏の筆致は非常に読みやすく、経済学に詳しくない読者でも理解しやすい構成となっています。同時に、経済学の専門知識を持つ読者にとっても、深い洞察と新しい視点を提供してくれる内容が詰まっています。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
日本の石油の買い方
1960年代末までは、石油はメジャーが公示する価格で取引されていたため、中東側には価格を決定する権限がありませんでした。
1970年代になると、石油を大量に使用することで高度経済成長を遂げ、石油や石油会社の国有化が進むとともに、産油国が価格を決定できるようになりました。
1980年代以降、石油の価格は「市場」で変動するようになり、石油は経済活動に欠かせない資源として流通するようになります。
日本の場合、取引の8割をダイレクト・ディール取引が占めています。これは、産油国がメジャーを通さずに直接消費国の石油会社に販売する取引形態で、多くの場合、1年の長期契約が結ばれます。通常、中東から日本への輸送日数は約20日です。例えば、サウジアラビアを1日に出港したタンカーは、日本に約20日後に到着します。価格は翌月に決定されるため、積荷の石油はまだ価格が決まっていない状態で届くことになっています。
サウジアラビアの財政
世界有数の産油国であるサウジアラビアは、その財政を石油収入に大きく依存しています。1980年代から1990年代にかけて石油価格が低迷した時期には、財政赤字に苦しんでいました。実は、サウジアラビアは必ずしも豊かな国ではありません。
2015年以降、石油価格は予想よりも高い水準で推移していますが、歳出が多いため、毎年のように財政赤字が続いています。
このように、石油収入に依存する国家財政を持つ中東の産油国は、石油価格を高く保ちたいと考えています。
学力が低い
湾岸諸国では、貧困が原因で就学が不可能という問題は少ないものの、教育の内容が課題となっています。
カリキュラムは宗教や伝統に偏重するのではなく、現代社会のニーズに応えるものにする必要があります。ITの活用、外国語としての英語教育、技術発展のためのSTEM教育など、様々な改善努力が行われていますが、学習意欲の向上には繋がっていません。
海外から教師を派遣しても、将来の収入が保証されている富裕層の子どもたちは勉強に対する意欲が低いです。宗教的な理由で女子校と男子校に分かれており、女子校のほうが勉学への意欲は高いようです。しかし、女性が社会進出するには多くの制約があり、結婚や出産を経てその壁を乗り越えようとするものの、結局多くの女性が専業主婦に落ち着くのが現状です。
長期的には、宗教的な制約を緩和した教育で人材を育成することが求められます。