地震災害軽減への歩み/著者:濱田政則

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書籍情報

タイトル

地震災害軽減への歩み

発刊 2024年1月10日

ISBN 978-4-7655-1894-9

総ページ数 170p

著者

濱田政則

早稲田大学理工学部教授

地域安全学会会長、日本地震工学会会長、日本学術会議会員、土木学会会長、国境なき技師団理事長、アジア防災センターセンター長の活動経歴をもつ。

出版

技報堂出版

もくじ

  • 1 阪神・淡路大震災
    • 1-1 震災が発生した日
    • 1-2 震災が残した教訓
    • 1-3 新しい耐震設計法
  • 2 東日本大震災
    • 2-1 地震・津波予知の失敗
    • 2-2 福島第一原子力発電所の事故
    • 2-3 原子力発電との係り
    • 2-4 耐津波学のすすめ
  • 3 大地は動く
    • 3-1 側方流動研究のはじまり
    • 3-2 地表面変位の測量
    • 3-3 学会の反応
    • 3-4 1964 年新潟地震による側方流動
    • 3-5 日米共同研究
  • 4 地震によって沈んだ島
    • 4-1 別府湾瓜生島
    • 4-2 ルソン島ナルバカン村の沈没
  • 5 自然災害の軽減に向けて
    • 5-1 1923 年関東地震と耐震設計の始まり
    • 5-2 自然災害の世界的増加
    • 5-3 学術会議の提言
    • 5-4 内陸活断層による地震リスク―2016 年熊本地震―
    • 5-5 地表地震断層への対応
    • 5-6 亜炭廃坑の充填
    • 5-7 住宅を液状化から守る
    • 5-8 側方流動対策工法―飛び杭工法の開発と実践―
  • 6 臨海部産業施設の耐震対策
    • 6-1 臨海部埋立地の地震リスク
    • 6-2 石油供給構造高度化事業
    • 6-3 産業施設防災技術調査会
    • 6-4 臨海部高層建物の側方流動リスク
    • 6-5 海底トンネルの耐震設計
    • 6-6 地下タンクの耐震設計
  • 7 自然災害軽減のための国際協力
    • 7-1 防災分野の国際協力のあり方―日本学術会議の報告―
    • 7-2 国境なき技師団と防災教育支援会
    • 7-3 1990 年フィリピン地震
    • 7-4 2008 年中国四川地震
    • 7-5 スマトラ島津波警報システムの提案
    • 7-6 エジプト・アメンホテプⅢ世王墓の補強計画
    • 7-7 アジア防災センター
  • 8 自然災害軽減への学協会の役割
    • 8-1 日本学術会議
    • 8-2 土木学会
    • 8-3 土木の未来と土木技術者の役割

書籍紹介

 濱田政則氏が地震災害の軽減に向けた取り組みや技術、政策を深掘りした作品です。地震多発国である日本において、このようなテーマは非常に重要であり、多くの人々にとって直接的な関心事でもあります。

 本書は、土木の観点から地震災害に対する理解を深めるためのガイドとして機能していると言えるでしょう。初めに、地震の基礎知識から始まり、歴史的な大災害の事例研究を通じて、災害がどのように社会に影響を与えてきたかを掘り下げています。そして、最新の防災技術や建築法規、地域社会に根ざした防災計画について詳述しています。

 また、濱田氏は災害リスク管理の専門家として、実際の災害現場での経験や、その経験から学んだ教訓を基に、これからの地震災害軽減策を提案しているのではないでしょうか。具体的な事例としては、東日本大震災や阪神・淡路大震災・フィリピン地震が挙げられ、これらの事例から得られる教訓をもとに、より効果的な対策が論じられています。

 地震災害から学ぶことは多く、それを生かした未来への一歩として、この本が提供する知識と洞察は非常に価値があると言えるでしょう。

試し読み

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

自然災害の世界的増加

 1989年以降、気象災害の発生件数は増加しており、21世紀に入ってもその傾向が続いています。この原因として、地球温暖化に伴う自然環境の変化が挙げられます。

 1949年から2020年の間に、死者・行方不明者が1000人を超える風水害は世界全体で62件発生しており、そのうち54件がアジアで発生しています。

 特にアジア地域では、土レンガ造りなどの耐震性が極めて低い住居の崩壊が人命損失の最大の要因となっています。アジアでは財政的な問題から、住居の耐震化が進んでいません。

 防災だけでは対応が不十分であり、国土構造や社会基盤施設を含めた支援が求められています。防災先進国として、世界の自然災害軽減への貢献が日本に課せられた課題です。また、アジア地域の災害軽減のための国際協力を推進することが必要です。

臨海部埋立地の地震リスク

 2021年のオリンピックを契機に、東京湾岸部の開発が急速に進められました。2019年には東京都が「東京ベイエリアビジョン」という構想を発表し、2040年までのさらなる開発計画を進めていますが、このビジョンでは「防災」「安全」といった用語がほとんど使われていません。

 2011年の東日本大震災では、東京湾の埋め立て地に設置された17基の液化天然ガス(LNG)タンクが爆発し、1.5mの破片が飛散して6km離れた住宅地に落下しました。湾岸の埋立地にあるコンビナートと背後の市街地を隔てる広い道路は、コンビナートの火災から市街地を守るために設計されていますが、タンクが爆発し破片が飛び散るリスクは考慮されていませんでした。さらに、千葉県の埋立地では大規模な液状化が発生し、多くの住宅が傾斜や沈下を経験しました。

 臨海コンビナートの地震リスクは、埋立地の軟弱地盤による地震動の増幅や、海底の土砂と丘陵地の土砂から造られる埋立地盤が液状化しやすいことによるものです。

 液状化や側方流動に対する構造物の防護策は高額な費用がかかるため、十分な対策が進んでいません。

アジア防災センター

 現時点(2022年)でアジア防災センターには31の国が加盟しています。毎年、「アジア防災会議」が加盟国の一つで開催され、各国の自然災害の状況、防災対策および国際協力体制と組織の在り方などが議論されています。

 アジア防災センターの活動の目標を以下の通りです。

  1. 世界の自然災害情報の収集と発信
  2. 日本および加盟国の衛星観測データを用いた災害状況の即時は把握と発信
  3. 加盟国政府の防災担当職員のセンターへの招聘による研修
  4. 国内外での防災政府職員に対するセミナーの開催
  5. 加盟国の地域防災力向上のための現地支援、地域防災計画の策定 など

 近年の気候変動により台風・サイクロン・豪雨・洪水などの気象災害がアジア諸国で増加し続けていることから、アジア防災センターの役割の重要性が増しています。

土木の現状と展望

 我が国の土木技術者は、公共事業を含む社会基盤の整備により、国土の建設と管理に大きく貢献してきました。しかし、高度成長期に急ピッチで整備された社会基盤施設は、経年劣化が進んでおり、その維持管理と補修が今後の緊急課題です。

 土木技術者の努力がなければ、明治以降の我が国の発展や戦後の復興は成し遂げられなかったでしょう。持続可能な安全で安心な社会を築くためには、土木技術の重要性を改めて認識する必要があります。

 今後、土木技術者には防災、環境保全、基盤施設の維持管理など、その役割が拡大しています。これには、見識と決断力、そしてコミュニケーション能力が求められます。また、国際的な理解を深めるためには、他国の文化や宗教、社会習慣についても学ぶことが必要です。

 土木学会の役員、会員、職員それぞれが具体的な行動を起こし、新たな課題に積極的に取り組むことが望まれています。

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