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目次
書籍情報
深海問答
川口慎介
国立研究開発法人海洋研究開発機構主任研究員。博士(農学)。
深海で何が起こっているかを考える研究をしている。調査船への乗船日数は700日を超えた。
エクスナレッジ
- はじめに
- 海とはどんな場所か
- 海に潜る
- 人類は海とどのように付き合ってきたのか?
- 海はどれほど深いのか?
- 海底の地形は網羅できているのか?
- 深海底はふつうの場所か?
- 海は薄いのか?
- 有人潜水調査船「しんかい6500」は何者か?
- タイタニックと有人潜水船の深い関係とは?
- 潜ることが海の科学なのか?
- COLUMN DEEP THINK 「日本人記録」に価値があるか?
- 海の水
- 海水は温かいのか?
- 深海はなぜ冷たいのか?
- 広大な海をどのように調べるのか?
- 深海の水をどのようにサンプリングするのか?
- 海水の調査はどのように進められるのか?
- 海水の調査方法は進化しているのか?
- 海の水は好き勝手に動いているのか?
- 海の水は何を搔き混ぜているのか?
- 海の水は海水でしかないのか?
- なぜフラックスに注目するのか?
- 海の外にも水循環は広がっているのか?
- COLUMN DEEP THINK 断面観測で調べたほかの成分にはどんな意味があるのか?
- 海の底
- 地球の歴史は無限に長いのか?
- 海底と陸ではどちらの岩石が古いか?
- プレートテクトニクスとは何か?
- マリアナ海溝とヒマラヤ山脈は同類か?
- 海底の堆積物に主役はいるのか?
- 海底堆積物は降り積もっていくだけか?
- 海底の様子をどのようにして調べるのか?
- 海底を柱上にくりぬくと何がわかるのか?
- サンプリングできない海底下をどのようにして見るか?
- 海の化学
- 誰が海水から金を集めようとしたのか?
- 海を見る科学の目とは何か?
- 純粋な純水はあるのか?
- 鉄は鉄ではないのか?
- 月の意思と地球の海は同じなのか?
- 地球は何でできているのか?
- 海水は塩辛いだけなのか?
- 海には何がどれだけ溶けているのか?
- COLUMN DEEP THINK 比率だけで実態がわかるのか?
- 海の生物
- 生命とは何か?
- 海の生物にはどれだけ多様な種がいるか?
- 海の生物多様性を決める要因は何か?
- 海にはどれだけ生物がいるか?
- 植物プランクトンとは何者か?
- 深海の動物は何をしているのか?
- 海底の動物は何をしているのか?
- 海の生物をどのように調べるのか?
- 海底下に生息する生物はいるのか?
- 微生物は海底下のどこまでいるのか?
- COLUMN DEEP THINK ニホンウナギを絶滅危惧種にしたのは誰だ?
- 海に潜る
- 海では何が起こっているか
- 海の生態系<沈む炭素>
- いかにして生きることを確かめるか?
- 生物は生物だけで生きていけるか?
- 生物地球科学とは何か?
- 近代科学は生物地球化学だったのか?
- なぜグラムカーボンを使うのか?
- 生物ポンプとは何か?
- 粒子は海の生態系を支配しているか?
- 海の粒子をいかに調べるか?
- 炭素は地球をめぐるか?
- COLUMN DEEP THINK 科学の限界はどこにあるのか?
- 海の生態系<栄養不足の海>
- 生物は何でできているのか?
- リービッヒの最小律とは何か?
- レッドフィールド比とは何か?
- 海ではどの栄養が不足しているか?
- 窒素栄養はなぜ足りなくなるのか?
- 鉄があればいいのか?
- エアロゾルとは何か?
- エアロゾルは海と気候を支配するのか?
- COLUMN DEEP THINK その研究に地の利はあるのか?
- 海底の熱水
- 海にも温泉があるのか?
- 海底熱水活動域はどこにどれだけあるのか?
- 海底熱水活動域はどんなところなのか?
- 海底熱水の運ぶ水はどれほどの量か?
- 熱水には何が溶けているのか?
- 海に噴出した熱水はどこへいくのか?
- 熱水プルームはどんな役割を担うのか?
- 海底熱水域はどのようにして発見するのか?
- 海底熱水域の生物群集はどうして大きいのか?
- 熱水域の生物群集はどこでも同じか?
- 生物はどのようにして離れた熱水域を行き交うのか?
- スケーリフットとは何者か?
- 熱水活動域には金属資源があるのか?
- モダンアナログとは何か?
- 海底熱水域で穴を掘ると何が起こるのか?
- 熱水鉱床は養殖できるのか?
- COLUMN DEEP THINK 海洋研のツツミを知っているのか?
- 生命の起源
- 生命の起源とは何か?
- 地球生命の共通祖先とは何か?
- なぜ共通祖先を現在の海底熱水域に求めるのか?
- ミラーの実験は失敗だったのか?
- 化学進化は細胞を生み出せるのか?
- ウォーターパラドックスはとは何か?
- 深海にある液体は水だけなのか?
- 液体CO2仮説とは何か?
- 惑星海洋学とは何か?
- COLUMN DEEP THINK その研究にウソはないか?
- 海の生態系<沈む炭素>
- 海と人類と未来
- 海底の資源
- なぜ日本では海底資源に関心がもたれているのか?
- 資源とは何か?
- どんなものをよい元素資源とみなすのか?
- コバルトリッチクラストとは何か?
- レアアース泥とは何か?
- マンガン団塊とは何か?
- どのようにして海底の元素資源はできるのか?
- 海底の資源は鉱床なのか?
- 海底資源の価値をどのようにして評価するのか?
- 海底資源を開発するコストはどこにかかるのか?
- 海底資源の開発は学際的課題か?
- 資源開発で海に何が起こるのか?
- 結局のところ海底資源は開発できるのか?
- COLUMN DEEP THINK 下世話な関心ではじめ、失敗して終わる研究は役に立たないのか?
- 海での気候工学
- カーボンニュートラルは実現可能か?
- 気候工学とは何か?
- 太陽放射管理とは何か?
- 二酸化炭素の捕獲と貯留とは何か?
- 二酸化炭素の海洋隔離とは何か?
- 大気からの二酸化炭素の除去とは何か?
- 海は気候工学の舞台となるか?
- 海洋肥沃化とは何か?
- 海洋アルカリ化とは何か?
- 大型藻類養殖とは何か?
- 気候工学は是か非か?
- COLUMN DEEP THINK 海洋人材が日本再生のカギを握るのか?
- 海底の資源
- おわりに
書籍紹介
川口慎介博士による深海の探検とその神秘を解き明かす壮大な試みです。川口博士は、科学の視点から未知の深海で起こる現象を解明するために、数百日を船上で過ごし、研究を重ねてきました。彼の努力は、我々に深海の新たな理解とその美しさを提供しています。
内容の深度
この書籍は、読者を深海の最も暗く、圧倒的な場所へと誘います。川口博士は、深海の生物から熱水噴出孔、さらには地球の内部熱活動まで、多岐にわたるテーマをカバーしています。各章は、科学的な詳細と壮大な海洋冒険の物語を組み合わせており、読者が深海の世界を「見る」だけでなく「感じる」ことを可能にしています。
科学と芸術の融合
川口博士の研究は、単なるデータやグラフの集積ではありません。それぞれの発見は、深海の芸術作品としても評価できます。例えば、海底の風景や生物の多様性は、その美しさと奇妙さで読者を引きつけます。この書籍は、科学的知識と視覚的な魅力を融合させ、読者が深海の美学を理解する助けとなっています。
未知の深掘り
「深海問答」は、海洋生物学や地球科学に興味がある読者だけでなく、未知への探求心を持つ全ての人々に推薦します。川口博士の語り口は、専門的な内容を一般の読者にも理解可能な形で伝えます。教育的価値だけでなく、読者が自身の存在と宇宙の大きさを再評価する機会を提供しています。
深海への新たな視点
私たちが海底世界をどのように理解し、描写するかという視点を変える力がこの本にはあります。読者に深海の神秘を紹介し、同時に科学と芸術の境界を曖昧にし、我々の好奇心を刺激します。エクスナレッジのこの出版物は、知識と驚異の旅を提供し、読者が深海の世界について新たな問いを投げかけるきっかけとなるでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
海水の堆積物は積もっていくだけか
海水浴場のような沿岸の浅い海では、陸から河川を通じて岩石の破片などの粒子が大量に流入し、分厚く堆積しています。大きな粒子はすぐに沈殿し、小さな粒子は遠くまで運ばれます。
堆積を一方向的な現象と表現しましたが、実際には海底に堆積した粒子は海水の流動により巻き上げられ、動き続けています。また、海底平原までは海溝が存在するため、陸起源の粒子は到達しにくい環境です。
厳密には、堆積岩は単に粒子が積もったものとは言えません。海水に溶けていた物質が個体として析出することもあり、これも堆積物の一部となります。海底の岩石は、表面が黒く覆われているものがあり、この塊の主成分はマンガン酸化物です。これらの成分のほとんどは海水に溶けていた元素で、海水から岩石表面に沈殿することで堆積します。
私たちは空気中の酸素を吸い、地中で育った野菜から栄養を得ています。同様に、カニは海水に溶けた酸素を吸いながら堆積物として溜まった餌を食べ、チンアナゴやボネリムシは堆積物の中に体を埋めます。また、微生物は堆積物を分解し、天然ガスを生成しています。
深海の動物は何をしているのか?
海底で暮らす底生生物をベントスと呼びます。深海には植物がないため、ベントスはすべて動物となります。
深海のベントスは、海洋表層から降ってくる沈降粒子と、海水に流れてくる酸素によってエネルギーを得ています。
海底面付近に漂う粒子状有機物を水から濾過することで栄養を補給するベントスもいれば、海底に積もった堆積物を食べるベントスもいます。
硬い岩石に固着して、海水に流されずにいれば、濾過食が適しています。柔らかい海底を漂っていれば堆積物食が容易です。捕食者が近づいてくれば、巣穴を掘って身を隠すことができます。
海底資源は開発できるか
海底資源開発に伴う環境影響は「ある/なし」ではなく、程度の問題です。
海水の濁りであれば、懸濁物のまったくない海水は存在しません。どこからが開発行動に由来する濁りなのかは、明確ではありません。ベントスが動き回ったり、地震が起これば堆積物が巻き上がります。そのときの海水が濁っているからといって、開発の影響だとは言えないのです。
大量に摂取することで毒性を発揮する物質であっても、少量であれば問題ないことが多いです。場合によっては生息に必要な毒性であることもあります。
一方で、絶滅した生物種は、現代の科学を駆使しても、蘇ることはありません。生物種の存亡に関して「まだいる/もういない」の二元論であることも忘れてはならないでしょう。
政治的な決定により資源開発されることに対して、不快感や嫌悪感を持つ科学者も少なくありません。科学者として理解できないわけではありませんが、その態度の是非については問いません。ただし、科学者がどのように振る舞っても、時間は流れていき、人類に課せられた問題は待ってくれません。