※読んだ本の一部を紹介します。
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
はじめに
2011年の冬。従業員に店の金を持ち逃げされ、たちまち運転資金が枯渇し、生活はどん底におちてしまった。黒田は、手っ取り早く窃盗で糊口をしのぐことを思いついた。雇われ店長の薄給だった大川と、定職に就かずアルバイトを転々としていた中野と窃盗団を結成する。
彼らのような窃盗団は盗んだ車で犯行に及び、終われば乗り捨てる。スバルレガシィのような収納出来てスピードの出る車を盗むのだ。
彼らは、金品だけでなく衣類や靴、メガネなどを盗みのターゲットとし、場合によっては金庫ごと持ち帰ることもあるようだ。
2014年前後の逮捕されるまでに、彼らの一貫した手口は功を奏し、約2年間の間で数百という数をこなした。
目次
書籍情報
タイトル
刑事弁護人
著者
亀石倫子
刑事弁護士。特に窃盗症や性犯罪の弁護経験が豊富です。
新田匡央
ライター。ビジネス書やノンフィクションの執筆を手掛けます。
出版
講談社現代新書
弁護士は被害者・遺族の敵か
初回の接見で、黒田が突然話題を変えた。
中野がバイクを修理に出したんですよ。で、バイクの部品じゃないものが付いていたとかで電話がかかってきたんです。自分の車の下を覗いてみると、ビニールテープでぐるぐる巻きになっているGPS端末がつけられていました。
警察って、そんなことまでやっていいんすか?
「どうして刑事弁護人は、悪いことをしたヤツらの弁護ができるのか」
被害者や遺族の側からすれば、そのように思われるのは無理のないことだし、理解ができます。
罪を犯したと疑われている人の権利を守ることは、自分を守ることでもあります。自分が逮捕され裁判にかけられたとき、自分の行為が必要以上に捻じ曲げられるかもしれません。
捜査機関は強大な国家権力であり、捜査権限に基づいて証拠を集められます。ですが、被疑者や被告人は身体を拘束され、自己に有利な証拠を集める手段も権限も資金も極めて限られているのです。
「GPSを勝手に車につけられた」と黒だから聞けば、勝手に自分の車につけられる事態を想像します。
罪を犯した疑いのある者の権利さえも守られます。それが、法治国家ではないか、亀石はそう思うのです。
毒樹の果実
弁護士段は公判で主張する内容を固め。「予定主張記載書面」を作成する作業にも着手しました。GPS操作、泳がせ捜査の違法性をそれぞれ問い質しています。
2度にわたる予定主張記載書面の提出によって「3つの違法」と「証拠削除」という、弁護団が最後まで主張した論点は出揃いました。
4つの論点
①長期間にわたる「泳がせ捜査」の違法性
2021年に長崎で行った犯行では、長崎県警が逮捕状まで取得していました。いつでも逮捕できる状態だったにもかかわらず、犯罪を積み重ねさせました。
1件当たりの被害額は数十万円にすぎず、実刑にするために被害額を大きくなるのを待っていました。これが実状です。
②秘匿カメラによる、継続的撮影はプライバシーの侵害である
共犯者の自宅玄関ドアが正面に映るようカメラを設置したり、ハンディカメラで追尾しながらの撮影を行っていました。
黒田の内縁の妻の自宅の洗濯物を撮影したり、共犯者が着替えている様子を撮影し刺青を確認していたのです。郵便受けの中まで撮影されていました。少なくともトータル400時間以上の秘密録画を取っていたことになります。
③GPS捜査の違法性
GPS捜査は、個人の重大な権利・利益の侵害を伴うものであるから、法的には任意処分でなく強制処分であり、「令状」を取得しなければなりません。
GPSは持続的に位置情報を網羅するものであり、一回限りの処分である現場検証などの「検証」とは異なるものになります。
「通信傍受法」という法律を立法したのには、ケースバイケースで条件を設定しなければならなかった背景があるのです。
弁護団としては、通信傍受法のようにGPS捜査に関しても新たな法律を定めるのが望ましいという考えでした。
④違法収集証拠には証拠能力がない
①②③の違法の程度はきわめて重大であり、違法捜査により取得された証拠と密接な関連性があるために、その証拠には証拠能力がありません。
というのが弁護団の主張です。
この考え方で考えた場合、検察官から開示された膨大な証拠を整理し、違法捜査から収集された証拠とそこから派生して得られた証拠との関連性を明らかにするために、樹形図(ツリー状)のように並べて関連づける必要があります。
最後の理論構築
弁論5ポイント
①プライバシーとは
②プライバシーは大事
③位置情報はプライバシー
④GPS捜査は強制処分
⑤この裁判は大切
「GPS捜査は、重要な権利・権益の侵害である」
その点を主張するためには、GPS捜査で得られる位置情報が、プライバシーで保護されるべき情報なのだと言えなければなりません。
教会にいるだけで、その宗教を信仰していると思われてしまうかもしれません。
ある政党の事務所にいる事実が知れたら、その政党を支持していると思われてしまうかもしれません。
ラブホテルにいる事実を知れたら、性的なことを想像されるかもしれません。
「やましいことがなければ、監視されてもこまることはないはず」よくある反論です。ですが、プライバシーの意味をはき違えています。プライバシーはやましいことを隠すためにあるのではなく、「誰にも干渉されることなく、自分のアイデンティティを形成するプロセスを守るもの」であるからこそ、人が個人として生きていくうえで不可欠な権利だと言えるのです。
刑事弁護人の氏名
刑事弁護人は、無実の被疑者・被告人に出会ったとき、彼らを無罪にするため、与えられた法的権利を最大限に活用して刑事裁判を闘います。
脅されて本当のことを言っていない場合もあります。刑事弁護人は客観的な事実から、真実を見つけ出そうとするのです。
事件の背景にある「物語」を知ろうとし、被疑者・被告人に対する適正な量刑を求めるために欠かすことのできない仕事になります。
刑事弁護という仕事は世間から理解されにくいものです。それでも仕事を誇りに思って、被疑者・被告人を国家権力から守る人がいます。
偏見や先入観は真実を見えなくします。
知られざる膨大な事実を集め、事件の背景にある「物語」をこれからも探し続けるでしょう。
感想
サイト管理人
面白かったです。物語仕掛けになっていて、変わった勝負物の読み物として楽しめます。
外事事件の場合には、ただでさえスパイ天国なのですから、違法と分かっていても、承知で警察側も手段を選ばないと思いわれます。
この本と合わせてNHKのドラマ「外事警察」を観ることが、個人的にはお勧めです。
しかし、この事件の場合は、被害額を大きくしただけでなく、内縁の妻の生活まで監視されていたとあって、プライバシーも侵害されているでしょう。
全てを巨大権力で支配させないための戦いを、実例を模した読み物で体験してみてはいかがでしょうか。素直にイチオシです。
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