※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
目次
書籍情報
中国はいかにして経済を兵器化してきたか
発刊 2024年6月6日
ISBN 978-4-7942-2723-2
総ページ数 452p
ベサニー・アレン
ニュースサイト「アクシオス」の中国担当レポーター。
「パナマ文書」の分析で知られる国際調査報道ジャーナリスト連合の「中国文書」プロジェクトの主任記者、『フォーリン・ポリシー』の記者・編集者を経て現職。
中国語が堪能で中国に4年間在住。現在は台湾で暮らしている。
草思社
- イントロダクション コロナ・パンデミック
- それは武漢から始まった
- 二〇二〇年一月、ダボス会議
- 若き眼科医の警告と死
- 世界の物語を中国共産党が書き替える
- アメリカの機能不全、中国の「成功」
- パンデミックこそ中国が攻勢に転じる好機
- 世界最大の中国市場へのアクセスを「兵器化」
- 民主主義的エコノミック・ステイトクラフトの構築
- 保守派、進歩派それぞれの脆弱性
- 世界に拡大していく中国の「核心的利益」
- 第1章 権威主義的エコノミック・ステイトクラフト
- オーストラリアワインへの制裁関税
- 中国共産党の政治的利益のための制裁措置
- ハリウッドは中国批判ができない
- ノルウェー、フィリピン、韓国への経済制裁
- ウイグル弾圧批判と台湾訪問に対する報復措置
- 巨大な経済力を政治力や外交力に変換する
- 第2章 マスクに群がった世界
- マスクの主要供給国だった中国
- 名古屋で買い占められたマスクが中国へ
- トランプ政権下の危機的なマスク不足
- 米国で「国防生産法」発動が検討される
- アメリカにとっての「産業政策」
- 中国の軍民融合戦略――「ファーウェイ」と人民解放軍
- トランプがしかけた米中貿易戦争
- 医療機器の戦略的備蓄措置
- 第3章 中国の「二重機能戦略」
- 国境を越える統一戦線組織の工作活動
- 各国の中国人に命令を伝達する
- 第4章 ハニートラップと姉妹都市
- 「どこに行っても彼女がいた」
- 中国大使館主催の「米中姉妹都市会議」
- はじめてアメリカを訪れた若き習近平の思い出
- 「一帯一路」構想と姉妹都市交流の役割
- そして女スパイ、クリスティン・ファンは姿を消した
- ロシアや中国がよく使っている手口
- 在米中国人工作員と中国系コミュニティー
- 姉妹都市提携と引き換えのパンデミック支援
- 台湾都市の提携事業に中国外交官が「懸念」
- 第5章「ズーム」イン
- ネット検閲を拒否すれば中国市場から追放
- 史上初のバーチャル天安門事件追悼会議
- 中国政府がズームをシャットダウンする
- 参加者全員のユーザー情報を提供せよ
- IDとパスワードが中国の治安当局者に
- ニセのアカウントから会議へのクレームを送信
- FBIの起訴状で暴かれた「悪魔との取引」
- 中国における事業展開で「戦略的優位性」が得られる
- 秘密のままにされる中国政府の秘密工作
- 国家管理を強化する「中国サイバー・セキュリティ法」
- 中国政府の要求に応じたアップル
- 中国政府はあらゆるものを奪い続ける
- グーグルの秘密プロジェクト「ドラゴンフライ」
- 北京の強制に自由市場は対抗できない
- 第6章 WHOと中国共産党
- テドロスは中国政府の対応を称賛する
- 「中国によるWHO支配」を理由にトランプは脱退を表明
- アフリカ系住民への強制検査と隔離
- 台湾を非難するテドロス
- パンデミックの起源に関するデータを隠匿する中国
- 中国とエチオピアの密接な関係
- 元保健大臣としての姿を現したWHO事務局長
- 第7章 ニセ情報(ディスインフォメーション)戦略
- ツイッターを利用した情報操作
- 急激に膨れ上がった中国メディアのフォロワー数
- 政府のプロパガンダを海外へ拡散、海外からの情報は遮断
- 「ウイルスはアメリカの生物兵器」説を展開
- トランプの情報戦と中国の情報戦の類似点
- 第8章 オーストラリアの戦い
- 党幹部の狙いは「戦わずして勝つ」
- 大学内に機密情報提供者の大規模ネットワーク
- 安全保障上の懸念が高まる中国
- 豪州ダーウィン港の九九年間のリース契約
- オーストラリア上院議員と中国人不動産業者の癒着
- 他国の主権に対する中国の干渉
- 人民解放軍上将と西側政府要人との交流
- トランプの登場、TPP脱退、習近平との会談
- 世界中の民主主義国が直面する共通の課題
- 「インド太平洋戦略枠組み」の承認
- あらゆる領域に中国はスパイを配している
- 「ファーウェイ」をオーストラリアから締め出す
- オーストラリアに対する「十四の不満」
- 第9章 香港で何が起こっていたのか
- アメリカ市民である民主化活動家への逮捕状
- あらゆる人物、あらゆる国を対象とする国家安全維持法
- 中国が激怒した「二〇一九年香港人権・民主主義法」
- 世界のどこに行っても中国人に逃げ場はない
- 他国からの制裁を阻止する「反外国制裁法」
- 第10章 政治利用された中国製ワクチン
- WHOに承認されなかったロシア製ワクチン
- イラン、ジョージアへの中国製ワクチン大量供給
- 中国製ワクチンへの懸念が広がる
- 台湾のワクチン確保を中国が妨害
- 出口を見いだせなくなった中国
- 第11章 民主的な経済戦略のために
- 何が中国の権威主義的国家資本主義を台頭させたか
- 新しいリバタリアン正統主義が広がっていく
- 中国の人権問題と貿易問題を切り離したクリントン
- 暴走する自由市場資本主義への激しい非難
- 権威主義的エコノミック・ステイトクラフトへの対抗
- 民主主義国がなすべきこと
- 経済行為を守る民主主義的ガードレールの強化
- 個人と企業の経済安全保障の強化
- 国際的なアクション――民主主義国による集団行動
- 経済的威圧に対抗するための集団的経済防衛協定
- 国際機関への調停申し立て
- 経済的強制力の弱体化――救済と回復力
- 効果的な抑止に必要なコミュニケーション
- 中長期的リスクの軽減
- 官民連携でレジリエンスを改善
- 制度的能力の向上を目ざした国内措置
- 抑止力――将来に向けた防火対策
- 懲罰による抑止
- 結論
書籍紹介
中国の経済政策がいかにしてグローバルな影響力を強め、他国に圧力をかける手段として用いられてきたかを詳細に解説しています。
著者のベサニー・アレンは、長年にわたり中国の経済および政治動向を追い続けてきたジャーナリストです。彼女の洞察力と豊富な知識が本書には詰め込まれており、読者に対して中国の戦略的経済活動の背後にある意図を明らかにします。
経済を通じた影響力の拡大
本書では、中国が経済力を武器として用いる方法を具体的に分析しています。例えば、対外投資やインフラプロジェクトを通じて影響力を拡大し、特に一帯一路構想を通じてアジアやアフリカの諸国に対する経済的依存を強めています。このような経済的関与は、外交的な優位性を確保するための手段として機能しているとアレンは指摘します。
技術と情報の支配
さらに、中国の技術産業の発展とそのグローバル展開についても詳述しています。特に、HuaweiやZTEなどの企業が通信インフラを支配することで、情報の流通をコントロールし、国際的な影響力を高めている点に注目しています。これにより、他国の安全保障やプライバシーに対する懸念が高まっています。
エネルギーと資源の戦略
エネルギー資源の確保もまた、中国の経済戦略の一環として取り上げられています。アレンは、中国がどのようにしてエネルギー輸入先を多様化し、資源の供給を武器化してきたかを解説しています。これにより、中国はエネルギー市場での主導権を握り、経済的な交渉力を強化しています。
経済制裁と貿易戦争
また、アレンは中国がどのように経済制裁や貿易戦争を利用して他国に圧力をかけてきたかについても分析しています。米中貿易戦争の具体例を挙げ、中国の対応策とその影響を詳しく述べています。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
中国の軍民融合戦略
1990年以降、中国は「軍民融合」という戦略を進めてきました。これは、民間と軍事の境界を曖昧にし、双方の技術の進化を図ることを目標としています。習近平はこの戦略を特に重視しており、2010年以降、人民解放軍の能力を大幅に高めています。
ファーウェイは幹部の才気と努力だけで世界的な企業となったわけではありません。2008年以来、中国政府から有利な融資条件や優遇税制措置、さらには補助金などの形で750億ドルに上る公的支援を受けています。
アメリカの通信機器メーカーが5G市場で競争するのを妨げてきた中、ファーウェイは低価格で商品を販売し、世界的な市場に浸透してきました。
中国政府はあらゆるものを奪い続ける
ジュリアン・ジンはズームの社員で、中国政府との連絡役に任命されていました。秘密裏に進行する中国の治安機関からの要求に応じるうちに、ジンは事実上中国のエージェントと化してしまいました。
ジンは社内の人間関係を活用し、誰にも気づかれないようにアクセス権を強化しました。中国政府は中国国内で使用されたデータだけでなく、アメリカに拠点を置くユーザーのデータも求めました。特に、アメリカにいる中国人の動向について強く要求されていたようです。
国外にいる中国人にも北京の司法権が及ぶという現実があり、中国政府を批判することは許されません。中国政府の意に反する活動には高い代償が伴うことが広く認識されているのです。
「ファーウェイ」をオーストラリアから締め出す
2018年11月、アメリカ司法省は「中国イニシアチブ」を発表しました。これは、中国による経済スパイ活動に対抗するための包括的な強化策です。
米国とオーストラリアの両政府は、2018年末時点で、中国共産党がもたらす問題に関する評価と、それに対する対策について、官民を挙げて一致していました。オーストラリアの国家安全保障顧問であるジャスティン・バッシが先陣を切ったため、この問題は単なる大国間の対立ではなく、他国も声を上げ始めたのです。
アメリカよりも1年早く、オーストラリアはファーウェイに対して禁止措置を取っていました。オーストラリアの通信電子局の指示を受けたハッカーによるサイバー攻撃が行われ、ネットワークへの侵入が試みられました。その結果、ファーウェイがオーストラリアの5Gネットワークに組み込まれた場合、この国のネットワークが危険にさらされると警告が発せられました。そして、2018年8月、オーストラリアはファーウェイとZTEに対して5G技術の提供を禁止しました。