建築の技術と意匠の歴史/著者:溝口明則

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書籍情報

タイトル

図解 建築の技術と意匠の歴史

発刊 2023年10月10日

ISBN 978-4-395-32197-1

総ページ数 191p

著者

溝口明則

工学博士。日本国政府アンコール遺跡救済チーム副団長。専門は日本建築士、アジア建築史、建築技術史

出版

彰国社

もくじ

  • はじめに
  • 序章
    • 古代初期のふたつの架構
    • 建造物のふたつの時代のシルエット
    • 専制国家の記念的建築
    • 古代建築の4つの相貌
  • Ⅰ石材、レンガを積む 壁構造の世界
    • 壁に開口を設ける
      • 壁構造と開口
      • 梁を架ける
      • 迫り出し構法
      • アーチ構法
        • 半円アーチ
        • 尖頭アーチ
      • 石梁を用いた特殊な技法
      • 壁に開口を設ける技法
    • ブロックを重ねて空間を覆う
      • 地中海の迫り出し構法
        • ピラミッド玄室
        • 地中海周辺
      • アジアの迫り出し構法
        • 南アジアの宗教建築
        • 登場化する祠堂
        • インドの塔状祠堂
        • 類似するシルエット
        • 横長建物を覆う迫り出し構法
      • さまざまな姿の搭状建築
        • 紡錘形の塔
        • その他の塔の形状
      • 迫り出し構法の建築
    • アーチを架けて空間を覆う
      • 初期のアーチとヴォールト
        • 迫り出し構法からアーチ構法へ
        • 最初期のヴォールト
        • 型枠を用いないヴォールト架構
      • 半球ドーム
        • 古代ローマ建築と半球ドーム
        • 半球ドームを支える架構の変遷
      • トンネル・ヴォールト
        • 初期キリスト教教会堂
        • プレ・ロマネスク教会堂
        • クリアストーリィとロマネスクの時代
        • クリアストーリィをめぐる冒険
      • 交差ヴォールト
        • 交差するトンネル・ヴォールト
        • 尖頭アーチのヴォールト
        • 半円交差ヴォールトと六分ヴォールト
        • 六分ヴォールトと四分ヴォールト
        • ロマネスク様式とゴシック様式
        • 付・後代のゴシック・ヴォールトの展開
  • Ⅱ木材を架ける 柱・梁構造の世界
    • 柱を立てる、屋根を載せる
      • 柱と梁の架構の発生
        • 家屋文鏡
        • 破風の転びと扠首構造
        • 棟持柱
        • 切妻屋根の工夫
      • 木造建築の屋根形式
        • 切妻造と入母屋造
        • 寄棟造と方形造
        • 隅木と垂木
        • 後代の垂木の配置
        • 基本となる4つの屋根形式
    • 瓦を葺く、屋根を支える
      • 1000年を生きる寺院建築
        • 6つの工夫
        • 瓦葺の発明とそのアイデア
        • 二軒
        • 組物
        • 礎石柱と基壇
      • 社殿と寺院建築
        • 古代の社殿
        • 式年造替
        • 意図して素朴さを保つ古式の社殿
        • 社殿の長寿命化
      • 世界の木造建築のさまざまな工夫
        • 柱頭についての補足
        • 軒の梯出法
        • 木造部材の木口を守る
        • 礎石柱の諸相
  • 終章
  • 索引
  • 図版出典・クレジット
  • おわりに

はじめに

 人類はごく初期の段階から、生き延びるために外界から隔絶した空間を必要としてきました。外部の脅威、環境の変化などから身を守ることのできるシェルターです。建築にとって空間を覆うというテーマは、過去において重要なテーマだったことは想像に難くありません。

 伝統的な西洋の建築観では、建築と建物は異なるものと考えられてきました。19世紀までは非常に意識されていて、ルネサンス様式に則っているかどうかのこだわりがあったのです。クリスタル・パレスのような当時最先端の技術で建てられた建物であっても、「建築ではない建物にすぎない」と批判されていました。

 建築の歴史や遺構について、デザインや造営計画した人の視点に立って考えてみる機会にしていただきたいと思います。

ピラミッド玄室

 前2650年ごろにつくられたメイドゥムのピラミッドは、現在崩壊しています。玄室は、石材ブロックを少しずつ中央に寄せて蓄積することで、石材による重荷を両脇に逃がすためのアイデアです。

 前2550年ごろのクフ王のピラミッド玄室は櫓(やぐら)のように石材を積む構造です。上部に積載された巨大な荷重が直接玄室にかからないよう工夫されたものだと考えられています。

 全2500年ごろのサフラー王のピラミッド玄室は、巨大な石材を斜めに積載することで、上部の重荷を両側に逃がすというアイデアです。木造建築の扠首構造に近いと思います。

 いずれも上部の重さを直下の空間の両側に誘導することで、架構の安定を保とうとしています。

初期キリスト教教会堂

 古代ローマでは、4世紀末になってキリスト教が国教として認められています。最初期に首都ローマで建立された教会堂は、ローマ・カトリック総本山として知られるサン・ピエトロ教会堂です。現在の教会堂はルネサンス時ぢに再建されたものとなっています。

 ミサ集会場として使われた啓思の教会堂は、バジリカと呼ばれた古代ローマの集会所の建築形式をもとにつくられました。バジリカと同様にレンガや石材を用いた壁と、上部の木造小屋組みで構築され、瓦を葺いています。

 胃パン的な教会堂は東西軸に合わせて背の高い身廊を構え、その南側と北側に1段下がった側廊を配し、東の最奥に半円形平面に半ドームを載せたアプスそ備え、前面に横断する翼廊との交差部を設けています。三廊型と呼ばれるものです。

 当初のサン・ピエトロ教会堂は東を入口として、側廊の外にさらに側廊を備えた、五廊形式の大規模な教会堂でした。

棟持柱

 切妻造の屋根に付随する長く伸びた傍軒は、経年変化で両端が徐々に垂下していきました。この事態に対処するために傍軒を補強しようとするアイデアの1つが「棟持柱(むなもちばしら)」です。伊勢皇大神宮正殿や仁科神明宮本殿(江戸中期)など、限られた事例が今でも残っています。

 小屋組が倒れ込まないようにするために、伊勢皇大神宮正殿では十分に太い棟持柱を用いています。

 この棟持柱は、南方の雨の多い地域の様子を反映して、破風が大きく傾いた屋根形式に使われています。

 多くの場合は、インドネシアの高床住居、トラジャ地方トンコナンの伝統屋根のように、長く伸びた傍軒を斜めに立つ棟持柱が支持しています。もとの掘立柱の時代には、おそらくこれほどの柱や貫を擁することがなかったため、斜めの棟持柱が本来の姿だったと思われます。

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