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目次
書籍情報
水族館飼育係だけが見られる世界
―毎日は発見と感動に満ちている―
発刊 2024年5月1日
ISBN 978-4-8163-7539-2
総ページ数 239p
下村実
四国水族館飼育展示部長
公益財団法人日本モンキーセンター園長
海遊館の立ち上げにかかわり30年間飼育勤務。その後、京都水族館・すみだ水族館の立ち上げに関わり、京都水族館館長を経た。
ナツメ社
- はじめに
- 序章 水族館の飼育員になるまで
- 水族館の飼育係という仕事
- 幼少期から生きものまみれ
- ウルトラマンより怪獣が好き
- 「オ…オイカワ…という魚なんやけど」
- 魚好きの不良、ギリギリのギリで大学へ
- 水産学科? いいえ、食品栄養学科です
- イベント設営はガム1パックとともに
- 1章 海遊館入社 ―魚を集めるにはまず酒を飲みます―
- 大量のFAXに埋もれた新人社員時代
- 「あれ飼うの?」常務の指示でジンベエザメ捕獲へ
- 土佐の漁師と幻の初代ジンベエザメ
- パワフルな五島列島の漁師たち
- 海遊館初代ジンベエザメ「ハナコ」さん
- 「日本語と英語を混ぜるのはあきまへんで」
- 大型肉食魚は小さな魚を食べないの?
- 貴重なウグイでカワウソがリアル獺祭を開催
- 分厚い毛皮の防御力よ…ラッコ、私は負けました
- ゴマフアザラシ、おっとり見えても母は強い
- 甘やかしすぎるから怠けるのよ、ナマケモノ
- フリッパーパンチは破壊力抜群、ペンギンたち
- イルカたちは人を見ている
- すごいぞ!世界際田ぢの淡水魚ピラルク
- 子どもは樹上生活、オオアナコンダ
- オシャレだからとなめたらアカン、グリーンイグアナ
- 凶悪な人食い魚?風評被害が酷いピラニア
- クロマグロを一刀両断、ノコギリエイ
- Q&A
- 飼育係さんのお仕事の内容は?
- 専門の学校に行かなくても働ける?
- 2章 OBICセンター長になっても企画展示に悩む日々
- OBIC_大阪海遊館 海洋生物研究所以布利センターへ
- 特技は成人男性でお手玉、ナンヨウマンタ
- 冬の風物詩? マンボウ
- グルメすぎるイトマキエイとジンベエザメ
- 迷いイルカ…え、私が助けるの?
- カワウソならぬウミウソがいたらしい
- 謎の生物UMA、もしくはシャチ
- 大阪北部にはツチノコがいます!
- 北極の海には巨大クリオネがいる
- イギリス貴族だけが飼っていた日本初展示の金魚
- 一番好きな魚、ポリプテルスの展示
- 世界最大、コガシラスッポンの展示
- 世界最小の魚を求めてジャングルへ
- ドクガエルが腕にー⁉ 有毒生物の展示
- 子どもたちはかわいいはずだよ! コモリガエル
- 名前が似ているが違うよー、イモリとヤモリ
- 絶滅をぎりぎり回避した高級金魚・土佐錦魚
- 干支の生物など、定番の季節もん展示
- アメリカで日本の魚っていえばニシキゴイ
- モントレー水族館に飼育のレクチャーするの?
- 自然の雄大さに圧倒されたカナダ・バンクーバー水族館
- Q&A
- 育てる生きものは自由に決められる?
- 小さい魚が食べられたりしないの?
- 3章 京都水族館へ転職 ―オオサンショウウオとの出会い―
- 「水と共につながる、いのち」がコンセプトの水族館
- 世界最大級の両生類として名高いオオサンショウウオ
- 京の里山を再現した棚田が水族館内に現る
- 30数種の冷凍魚かじって、餌を品定め
- ドキドキ!ハラハラ! 神社むっかくでの観察会
- もう会えないのかな? 絶滅種の「ミナミトミヨ」
- 京の川と淡水魚と食文化
- 国内発! 100%人工海水での生物飼育
- 全国各地からの生物収集
- 京の海では生きてお目に書かれるダイオウイカ
- 謎に包まれたリュウグウノツカイの公開解剖
- ハンドウイルカの飼育
- 鳴き声が騒音レベルのミナミアメリカオットセイ
- 館長の仕事って、なんだろうね?
- いや、ゾウも怖いですよ
- マンガ・美術品・恐竜とコラボしたユニークな企画
- 魚の伝道師・さかなクン
- 東京スカイツリータウンの「すみだ水族館」
- 実は豊かですごい! 東京の海
- 天然記念物の保護生物「ミヤコタナゴ」
- 「清流の宝石」も生息する東京スカイツリータウン近辺
- 「マゼランペンギン」は、すみだ水族館の守護神?
- 妥協を許さぬ真面目な獣医さん
- 二つの水族館業をおびやかした東日本大震災
- 4章 四国水族館でこれからの展示のあり方を考える
- そして四国水族館へ
- 希少種から増殖したアカメと、逆に高級魚となったウナギ
- 四国水族館の目玉「アカシュモクザメ」
- 四国に存在した、貴重なニホンイシガメの生息地
- マダライルカが逆立ち泳ぎをする謎
- 大水槽にパンチを効かせる「グルクマ」
- 水槽に衝突せず上手に泳ぐ、養殖育ちの「スマ」
- 身近だからこそ気づかれにくい「マアジ」の美しさ
- 気づきがいっぱい宇田津町
- 大量の「パンダウナギ」
- グルメで手のかかる「マダラトビエイ」
- 四国水族館に欠かせない解説板誕生秘話
- 大真面目に行う一風変わった企画展示
- 深みある展示には欠かせない個性豊かな協力者
- 好きだからこそ話に伝わる力がこもる伝道者たち
- 重く胸に刺さるコウノトリ復活プロジェクトの話
- いい展示とは「実物大」の「本物」展示
- 水族館の役割と今後
書籍紹介
水族館を訪れると、美しい水槽の中を優雅に泳ぐ魚たちや、色とりどりのサンゴ礁、愛らしい海洋生物に心癒される瞬間が訪れます。しかし、その華やかな舞台裏で日々奮闘する飼育係たちの姿を目にすることはほとんどありません。本書は、その知られざる舞台裏に光を当て、私たちが普段は知り得ない貴重なエピソードを教えてくれる一冊です。
内容紹介
水族館飼育係としてのキャリアを持つ著者、下村実氏が、自身の経験をもとに執筆したものです。日々の業務の中で直面する課題や、動物たちへの愛情、そして飼育係としての使命感が、温かくもリアルに描かれています。読者はページをめくるたびに、水族館の裏側で繰り広げられる感動的なドラマや、苦労の連続を追体験することができます。
注目ポイント
- リアルな飼育日誌
著者が実際に経験したエピソードが豊富に盛り込まれています。特に、動物たちの健康管理や新しい展示の準備など、飼育係ならではの具体的な業務内容が詳しく描かれているため、飼育係の仕事の大変さとやりがいが伝わります。 - 動物たちとの絆
飼育係と動物たちとの間に築かれる信頼関係は、この本の大きな魅力の一つです。特定の個体との心温まるエピソードや、予期せぬトラブルに対処するための奮闘ぶりなど、感動的なストーリーが多く収録されています。 - 教育的視点
水族館の役割や、環境保護の重要性についても触れられており、教育的な視点からも非常に価値のある内容となっています。飼育係としての視点から、一般の人々が気づきにくい問題点や解決策を示し、読者に深い洞察を与えてくれます。
おすすめの読者層
この本は、水族館が好きな方や海洋生物に興味がある方にはもちろん、動物を愛する全ての人々におすすめです。また、動物園や水族館の飼育係を目指す学生や、環境保護に関心のある人々にとっても、貴重な知見を得ることができるでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
イルカたちは人を見ている
海遊館では開業当初、イロワケイルカを2頭展示していました。名前は「茶々」と「黒」です。
彼らが何を言っているのか私にはわかりませんが、彼らには私たちの考えていることがわかるようです。健康診断の一環として定期的に採血を行うとき、いつもと同じようにバケツを持って行っても、絶対に寄ってきません。ギリギリ手が届かないところで顔を出し、こちらを見つめてきます。
また、カマイルカも担当したことがあります。彼らも「人を見る」生物です。ある女子社員はカマイルカたちの人気者で、彼女が来ると全頭が集まり甘えてきます。
コモリガエル
※実物のヒラタピパとは全く異なるイメージとなっています。
カエルの企画展示で印象的だったのは、ヒラタピパです。別名「コモリガエル」とも呼ばれています。15センチほどの平たいカエルで、一生を水中で過ごし、小さな星型の指先で味覚をチェックします。
このカエルの驚くべき点は、親が背中に卵を孵化するまで背負い、小さなカエルになってから背中から這い出てくるという生態です。卵が親の背中に埋没する様子を観察できます。
私は大喜びだったのですが、他のスタッフ、特に飼育係以外の社員からは「気持ち悪い」という声が多くありました。お客様も喜んでくれると思っていたのですが、反応は引き気味でした。
ゾウも怖い
京都府立植物園で、ゾウとオットセイの糞から作った肥料を使ってバナナを育てました。そして、そのバナナを地元の子どもたちが見守る中、ゾウへのバナナ贈呈式が行われました。
ゾウ舎の前の広場にバナナの木を置くと、普段とは違う時間に木が置かれたためか、ゾウはものすごく大きな声で叫びながら壁に体当たりをし始めました。子どもたちはすっかりびっくりしてしまいました。
ゾウは「ばおおお」と叫びながら走ってきて、バナナを鼻でつかみ振り回し始めました。そして、あっという間にバナナを平らげ、その迫力に圧倒されました。
「怖いですね」と私が言うと、動物園のスタッフは「サメのほうが怖いですよ。水族館の方々はサメと同じ水槽に入るんですから、信じられません」と答えました。
四国に存在した、ニホンイシガメの生息地
ニホンイシガメは、日本国内の本州、四国、九州にのみ生息するカメです。
最近の研究によると、外来種であるクサガメとの交雑が進み、純粋なニホンイシガメの生息地がかなり減少していることがわかっています。
たまたま四国で小さな河川を発見し、クサガメが一切いない川を見つけました。そこに生息するニホンイシガメは全体的に小型化しており、自然に矮小化したものと考えられます。
貴重なニホンイシガメの生息地があることを喜びたいところですが、捕獲して販売しようとする人々が後を絶ちません。
さらに、ニホンイシガメが天然記念物に指定されることを見越して、海外に密輸し儲けようとする人々も現れています。