行為主体性の進化/著者:マイケル・トマセロ

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書籍情報

タイトル

行為主体性の進化

生物はいかに「意思」を獲得したのか

発刊 2023年11月30日

ISBN 978-4-8269-0252-6

総ページ数 270p

著者

マイケル・トマセロ

デューク大学心理学・神経科学教授、マックス・プランク進化人類学研究所名誉所長。

出版

白揚社

もくじ

  • 第1章 はじめに
    • 動物心理に対する進化生物学的アプローチ
    • 人間の心理に対する進化的なアプローチ
    • 本書の目標
  • 第2章 行為主体のフィードバック制御モデル
    • 行為主体の機械モデル
    • 生態系が課す問題のタイプ
    • 絶滅種のモデルとしての現存種
  • 第3章 目標志向的行為主体_太鼓の脊髄動物
    • 生きた(非行為主体的)アクター
    • 目標指向的行為主体
    • 生態的ニッチと経験的ニッチ
    • 行為主体の基盤
  • 第4章 意図的行為主体_太古の哺乳類
    • 情動、認知、学習
    • 実行層
    • 行動実行に関する意思決定
    • 実行(認知)制御
    • 道具的学習
    • 自己の目標指向的な行動や注意の経験
  • 第5章 合理的行為主体_太古の類人猿
    • 社会生態的な難題
    • 因果性の理解
    • 意図的な行動の理解
    • 合理的な意思決定と認知制御
    • 反省層とその経験的ニッチ
    • だが大型類人猿はほんとうに合理的なのか?
  • 第6章 社会規範的行為主体_太古の人類
    • 初期人類の共同における共同的行為主体性
    • 共同目標を設定する
    • 役割の連携
    • 協力し合いながら協働を自己調整する
    • 協力的合理性とその経験的ニッチ
    • 文化集団における現生人類の集合的行為主体性
    • 集合的な目標の形成
    • 社会的役割の連携
    • 社会規範を介しての集合的な自己調節
    • 規範的合理性とその経験的ニッチ
    • 人間の行為主体性の複雑さ
  • 第7章 行動組織としての行為主体
  • 補足説明A
  • 補足説明B
  • 謝辞
  • 訳者あとがき
  • 原注
  • 参考文献
  • 索引

はじめに

 進化の歴史を再構築するためには、行為主体の組織構造を説明する、理論的に一貫し広く適用可能なモデルをまず考案する必要があります。単純な形態から複雑な形態へと進化する際につけ加えられたり、変化したりしなければなりません。

 適切な修正を施せば人類のもっとも古い祖先から現生人類に至るさまざまな動物の行動にたいして広範に適応できます。

 本書の目標の1つは、包括的な行為主体のモデルを提起することです。このモデルには、自己調節するための知覚能力や認知能力が必然的に含まれます。

 行為主体性とは、単なる特殊化した行動や認知のスキルではなく、個体が自己の行動を策定し実行するための基盤となる、もっとも一般的な組織的枠組みなのです。

 既存の進化心理学の理論に、人間の心理組織一般を加えて拡大したものを深める必要があります。

目標指向的行為主体

 化石記録に基づくと、最初の爬虫類は20センチから30センチほどのトカゲに似た生物だったようです。この生物は昆虫を捕食していきていて、比較的大きな脳を持っていました。

 捕食に関しては、昆虫やクモなど、季節に合わせた入手可能性の変化に応じて複雑な行動をしなければなりません。獲物によっては待機戦略をしたり、能動的に追跡戦略をとったりします。

 行動の柔軟性、学習能力は、トカゲが単に刺激に駆り立てられているのではなく、目標を指向し、個体の決定によってコントロールされる行動組織を備えているのです。

 知覚がとらえた状況に応じて目標を追求する方法を変えることを学習します。

行動実行に関する意思決定

 リスなどの哺乳類は爬虫類とはことなり、行動を起こす前に、認知的に表彰されたいくつかの行動オプションのなかから、先を見越してあれかこれかの選択を行うことが多いです。

 木の枝にとまっているリスは、数メートル先にある別の枝に、飛び移るべきか、いったん幹に降りてから移るべきかを決定しようとしています。リスは飛び移ろうとして、体を丸くするものの、すぐに怖気づきます。何回か繰り返した後、幹に降りて別の木へ移動しました。

 これには、何らかの形態の認知表象と、想像上でそれを操作する能力を必要とします。哺乳類にとって、認知表象はもっぱら知覚に依拠する象徴的かつ写象的なものです。もちろん、それらによって表象される経験の正確な内容は、生物種独自の認知能力と経験的ニッチによって変わります。

社会生態的な難題

 大型類人猿が最初に登場したのは、今からおよそ2000万年前のことです。それからすに、数十種の類人猿がアフリカ大陸やユーラシア大陸を歩きまわるようになりました。

 大型類人猿のうち現存しているのは、オランウータン、ゴリラ、ボノボ、チンパンジー、ヒトの5種です。変化の激しい多様な捕食環境に対して祖先の動物が成し遂げた心理的な適応を維持しています。

 果実のほどんどは、森林の中の広範に分散した区画や茂みで育つため、入手経路が限られます。かたまって存在する資源は、手に入れようとしている個体のあいだで激しい社会的競争を引き起こします。

 チンパンジーやボノボは、睡眠や防御のために依然として大きめの社会集団を形成して暮らしています。現代のウランウータンやゴリラは例外の動きをしています。それらの動物は部分的に独立して、繁殖相手のいないオスの集団を構成して暮らしており、それにより捕食集団のサイズが小さくなって、社会的競争も縮減しています。

役割の連携

 共同目的や共同注意によって、ある種の共有された世界が構築され、初期人類はそのもとで協働できるようになりました。しかし、効率的に協働するためには、各人は自己の目標と、独自の役割を担うパートナーの視点の両方を同時に考慮しなければなりません。

 レイヨウ狩りにおいては、一方のパートナーの視点の両方を同時に考慮する必要があるのです。一方は追跡者の役割を、パートナーは獲物をやりで突く役割を担います。

 うまく連携させるためには、両パートナーとも、まず相手の役割と視点を理解し、しかるのちに可能なら、協力的コミュニケーションを通じて互いの役割と視点を補助し合う必要があるのです。

 チンパンジーは、協働で新たな役割を担う機会が与えられると、その役割を学習しなければ効率的に実行することができません。人間の子どもはそれをやすやすとこなすのに対し、チンパンジーはこなせません。幼い人間の子どもは役割交替を命じられても、その両方の役割を特定して、両者の役割を心的に連携させることができるのです。

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