※ニートが興味をもった部分を紹介します。
はじめに
数奇な運命をたどった書物を「奇書」として紹介します。
「書」という歴史を軸として、その過去にどのような価値観をたどってきたかを探ります。時に私たちに新しい視点を授けてくれるでしょう。
目次
書籍情報
タイトル
奇書の世界史2
歴史を動かす”もっとヤバい書物”の物語
著者
三崎律日
出版
KADOKAWA
ノストラダムスの大予言
ノストラダムスは40代では主に医師として活躍し、プロヴァンス地方でのペストの鎮静化に尽力しました。その後50代で占星術の知識を使用し、年毎の予見を記した「歴書」が評判を生んだのです。そして、その名声の元に出版されたのが『諸世紀』もとい『百詩篇集』、出版時の名は『ミシェル・ノストラダムス師の予言集』です。
医師としてのノストラダムスは、ジャムと化粧品を使った健康法に、衛生学の理論を中心としていました。なかでも、ペストへの対処法は有名です。
「バラの丸薬」に「ペストマスク」といった、瘴気を退けることができるといったものを開発しています。当時の医療では真剣に瘴気について考えられていたのです。今となっては、カラスのくちばしの様なマスクや丸薬の効果に疑問がついてまわります。
1999年7月、
空から恐怖の大王が来るだろう。
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
マルスの前後に首尾よく支配するために。
引用:『百詩篇集』第10巻72番にあたる詩
実は、ただ単に「恐怖の大王が来る」と書いているだけで、「世界の終わり」を暗示する文章は書かれていません。あたかも、「世界の破滅」を予言するかのような語られ方をされています。
1973年に『日本沈没』という小説が流行ります。科学的知見であったプレートテクトニクス理論に基づいた、とされ説得力のある内容と評価されたのです。
この滅びのイメージが映像という形で公開されたときに、図ったように五島勉による著書『ノストラダムスの大予言』が出版されました。
ノストラダムスはペストの対応に追われ、その過程で妻子を亡くしています。彼にとって、「終末思想」は「この苦しい世界を脱して神の国へ至る救い」だったのです。日本では、「救済」の文脈が見過ごされています。
五と四十度で空は燃えるだろう、
火が大きな新しい都市に近づくために。
瞬時に撒き散らされた大きな炎が爆ぜるだろう。
人びとがノルマン人たちを試したいであろう時に。
引用:『百詩篇集』第10巻72番にあたる詩
原発事故だったり貿易センタービルのテロを暗示したものという解釈がされがちな、第10巻72番です。火にまつわれば、どんな厄災もこの詩で表現できてしまいます。
数多くある詩は、他の解釈が存在しており、懐の深さを感じます。最近の出来事のコロナ禍でさえ、詩を使えば「的中したこと」にできるのです。
おかるティックな分野につきもののロマンがあるかもしれません。ですが、我が国において「オウム事件」という痛ましい前例ができてしまいました。
教団の幹部の平田悟は「当時は本気でハルマゲドンを信じていた」と述べています。これが本心かはわかりません。
まとめ
●ノストラダムスは医療が発達する前の医者でもあった。
●当時の医療はオカルト的なものがあった。
●ノストラダムスは、ペストで妻子を亡くしている。
●ノストラダムスにとって、終末思想は救いであった。
●晩年に書いた預言書がヒットする。
●日本では、図ったかの様に『ノストラダムスの予言』の知識が記された書物が出版された。
●予言の書の詩は、いかようにも解釈できる。
病気版のゆるキャラ
『疫神の詫び証文』とは、関東近県に分布する古文書群の1つです。流行り病を擬神化したものに、お詫びをした証明書として創作されました。
当時、流行り病の治療は困難で、天然痘などが多くの命を奪っていきました。対処法として、見えない病を擬神化し民間人に分かりやすく文書化することで、隔離措置などを迅速に行うことができたのです。
疫神は擬神化される再、病状に応じて幾人かに分割され、キャラクターを付与されます。
- 「丈七尺山伏 黒味筋悪」…膿が黒ずんだ悪性の疱瘡
- 「二十三歳静成男 脚早荷軽」…症状が軽く、治りの早い疱瘡
- 「七十ほどの乞食姥 松皮掻姫」…瘡蓋が松の皮のように固まった症状
- 「赤大粒姫」…疱が赤くはれた質のいい疱瘡
- 「邪々寛坐」…疱瘡跡を指す「ジャンカ」から来たもの
2020年4月薩摩川川内市入来町では新型コロナウイルスの早期収束を願い、「入来疱瘡踊」が披露されています。
山形県山形市山寺には、新年を迎える前に疫神を家へ上げてもてなす風習があります。あたかも本物のお客を迎えたかのように振る舞うのです。「また来年お越しください。今年のうちはもう来ないでください」そう申し添えながら添え物を川へ流します。
擬神化された疱瘡神は、軽い症状の場合は若く、重い症状の場合は年老いて表現されています。事前に「軽いもの」を迎え入れておくといったワクチン的な風習が各地に残っているのです。
天保14年に出現したとされる「あま彦」と名乗る異形は、全身が毛で覆われた猿のような姿をしており、熊本県に出現されたとされる「アマビエ」に似ています。この妖怪を見た者は無病長寿になると言われているのです。
今は、この「アマビエ」がSNSという新たな舞台で復権を果たし、一躍有名になりました。
「アマビエ」のような奇妙な生物を楽しみつつ、医療においては専門家の意見を尊重する今の在り方があります。「伝統」と「変化」が共存する柔軟性が、この国のよさではないでしょうか。
まとめ
●日本は古来より疫病を擬人化する風習がある。
●さまざまキャラクターを当てはめることで、病状を判断していた。
●擬人化された奇妙な神は時を超えて、SNSという媒介で復活した。
●科学の進歩といった「変化」と、妖怪という「伝統」が共存する柔軟性が、日本のよいところ。
お盆の由来
『盂蘭盆経』は、お盆という行事の由来になったことでも有名な経典です。経典とはブッタこと釈迦の教えを弟子が書き写したという体裁の書物となります。
お盆は毎年8月ごろに、先祖の霊が帰ってくるのを迎えるイベントです。
しかし、おかしなことに仏教の教義を考えると、死生観は「輪廻転生」です。「悟り」を境地へ至ることで、「解脱」することができます。つまり生まれ変わるはずなのです。
仏教には「盂蘭盆会」というお盆の素地となった催事が、日本へ伝来する前から既にありました。
死後餓鬼となって苦しむ父母のために徳を積む『盂蘭盆経』が、転じて「盂蘭盆会」となったといわています。
「盂蘭盆会」は儒教の時代につくられています。仏教と儒教は相入れない部分があり、「緩衝材」が必要だったのです。「出家」して親をたてることが「孝」であるという考えと、目上の人を敬うことを「孝」と考えで対立していました。逃げ道として「盂蘭盆経」は創作されたのです。
「嘘の方便」なのでしょう、釈迦自身、相手の立場に合わせて言葉を変えつつ説法を行っていたという来歴があります。仏教は、その時々の土地や風土により柔軟にそのあり方を変えつつ浸透してきた教えなのです。
仏教の在り方が、先祖の死に敬意を払ってもらえるという期待からお盆が生まれたのではないでしょうか。
まとめ
●『盂蘭盆経』は、お盆という行事の由来になったことでも有名な経典。
●『盂蘭盆経』は仏教の教義から考えると、不自然な点がある。
●儒教の時代に作られ、仏教と対立する考えもあった。
●仏教は、その時の土地や風土で柔軟にあり方を変えた教え。
感想
病気のゆるキャラについて、すごく真面目に語られている本です。
科学読本の歴史書版といったところでしょうか?面白かったです。
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