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Focus
話題の最新研究やニュースをコンパクトに紹介するコーナーです。
毎月いくつかの情報を紹介されています。ここでは個人的におもしろかった記事を、さらにコンパクトにしてピックアップします。
新型コロナの呼気検出法
ジャンル:医学
出典 Efficient Detection of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2(SARS-CoV-2)from Exhaled Breath, THE JOURNAL OF MOLECULAR DIAGNOSTICS
2021年9月29日
一般には、唾液や鼻咽頭をぬぐってPCRで検査されます。PCRでは感染後3カ月たったウイルスの残骸が検出されることがあり、呼気に含まれるウイルスを直接計測する方法が求められているのです。
アメリカ、ロードアイランド病院のデュアン博士らは、大量の検体を一度に解析できる「バブラー法」を開発しました。ガラス管を通じて、試薬の入った溶液中に呼気を吐き出すという検査方法です。
溶液に移ったRNAはDNAに転写され、個人を判別して感染者の識別も同時できてしまいます。RNAの抽出が不要です。ウイルスの量やどの株に感染しているかまで解析できます。唾液の3倍の感度で検知できるのです。
デュアン博士らは、バブラー法によってコロナウイルスを簡便に検査できると述べています。
アヒルの隊列に学ぶ省エネ輸送
ジャンル:物理学
出典 Wave-riding and wave-passing by duckings in formation swimming,Jornal of Fluid Mechanics
2021年10月5日
イギリス、ストラスクライド大学のユアン博士らは、流体力学の理論モデルを使ってアヒルの親子が規則正しい感覚で水面を泳ぐ行動の解析にいどみました。
まず、ひな鳥1羽の場合にどれだけの水の抵抗を受けるか計算しました。みちびき出した結果は、親鳥がたてる波の頂点にひな鳥がいれば、抵抗どころか推力を受けることがわかったのです。
3羽目のひな鳥までは推力が働き、4話目以降のひな鳥は抵抗がほぼゼロの状態で進行できます。4羽目以降は波のエネルギーを減衰させずに、後方に伝える役目を担うのです。
このようなメリットは、ひな鳥が一定の間隔で同じ速さで泳ぐことが重要になります。これを本能で感じて、選んでいるようです。
このアヒルの隊列は、船舶の水上輸送などに応用が行えるはずと博士らはのべています。
$\ce {CO2} $を利用する新しい蓄電池
ジャンル:工学
出典 東京工業大学プレスリリース
2021年12月17日
太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーは、天候や季節によって電力不足になる問題があります。これらの解決策の1つに大容量の蓄電技術が求めれているのです。
東京工業大学院生の亀田恵佑氏らは、二酸化炭素を利用する「カーボン空気二次電池システム」を開発しました。
電力を使って二酸化炭素を電気分解し、得られる炭素をためておきます。炭素と空気中の酸素を用いて燃料電池で発電するしくみです。
今回のシステムでは、1リットルあたり1625ワット/時であり、水素と酸素を用いたシステムに匹敵する性能です。
研究グループは、実用化をめざしています。
スポーツと性別をめぐる最新事情
監修:來田涼子 中京大学スポーツ科学部教授、長谷川奉延 慶應義塾大学医学部教授・同大学病院性分化疾患(DSD)センター長
元の記事の執筆者:福田伊佐央
近年、スポーツの世界で男性から性別を変更した情勢選手が競技に参加するのは、不公平ではないだろうかと、議論が巻き起こっている。
議論を進めるために「性分化疾患(DSD)」とは何かを知り、この問題について考えてみましょう。
南アフリカのキャスター・セメンヤ選手
キャスター・セメンヤ選手は、オリンピックの女子800メートル走を2012年ロンドン大会と、2016年リオデジャネイロ大会の2大会連続で制しました。しかし、2021年の東京オリンピックに彼女の姿はありません。WA(World Athletics, 世界陸連)が定めた参加規程によって、出場が認められなかったのです。
セメンヤ選手は、生まれつき男性ホルモン(テストステロン)の血中濃度が高く、服薬するなどしてテストステロン値を下げないと出場できないことになっています。
男性のほうがテストステロン値が高く、値が高いほど体力や筋肉がある傾向があります。「男性並みにテストステロンの値をもつ選手が、女性選手に交じって競技に参加してしまうと、公平性が失われる。」というのが、WAの規定が作られた理由です。
それでも、セメンヤ選手はテストステロン値の規制がない200メートル走で東京オリンピックを目指していました。しかし、南アフリカの国内選考会を突破することができず、3大会制覇することはかないませんでした。
LGBTQとDSDはことなる
セメンヤ選手は「DSD」だと言われています。DSDはDisorders of Sex Developmentの略で、性分化疾患という訳です。染色体、性腺、内性器、外性器のいずれかが先天的に典型的ではないことをDSDとよばれています。
LGBTQはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クエスチョニングの頭文字をとった言葉です。性的指向や性同一性に関する内容を意味します。DSDは身体の状態を示すものです。
LGBTQはクラスに1人か2人いるのに対し、DSDは男児500人に1人いるかいないか程度といわれています。
公平なルールはつくれない
WAの定めた「DSD規定」の科学的根拠とされたものは、2011年と2013年に行われた陸上データを分析した論文です。この論文では、走競技のほかにハンマー投げや棒高跳びでも有意な関係性があるという結果を示している。DSD規定では、ハンマー投げや棒高跳びの参加を制限することはありませんでした。後に論文の一部のデータに誤りがあったことが判明していますが、WAは規定を再検討することはしていません。この論文はそもそもドーピングに関しても検証であって、それ以外の目的で用いることに問題があります。
競技の道具についても公平性のルールをつくるのは難しいはずです。資金力が豊かな国は、競泳の水着やマラソンのシューズ、卓球のラバーといった性能のよい最新の道具が使えることが多くあります。公平でないといえるでしょう。
DSDのアスリートの存在をグループわけしたらようのでしょうか。柔道の体重の階級のようには、性別をはっきりと分けることができません。最近の医学の進歩で明確になってきている事実です。
DSDの発生
人の性腺や性器は最初からきっちりとわかれているわけではなく、胎児が発達する途中でわかれていくものです。性分化をしていくなかで、通常とは異なる進み方をするとDSDの発生となります。たとえば、男性と女性の中間的な外性器になるなどがあげられます。
「DSDが生じる原因は、染色体や遺伝子、胎児期の発生における問題と、基本的にすべて先天的な要素です。」と長谷川奉延教授は話します。
主にDSDであることが判明するのは、出生時、思春期、不妊治療時の3つです。DSDの症状はさまざまで、個人差もあります。自覚症状がない場合も多く、ある程度成長してから判明する場合もあります。
2万をこえる遺伝子をもっている人間には、多少なりとも遺伝子に変化があります。染色体の欠損や重複などは確率的におきてしまいます。DSDは確率的に生じるものであり、DSDの発生を完全にさけることはできないのです。
DSDは一種の才能
2021年の東京オリンピックでは、史上初めてトランスジェンダーの選手が参加しました。男性から女性に性別を変更したニュージーランドのローレル・ハバード選手です。ウエイトリフティング女子87キロ超級に出場しました。
IOCはこれまで、トランスジェンダーの選手について、血中テストステロン値などによる値を定めてきました。しかし、2024年に開催予定のパリオリンピックからは、より拘束力の弱くなる予定です。「排除しない」「心身に危害があたえられない」「差別をなくす」などの10の原則から枠組みが定められます。
オリンピック憲章にも、「スポーツをすることは人権の1つである。すべての個人はいかなる種族の差別も受けることなく、オリンピック精神にもとづき、スポーツをする機会をあたえられなければならない」とかかれています。
排他的なスポーツをつくらず、DSDは体や性の多様性の1つと理解して、新しいルールについて議論するべき時代がきたのではないでしょうか。
限界をこえた北極の崩壊
監修:榎本浩之 国立極地研究所教授・副署長、北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)プロジェクトディレクター
元の記事の執筆者:小野寺祐紀
いままでの北極の悲劇は、ほんの序章にすぎないのです。永久凍土がゆるみ、住民や生物の暮らしを脅かしています。凍土の中にはメタンガスという時限爆弾もひそんでいます。
北極の変化
今は北極海で波が立ち、海岸を侵食しはじめています。航路が開けて船が行きかっているのです。冬も雪ではなく、雨が降るようになりました。
長年ににわたって、北極の研究をされている榎本浩之教授はこう話します。「北極が地球で最も温暖化が進んでいる場所であることはまちがいありません」
北極温暖化を増している原因は、雪氷です。雪氷は白色で太陽光の約60%を反射します。やがて黒色の地面が顔をだすと、雪氷のしたにある地面や海面が温められます。最初は針の穴ほどの融解だったとしても、繰り返し起こることで、どんどん温暖化が加速していくというわけです。
現在の氷の厚みは薄くなっており、温度の変化に耐えられなくなって融解が止まるところをしりません。イギリスの科学者ピーター・ワダムズ教授は、1970年代からイギリス軍の潜水艦に乗り込み、氷を観測してきました。「おそるべき速さで氷が薄くなっている」という事実を発表しています。
2000年以降は凍結のゆるみが深刻になり、場所によっては「サーモカスト」とよばれる水浸しでこぼこした独特の地形がみられるようになった。
メタンガスの放出
永久凍土は過去何千年ものあいだ、炭素を吸収してきました。なかでもやっかいなものは、メタンガスです。2020年末までにこのメタンガスの爆発によるクレーターであろうものが、17か所見つかっています。詳しいことはわかっておりませんが、温暖化がおこしたものではないかと考えられています。
変わる生態系
ホッキョクグマは、通常アザラシを狩っています。近年では氷に厚みがないため、穴を掘って身を隠し、待ち伏せすることができません。そしてホッキョクグマは、生き延びるためにトナカイを狩るようになりました。他にも、暖かくなったことで、植物プランクトンが大発生して、植物プランクトンを食べる動物プランクトンにも影響を及ぼします。そしてプランクトンを食べる魚に影響していきます。このように食物連鎖で、どんどんと生態系が変化してしまうのです。温暖化で絶滅してしまった生物は、2度と元に戻りません。
北極海でタラやカレイが増え、元いた魚が数を減らしています。元いた魚を食べる海鳥たちも、繁殖を失敗し、フラストレーションを抱えているのです。
日本にも影響が
ホッキョクの温暖化は複雑な空気の通り道を通り、日本へ台風や大寒波をもたらすことが解ってきました。
海氷の厚さなどの観測が不確定なものが残っており、わかっていないところも多いのですが、北極で進む温暖化がいたるところで、制御できない影響およぼしています。
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