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目次
書籍情報
花魁の家計簿

永井義男
宝島社
- はじめに 監修者インタビュー
- 永井義男(作家・歴史評論家)
- 第1章 吉原遊廓という場所
- 吉原遊廓とは何か?
- 妓楼の仕組みと経営実態
- 遊女の階級と揚代
- 吉原遊廓で働く人々
- 吉原の芸者たち
- Column 吉原の本屋 蔦屋重三郎
- 第2章 遊女という生き方
- 遊女とは何か?
- 遊女の境遇とその生涯
- 壮絶な遊女の暮らし
- 遊女の終わり方、その光と闇
- 第3章 遊女たちの生活
- 遊女の1日の暮らし
- 遊女のファッションとモード
- 遊女の娯楽と教養
- 煙草と喫煙文化
- 火事と仮託での営業
- 遊女の病気と治療費用
- Column 吉原の名物・名店
- 第4章 吉原の客たち
- 吉原のタウンガイド「吉原細見」
- 吉原通いの客たち
- 登楼の仕方と遊び方
- Column 女性の出入りが制限された吉原
- 第5章 吉原の1年
- 吉原の1年、四季折々の行事
- 仲之町の花見
- 玉菊灯籠
- 八朔
- 俄
- Column 吉原遊廓と鷲神社
- 第6章 吉原の歴史
- 元吉原から新吉原へ
- 吉原の近代化
- 大正時代の遊女の日記から知る吉原遊廓
書籍紹介
一見、歴史小説や時代物の雰囲気を感じさせますが、実は花魁という華やかな存在の裏側に潜む、リアルなお金のやりくりや生活の様子に焦点を当てたユニークな作品です。
花魁といえば、豪華な着物に身を包み、遊郭で多くの人々を魅了する女性たちです。彼女たちの美しさや洗練された振る舞いに目が行きがちですが、この本はそんな表舞台とは異なる視点を提供してくれます。花魁たちがどのように収入を得て、どんな出費を抱えていたのか。たとえば、着物や髪飾りといった華やかな装いにかかる費用、遊郭での生活を支えるためのさまざまなコスト、そして彼女たち自身の将来を見据えた貯蓄や計画まで、細やかに描かれているのです。まるで、家計簿を覗き見るような感覚で、彼女たちの日常に迫っていきます。
普段あまり注目されない「お金」という視点から、歴史や文化を紐解いていくところにあります。派手なイメージとは裏腹に、彼女たちの生活は綿密なやりくりで成り立っていたこと、そしてその中に垣間見える人間ドラマに、読み進める手が止まりません。宝島社らしい、好奇心をくすぐるテーマ選びも光っていて、歴史好きはもちろん、普段あまり時代物に触れない方にもおすすめしたい一冊です。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
質素な遊女の暮らし

遊女の慌ただしい暮らしのなか、宴席に出た料理の残り物にありつくこともありました。お客に台の物をとってもらうこともあれば、自分でとることもあったようです。妓楼の朝食が芋と油揚げだけと知ると、口々に不平を言い、おかずの出前を頼みます。こうした出前が頼めるのも、全盛期の花魁とその妹分の振袖新造だけでした。
夜見世が始まると、遊女は悠長に夕食をとる暇がありません。妓楼にはゆで卵を売る行商人がしばしばやってきて、遊女は好んでそれを買っていました。他にも、うどん、そば、豆腐、田楽などの行商人が通りを通っていましたが、お金のある遊女しか注文することはできず、禿や振袖新造は台の残り物をあさるほかありませんでした。
生卵・ゆで卵は1個7~20文(現代の価値で約110円~310円)であり、鮨(すし)や天ぷらはその値段よりも少し安かったため、遊女を商いでした。