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目次
書籍情報
味の世界史
香辛料から砂糖、うま味調味料まで
玉木俊明
京都産業大学経済学部教授。
文学博士。専門は近代ヨーロッパ経済史。
SBクリエイティブ
- はじめに なぜ「味」で世界史をたどるのか
- 世界の気候区と食文化
- なぜ諸島が重要なのか
- カリブ海諸島と砂糖の時代
- ウォーラー ステインの近代世界システム論
- 香辛料貿易と砂糖貿易の違い
- 二つの産業革命と調味料
- 「味」の世界史を人類の起源から見る
- 本書の構成
- 第1章 香辛料貿易のはじまり _古代・中世
- 香辛料とヨーロッパ史
- 最古の痕跡は前10世紀
- ミイラにも使われていた香辛料
- なぜフ ェニキア人は地中海貿易を独占できたのか
- ローマ帝国の広大な商業ネットワーク
- 香辛 料を求めてアフリカ、インドへ
- 史料が語る古代の香辛料貿易
- ローマ帝国の滅亡とイス ラーム
- ヨーロッパにおける「商業の復活」
- 海の都・ヴェネツィアが果たした役割
- 香 辛料商人は薬剤師でもあった
- ヒポクラテスも認めていた「医薬品としての香辛料」
- 古 代ローマ―エキゾチックな料理のはじまり
- 中世ヨーロッパ―「富の象徴」としての香辛料
- そして大航海時代がはじまる
- 第2章 香辛料貿易とヨーロッパの拡大
- 大航海時代の幕開け
- 大航海時代とは何か
- マルコ・ポーロと香辛料
- ニッコロ・デ・コンティのインド渡航
- アフリカの金を求めて
- ポルトガルとスペインのアジア進出
- 着々とアジアに拠点を築くポルトガル
- スペインはどうか
- 香辛料輸送とイタリアの衰退
- ヨーロッパとアジアの逆転が起こる
- アジアに到達したヨーロッパ船
- スペインとポルトガルに続いたオランダの戦略
- 香辛料戦争―バンダ諸島をめぐる攻防
- イギリスがインドに向かった理由
- 日本は香辛料を輸入していたのか
- イエズス会が利用したアジアのネットワーク
- 琉球王国の商業ネットワーク
- アジアに散らばった日本人たち
- 日本が迎えた貿易拡大の時代
- ヨーロッパは自ら世界を押し広げた
- 第3章 香辛料から砂糖へ 近世世界の変貌
- 「カンディード」と砂糖貿易
- アジアは「未知なる土地」ではなくなった
- アルメニア人の商業ネットワーク
- アルメニア商人とコーヒー
- 砂糖が必需品になった理由
- 砂糖の歴史
- ブラジルの砂糖を征したヨーロッパ
- 黒人奴隷と砂糖経済
- 現実と妄想の狭間で生まれたメタフィクション文学
- 「フィクション」だからこそ描けた現実
- 『ガリヴァー旅行記』 の批評性
- ヨーロッパ経済の主役となった砂糖
- 第4章 砂糖と資本主義経済 近世から近代へ
- 資本主義と「近代世界システム」
- ヨーロッパが対外進出した別の理由
- 流通から見た支配=従属関係
- 砂糖革命とは何か
- イギリスにおける商業革命と生活革命
- イギリスとフランスの経済力を分けたもの
- イギリスに渡った密輸茶
- スウェーデンも茶を密輸していた
- 密輸がイギリスを茶の大国にした
- 新世界が変えたヨーロッパ人の労働観
- 新世界とアジアが一つになる
- 資本主義経済と砂糖の蜜月の時代
- 第5章 第二次産業革命がつくりあげた世界―現代における食の多様性
- 産業革命と現代の香辛料
- アメリカ大陸の恩恵
- コロンブスの不平等交換?
- 海洋帝国の誕生
- 一体化する食品市場―砂糖・コーヒー・小麦
- 海運業と流通網の発展
- 世界はど う縮まったか
- 第二次産業革命と調味料
- なぜイギリスがヘゲモニーを握ったのか
- イギリスの自由主義体制
- 食品の長期保存という新課題
- 冷凍保存技術の確立
- 日本初の冷凍食品をつくった企業
- もう一つの食卓革命
- うま味調味料と人類の存続
- そして世界の味 は一つになった
- おわりに 諸島から見た世界史
- 私たちが忘れてしまったもの
- 海を隔てた「帝国」の形成
- 第二次産業革命が形成した現代社会
- 故郷は地球
- あとがき
書籍紹介
この本は、味覚を通じて世界史を見直すユニークな視点を提供します。香辛料から始まり、砂糖、そして現代のうま味調味料へと移行する「味」の歴史は、資本主義の誕生やヨーロッパの覇権を握る過程と深く関連しています。
経済や社会への影響
ウォーラーステインの「近代世界システム」やポメランツの「大分岐」論を参考にしながら、この「味」の変遷を詳細に追っています。特に、「諸島」に焦点を当てることで、世界史の興亡を新たな視点から描き直す試みがなされています。香辛料貿易の時代から砂糖生産の拡大、そしてうま味調味料の普及まで、味の変化は経済や社会の変動を反映していると言えます。
味のストーリー
食文化と経済史がどのように交差するのかを理解するための重要な一冊です。読者は、単なる味覚の変遷だけでなく、それがどのように人類の歴史や文化に影響を与えたかを学ぶことができます。歴史の裏側に隠れた「味」の物語は、私たちが日々口にする食事に新たな視点を与えてくれることでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
中世での香辛料は富の象徴
中世のヨーロッパにおいて、香辛料は宗教的儀式や高価な消費財、そして医療品として使用されていたという見解が有力視されています。
いくら裕福でも常食できない贅沢品だった香辛料です。宴会や客人をもてなすときに、料理と一緒に香辛料が使われたとされています。また、ふんだんに香辛料が使われることで、自らの財力をアピールする有効な手段でもあったようです。
肉、魚、スープ、甘い料理、さらにはワインの風味づけに至るまで、中世の美食にはスパイスがつきものであり、うま味を引き出すと信じられていました。
香辛料から砂糖へ
18世紀には、香辛料よりも砂糖のほうが圧倒的に重要な食品になっていました。薬として、料理のソースの原料として使用されていました。近世に入ると、砂糖は贅沢品から必需品へと変わっていきます。
料理の味がわからなくなるほどの香辛料を使われていましたが、食材を活かした味わいのほうが好まれるようになり、17世紀くらいから肉や魚に砂糖が使われるようになりました。
また、砂糖は、アジアや新世界から商人によてもたらされた紅茶、コーヒー、チョコレートを甘くするのに欠かせないものです。アメリカ、イングランドの砂糖の消費量は劇的に増えたことが知られています。