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目次
書籍情報
眠っている間に体の中で何が起こっているのか
西多昌規
早稲田大学教授、早稲田大学睡眠研究所所長、精神科医。
専門は睡眠医学、精神医学、身体運動とメンタルヘルス、アスリートのメンタルケア。
草思社
- 第1章 睡眠・生体リズムの基礎
- 睡眠段階 ノンレム睡眠とレム睡眠
- 睡眠はどこから生まれるのか? 睡眠中枢の話
- 覚醒を制御するオレキシン 覚醒と睡眠のコントローラー
- 朝の光を視交叉上核がキャッチして、交感神経を刺激する
- 眠りのホルモン? 謎の多いメラトニン
- 深部体温でわかる生体リズム
- 徹夜明けなのに眠りが浅いのはなぜ?
- 睡眠中に活動が低くなる交感神経、活発になる副交感神経
- コラム 睡眠中の寝返りは少ないほうがいい?
- 第2章 眠っている間に内分泌系では何が起こっているのか
- 内分泌系にとって睡眠はなぜ重要なのか
- 内分泌系の基礎 ホルモンとは何か
- ホルモンの24時間リズム多種多様
- 成長ホルモン「寝る子は育つ」は正しい?
- コルチゾル 夜中に喘息発作が多いわけ
- 甲状腺ホルモン 寝不足でギラギラしてくるわけ
- 性ホルモン 不妊や月経前症候群は夜のホルモンが不安定になるため
- ブドウ糖代謝 睡眠中に血糖値は上がる?
- 食欲と睡眠 睡眠不足だと太りやすくなる
- ミネラル調節 寝不足は脱水になりやすい
- 第3章 眠っている間に免疫系では何が起こっているのか
- なぜ風邪をひくと眠くなるのか
- 免疫とは? 病原体から身を守る免疫、そして睡眠
- 睡眠不足だと風邪をひきやすくなるのは本当?
- 風邪や肺炎、膀胱炎 炎症反応って何? 急性炎症について
- 細胞間のSNS? サイトカイン
- 睡眠を生じさせるサイトカイン
- 風邪をひくと眠くなるが、睡眠は悪化する
- 睡眠不足によって機能低下するサイトカイン
- がんやうつ病も炎症から? 慢性炎症の怖さと睡眠不足
- コラム 炎症と鎮痛薬、睡眠物質プロスタグランジン
- 第4章 眠っている間に消化器系では何が起こっているのか
- 寝る前に食べるとなぜ悪いのか
- 睡眠中の胃腸の動きと自律神経 朝にお腹が減るのはなぜ?
- 睡眠中は、胃に入った物が逆流しやすい
- 睡眠前半での胃の危機的状況
- 睡眠中も休まないはたらき者の小腸
- 大腸、肛門と睡眠 眠っている間に便が出ない精巧なメカニズム
- 睡眠中に胸焼けが起こる逆流性食道炎 睡眠時無呼吸症候群との意外な関係
- 過敏性腸症候群と睡眠障害との悪いサイクル
- 頑固な便秘「慢性便秘症」と睡眠 女性は寝すぎると便秘になりやすい
- 第5章 眠っている間に呼吸器系では何が起こっているのか
- 眠っている間の呼吸は不安定
- 眠っている間の呼吸筋の力は低下する
- 低酸素への反応も、睡眠中に鈍くなる
- 息苦しいと目覚めてしまうわけ
- 睡眠中はのどの空気の通り道がつぶれやすくなる
- 睡眠中は、肺での換気効率も悪くなる
- 睡眠時無呼吸症候群 頻度、症状、合併症
- 無呼吸はどうして人体に悪いのか① 交感神経系の過剰活動
- 無呼吸はどうして人体に悪いのか② 低酸素状態
- 第6章 眠っている間に循環器系では何が起こっているのか
- 日本人の3分の1が高血圧
- 慢性的な睡眠不足では血圧は上昇する
- ノンレム睡眠中に血圧が下がるメカニズム
- レム睡眠中に血圧が不安定になるわけ
- 睡眠中も血圧が下がらない危険なノン・ディッパーとは
- オレキシン 隠れた睡眠中の血圧ペースメーカー
- 第7章 眠っている間に脳神経系では何が起こっているのか
- 眠っている間の記憶の整理と忘却
- ノンレム睡眠中に素早く、かつゆっくり「振動」する脳
- ノンレム睡眠中に「洗浄」される脳
- レム睡眠中に血流が増加する脳
- レム睡眠で脳波は大人でも成長する?
- 睡眠中に活動を停止するドーパミンやセロトニン
- 夢見る脳
- 睡眠不足で老化する脳
- 第8章 眠っている間に筋骨格系では何が起こっているのか
- リカバリーとしての睡眠① 筋トレと睡眠
- 睡眠中に強化される筋肉
- 睡眠不足で壊れる筋肉
- リカバリーとしての睡眠② 骨折と睡眠
- 睡眠で生まれ変わる骨
- 睡眠不足で壊れる骨
- 炎症は骨も筋肉も弱めてしまう
- 骨を強化する意外な立役者 レプチンと自律神経
- 第9章 眠っている間に泌尿器系では何が起こっているのか
- 睡眠中にトイレの回数が減る理由
- 子どもの夜尿症の原因は?
- 歳をとると困る夜間頻尿の3つの原因
- 睡眠不足で尿量が増える?
- 睡眠時無呼吸症候群と夜間頻尿の深い関係
- 妊娠中の夜間頻尿 がまんのし過ぎは、尿路感染症になりやすい
- 第10章 眠っている間に皮膚では何が起こっているのか
- 美肌には「ゴールデンタイム」だけで十分なのか
- 皮膚の構造とターンオーバー
- 成長ホルモンは皮膚のどこにはたらくのか
- たるみ、シワ、乾燥、シミ……睡眠不足による皮膚ダメージ
- 寝不足の皮膚の血流低下と目の下の「クマ」
- 皮膚の酸化ストレスと睡眠
- 朝起きたら顔がむくむ、寝相が悪いとシワが増える
- 寝不足による見た目の劣化で社会から孤立する
- おわりに
書籍紹介
本書は、睡眠が人体に与える影響について詳細に解説した一冊です。睡眠はただ休息を取るためだけではなく、身体の様々なシステムが積極的に働き、健康を維持・向上させる重要な時間であることが明らかにされています。
概要
まず、睡眠の基本的なメカニズムと生体リズムについて説明します。なぜ睡眠が必要なのか、どのように睡眠サイクルが形成されるのか、といった点が科学的に解説されています。そこから内分泌系で睡眠とホルモンの関係性を解き明かし、免疫系との関連を説明することで病気と睡眠の関わりが分かるようになっています。
さらに、消化器系、呼吸器系、循環器系など、各身体系が睡眠中にどのような活動を行っているか、また睡眠不足がこれらのシステムにどのようなダメージを与えるのかが、世界中の研究結果を基に詳しく検証されています。著者の西多昌規氏は日本の睡眠研究の第一人者であり、自身の専門知識と経験、そして多数の研究を参照しながら、睡眠の重要性を多角的に解き明かしています。
寝よう。
睡眠という日々の行為が、実は私たちの健康や生活にどれほど深く関わっているかを理解するために非常に有用です。読者にとって、睡眠をより大切にするきっかけとなることでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
徹夜明けなのに眠りが浅いのはなぜ?
1982年に薬理学者アレクサンダー・ボルシェイが提唱した「2-プロセスモデル」という考え方があります。これは、睡眠不足と生体リズムのバランスから人間の覚醒と睡眠が決まるというものです。
睡眠不足が蓄積すると、眠くなりますが、寝れば眠気が晴れるという単純なものではありません。徹夜明けに寝ると、中途半端な時間で目覚めてしまったり、その後もなかなか眠れなかったり、日常の夜の睡眠とは異なる感覚があります。
朝になると、生体リズムが脳と体を覚醒させようとするため、睡眠不足の状態でも眠りが浅くなります。
風邪をひくと眠くなるが、睡眠は悪化する
風邪ウイルスをわざと感染させて睡眠を調べた危険な研究では、風邪で伏せているときの総睡眠時間が短くなり、睡眠効率が悪くなるという結果が得られています。
風邪をひくとだるくなって眠くなりますが、元気な時のような満足度の高い睡眠はとれないようです。深夜の睡眠中は低い体温であるのが健康なときですが、寝ている間も高い体温で維持されてしまうことは、睡眠にとってマイナス要因となっています。病原菌の退治をしているときは、ぐっすり快眠どころではないということです。
T細胞はリンパ球の60%以上を占めています。マクロファージから病原菌の情報を受け取り、ヘルパーT細胞は他の免疫細胞の働きを助け、キラーT細胞は感染した細胞やがん細胞を取り除きます。睡眠不足は、このリンパ球のT細胞の増殖を低下させます。
確実に言えることは、睡眠不足は免疫力を確実に低下させるということです。
レム睡眠で脳は大人でも成長する
成人におけるニューロン新生は海馬で生じます。海馬は、記憶や学習能力をコントロールする「記憶の司令塔」です。日常の出来事や学習した情報はすべて海馬に送られ、一時的に保存されます。
海馬の情報伝達は、ニューロンの樹状突起から飛び出す「樹状突起スパイン」という、棘に似た部分で行われます。この樹状突起スパインはレム睡眠のときに形成されます。
樹状突起スパインの除去や、必要な樹状突起スパインだけを残す整理機能も、レム睡眠中に行われます。
レム睡眠中に記憶が整理または強化されるメカニズムが、細胞レベルで明らかになっています。